第125話 カインと影を行くもの。
ショックからようやくカインが決然とし、顔を上げると路地の薄暗がりに気配を感じた。
「…誰だ」
敵対するものなら倒してでも進むと剣を構え誰何の声を投げ。
「カイン様…」
「なっ、女将?何故…」
亭主とお揃いのようにふくふくとややぽっちゃりした体型の女性がカインの前に膝をつき、黒いフードを引き下ろし
マントを着た人影は食堂トワイスの女将だった。
その姿勢のままで懐から取り出した短剣をカインに差し出す。
「!この紋章…女将、貴女は」
「影に生きるものがご尊顔拝す無礼お許しくださいませ。私は影近衛のマリナにございます。カイン様お生まれの際より御身の護衛について参りました」
手渡された短剣の柄には王族の紋章。
王よりつけられた護衛だと示す何よりの証拠だ。
「カイン様がこの王都を去ったあの時、この身は任を解かれておりました。ですが私は、私どもは貴方をお守りしたい。例え王子でなくとも関係ないのです、カイン様」
「マリナ…」
「お戻りになられてより自主的に護衛について参りましたが…、彼の少年こそカイン様の傍に在るべき方と存じます」
「…彼がどう思っているかはわからぬが私は、俺は彼を必要としている」
生まれたときから近くにいたというマリナからそう思われて嬉しいが、彼自身の気持ちを無視できないと思いながらそう告げれば彼女はにっこりと笑った。
「なればこそ、今ひとたび影に侍ることをお許しください。この身を護衛なり探索なりとお使いくださいませ。カイン様のお役に立つことこそ我らが喜びにございます」
元王族の影とはいえ今は一般人だろうと躊躇したが晴れやかな顔で喜びと言いきられては断れない。
何より今は信じられる人手が欲しいところだ。
「許す。俺と俺の…唯一のためその身を捧げよ」
王子の立場を返上しようとしているのだから本来こちらから頼みたい程なのだが、彼女らの思いを受け止めあえて上位として許すと伝える。
さらに彼を唯一とする旨、暗に告げておく。
一歩間違えば弱味になりかねない、守るべき存在。
だが裏を返せば傍に在るなら最高に強くなれる唯一無二の人なのだ、と。
マリナは顔をほころばせつつ王族にたいしてとる最上位の礼、膝まずいたまま胸に手を当て頭を下げて答えた。
「は。ありがたき幸せ。少年の居場所特定と共にカイン様の無実を晴らしましょう」
「ああ、頼む」
「もちろん、ですが一先ず腹ごしらえなさるとよろしいでしょう。冷める前に食べなきゃね、カイ坊や」
後半は下町食堂の女将に戻ってウィンク付きで言われて、思いもかけず増えた味方に信頼の笑みを浮かべる。
なんとも頼もしい。
「…そうしよう。店の席を借りれるか、女将?」
「旦那に開けさせるから問題ないよ。さあ、そっちのちっこいのもね」
「チュチュー」
彼の使い魔のモリーも先程までの警戒を解きふくよかなマリナの肩にのぼって元気に鳴く。
安定する幅…とか思っていないよな?
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