第126話 迷子になったら。

 荒野で一人、ってもうなんだか懐かしささえあるんだけど。今はドラゴンのカルモもいるし。目標もはっきりしている。これからどうするか、いや、したいのかだ。僕はカインさんを助けるために王都に戻りたい。ただ場所がよくわかんないからやみくもに歩くと余計離れちゃうだろう。先ずはここが何処かと王都との位置関係を確認だね。


 僕が今いるここに目印を作って、ロープかヘンゼルとグレーテルみたいに何かを落として道がわからなくならないようにして範囲を決めて探索だ!

 目印は、地魔法で細長く蟻塚みたいな山を作ります。硬く頑丈に作ってそこに麻紐を結びつけて伸ばしつつ歩いて周辺を確認する。ついたとこでまた蟻塚もどきをつくってさっきの繰返し。こうしてみた限りじゃ代わり映えしない風景だからすぐ迷子になりそうだもん。…今正に迷子ってのは棚上げです。棚上げですよ。


 カルモは実体化したまま僕のやることを眺めていた。時々僕の頭上五十センチくらいのところに飛んでみたりしてるけど、特に手伝ったりはしてない。さすが精霊王の雛と言うべきか、カルモの周りには色んな姿の妖精が集まって挨拶のようにくるくる舞い飛んでは去っていく。その様子はファンタジーそのものって感じで和むしのんきな様子だけど、その方が落ち着く気がするのでいいと思う。ついつい焦ってしまうけど、ここは冷静に動かなきゃ却ってカインさんの足を引っ張りかねない。急がば回れで、着実に行こう。


 丁寧に探索した結果、僕が転移した地点から三十分ほど歩いたところに洞窟があった。方角がわからないけど全方向に徒歩三十分圏内には、他に特筆すべき地形の特徴もない。なのでとりあえず目印の蟻塚もどきをそのままにして、洞窟に入ってみることにした。このままだと吹きっさらしの荒野で寝るしかないもん。まあ地魔法で縦穴式住居を作れるけど、洞窟利用する方が体力魔力の温存になるからね。手のひらに光魔法で灯りを作ってかざして危険がないか気配を探るように見回しながら洞窟に入る。灯りを掲げるように手を上げるとざわ、と空気がうごめく気配がした。


 立ち止まって目を凝らすと光の届かない場所の闇がさっき入ったときより濃いように感じる。勘、みたいなものだと思うんだけど…なんとなく違う。よく見ようと光を当てようとすると嫌がるようなさざめきが聞こえた。小さな声が、たくさん。

 言ってることがはっきり言葉としてわかる訳じゃないから、雰囲気だけなんだけど。試しに光を消してみると、きゃっきゃと喜ぶような声が聞こえる。雰囲気。後ろからついてきているカルモも心なしか楽しそうだ。これはもしかして羽っ子再びか。


「…妖精さん?」

『妖精、というよりは子精霊であるかな』

 突然頭の中に響いた低い声に驚いて動きを止めた。

 この声は神様ではない…、ってことはエスパー!?

『チガウ』

 ツッコミもいい声ですね。

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