第129話 腸捻転しそうですけど?

 積極的に与える事をしない精霊だけど仲良くなれば友として協力もする。

 片方だけが与えるのではなく…互いに与え合う。

 等価交換が成り立てば世界は安定する。

 精霊は調和を重んじるのだ。

 もしも、このまま封印を続けるのなら人間は世界に不要の存在として滅びるしかない。

 神様もさして異論ないことだったらしい。

 けれどそこに僕が転がり込んだ。

 異世界からきた人間はこの世界の因果には関係ない。

 そうするとこのまま人間を消すのは等価交換が成り立たないことになる。

 そこでもし精霊と出会い気に入られたなら、一旦は解放を条件に人間の存在を認めよう。

 精霊と神様の間でそういうやり取りが行われた。


 召喚された勇者じゃない。

 神様にも意図したわけではない偶然。

 称号勇者のなり損ないだけど、僕はいつの間にかこの世界で人間の存亡を賭ける鍵になっていたようです。

 精霊どころか精霊王の雛の友になっていたわけですが。

 …ちょっと、すごい責任で緊張する…腸捻転しそうですけど?


 とにかく精霊を解放すれば滅亡の危機は免れるはずだ。

 その後どうなるかは人間の行い次第…それは因果応報で当然のこと。

 カインさんを助けるためには早く戻りたいけど…こっちも放置はできない。

 どっちも早くしたいけど、カインさんがどうしているか…。

 デリカ先生が、何かしてたらと思うと不安だ。

 モリーみたいに伝達できる子がいれば様子がわかるんだけど。

 そう言えばまだ位置関係もわかってないんだ、ここどこ。

 試しに精霊さんに聞いたらあっさりと答えてくれた。

「ここは閉ざされた精霊の町、ホクオウである」

「精霊の…?ホクオウって王都からはどういう位置になるんですか?」

「ああ、ずっと北になるであるな。人の国で言うと最北端とやらであるか」

 なんと最北端であったらしい。

 しかも精霊封印のため魔法的に閉じられた地域だった。

 だから精霊以外の存在はほぼ入れないしこの場所を認知できないという。

「あれ、僕は?」

「お主は異世界人であるからして効きにくい体質なのであろう」

 そうでなければ封印結界の効果で身体がバラバラになっていたとか…こわっ!


「ぎゃう?ぎゃあう」

「え、カルモがモリーみたいにやってくれるの?」

「いや、雛の貴方がするのでなくともいいはずである」

「え?シェイドさん?」

「お主、使い魔を持っているなら結界の際までならその系統の者を呼べるはずである。他の町より契約魔力の消費が多くなるであるが…また契約すればよいである」

「ぎゃうぎゃぎゃう!」

「ヤダヤダって、カルモ」

 精霊さんは王の雛を動かさせる事に反対らしいのに、カルモは自分がやりたいと言って聞かない。

 僕としてはどっちでも、って言うか友達を便利に使うみたいなのは嫌だと思う。

 でもモリーがいないところで使い魔を増やすのもなんだか裏切りっぽいし。


「ぎゅあー…ぎゃう!」

 悩んでいたらカルモがとうっ、と前転する。

「えええ!?」

「ぎゅ、これでしゃべる。カルモやれる」

「んなっ!?お、王の雛よ…そこまで」

 舌足らずの声は確かにカルモから聞こえる。

 成長、したのかな?

 五歳児ぐらいの、流暢ではないけど人の言葉で喋ってるよカルモ。

 料理が美味しかったことと魔力が美味しかったことの恩返しでもあるらしい。

 契約はしてないけどつまみ食いはしていたんだって。

 夜こっそりつまんでモリーに見つかると追いかけっこして楽しかったそうです。

 アハハ、知らなかったよ…。

「モリーない。あいしょういちばんカルモ。カルモやる」

 カルモが主張するには、今モリー以外で僕と相性が一番いいのはカルモだからやりたいんだってことらしい。

「相性って魔力?」

「…まあ、確かにそのようである。仕方ない。やんごとなき御身であるが望みのままに動かれるがよい」

 ため息と共に精霊さんの許可?も出たのでカルモに手紙を託すことにした。


 これでカインさんが無事なら、精霊さんの解放に集中できる。

 解放できれば精霊の協力も保証されて、カインさんの無実の証明もうまくいくよね?

 精霊さんの洞窟の石を少し削って板にしてそこに魔力で文字を刻んだ。

 僕は無事です、カインさんは大丈夫ですか?

 精霊を解放すること。

 デリカ先生には気をつけて、と。

 精霊に協力してもらって助けるから待ってて、と刻んでカルモに託す。

「頼んだよ、カルモ」

「ぎゅあおー!」

 元気に飛び立つカルモに、ちゃんと届きますようにと祈った。

 どうかカインさんが無事であるように。

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