第130話 カインと青い月の無い夜。
食堂トワイスの隅で彼が作ってくれた夕食を食べた。
カインの好物ばかりの食事だ。
「…っ、うまい…」
よくかんでしっかり味わって食べると服を着替え数々のマジックアクセサリーを身に着ける。性能がとんでもないがそれよりすべてが少年作の物だ、大事にしよう。
トワイスの厨房の奥が生活スペースで、二階はマリナと旦那の住居になるらしい。カインとモリーは二階奥を使わせてもらって寝ることになった。はじめは間借りするのだから一階の隅でいいと断ったのだが主を下で寝かせるなどあり得ないと固辞された。カインは主従ではあるが仲間でありたいと訴えたがそこは譲れないと二人に説得されてしまった。
二人…そう、マリナの旦那も影の者である。他にもいるが面通しはしなかった。あえて知らないことで自然な動きができる、という理由からだ。いずれこの件が落ち着いたら改めて紹介する、ということになっている。
二階の一部屋を自由に使ってくれと言われ清潔な柔らかいベッドに横になる。
今日はもう追っ手はまけた筈。明日には逃亡者として手配されるだろう。彼のお陰で証拠は揃いつつある。大丈夫、彼も生きていることはわかってる……………、もう彼は寝ているだろうか。寝床はあるだろうか。食事はとっただろうか。凍えてはいないか。雨にさらされてなどいないだろうか。
「……」
カインは再び体を起こし窓から町並みを眺める。念のため外から見えないように半身になって斜めに。あんな騒ぎがあったとは思えない静けさが夜の町を包んでいる。群青の空には三つの月が出ていた。一つは雲に隠れている…いや、目を凝らすがそこに月は三つきりしかなかった。
おかしい。
彼の世界ではひとつだけらしいがカインが生まれてからずっと、月は四つだった。青、黄、紫、赤…と四つのはずがひとつ、青い月が見えなくなっている?
「…どういう事だ?」
思わず疑問を口にしたときベッドの足元で丸くなっていたモリーがもそもそと起き出した。
「チュ、来る」
何が、と聞く前に窓に迫る影に気づいた。べたりと張り付いた影に身を引くとゆっくりと溶けるように消え、まばたきのうちに部屋の中に侵入していた。
「精霊王の雛…」
少年と友人(友竜?)になったカルモだ。
「ぎゅーあ、カインてがみ」
「ヂュー、カルモも話せるようになったか」
「話せる!?いや、手紙って…!!」
幼い子供の声で喋ったカルモに驚くが、さらにてがみと言って渡されたものに驚いた。手紙と言うが渡されたのは石板で、そこに刻まれた文字は。練習に付き合い見慣れていた彼のものだった。内容より先に触れる込められた魔力が教えてくれる。
「……………ああ…」
彼がただ生きているだけでなく連絡できる状態だと知って俺は石板を抱き締め、神に世界に感謝した。
「無事で…良かった………!」
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