第八章 平凡、魔法使いになる。(封印、解放)

第124話 カインとモリー。

 合流したモリーとカインは路地裏で暫時立ち尽くす。

 誰が?飛ばされたって?

 何処かもわからない、魔方陣で…。

 いったい何が起こっているのか、カインはつかの間混乱に支配された。

「な…何が……、っいや、誰が、誰が彼を?」

「ヂュ、ジブンには見えなんだ…」

「……そう、か」

「チュー、だが主は先生と呼んでいたようや」

「先生ってまさか、デリカネーヤが…いや……」

「チュ、知っておるのか」


 彼が先生と呼んでいたとすれば動機がわからないが十中八九デリカネーヤで間違いないだろう。であればその転移魔方陣には心当たりがある。王族の緊急避難用に特別に上位貴族の一部だけが持つことを許された伝説級の魔道具があったはずだ。それを持ち出したと考えれば納得がいく。避難用であるがゆえに命の危険は無いと思いたいが、すぐにでも迎えにいきたいとも思う。

 だが場所はわからない。本当に一時しのぎの緊急避難用でしかないため避難先は無作為に選ばれる。王族なら一人きりでなく側仕えの数人は連れて移動するからな。

 それに、この国の外ということは少ないはずだが整備のしようもない古代の魔導具。どんな不具合を起こすかも知れない。安心には程遠い。せめて生存確認だけでもできればいいのだが。


「ヂュヂュー、そうや主からカインに差し入れを預かっとる」

「差し入れ…?」

 モリーが体を揺すって見せ、その短い手足にたいしてやや長い胴にくくりつけられた袋に気がついた。小さな袋をはずして開けると中は洞穴のようにぽっかり空洞に見える。どうやら彼が亜空間収納にしたらしいと悟って無造作に手を入れると明らかに袋の見た目より深く腕が飲み込まれる。すぐに簡単な包みに触れたので包みを引き出した。


 布包みは二つ。ひとつは食事。まだ湯気がたつ夕飯に胸が熱くなる。もうひとつには着替えや魔道具が入っていた。

 魔導具についてはモリーに聞くたび自重は消えてなくなったのかと頭を抱えたくなったが、事態を考えれば仕方なかったのかもしれない。

 モリーに託して俺に渡された魔道具の数々を見れば彼の焦燥が伝わってくる。

 彼の心のこもったものたちが俺に教えてくれていた。

 いかに彼が俺を心配してくれたか。

 そして、魔道具と服の中にあったペンダントを見つけたとき。

「………っ!!」

 俺は歯を食いしばり涙を耐えなければならなかった。


 ペンダントは見たことの無い片翼の形状に魔導石と小さな魔石のはまったものだ。だがその魔石には見覚えがある。貴族街の魔石屋で選んだ無属性の小石。

 彼はわかっていてつけたのだろうか。

 何の変鉄もない石だけれどカットが美しく光を反射する様が彼の髪色に似ていると思って俺が選んだことを。

「……無事でいてくれ……。必ず行くから…っ、!?」

 呟いてそっと額に押し当てたその時、ペンダントの魔石がふわりと微かに透明な光をまとった。


「光が…?」

「チュ、これは…っ、プキュー!主である!主の魔力の匂いや!」

「彼の?じゃあ…」

「チュー!主は生きとるんや!」

「ああ…!」

 祈ったこともない神に感謝を捧げたくなった。

 ペンダントに口づけを落とし、今度は耐えきれず涙をこぼす。

「ヂュヂュヂュ!しっかりしぃ、カイン!主を迎えに行くで!」

 同時に落ち込みから回復した彼の小さな使い魔に叱咤されて決意を新たにする。

「……そうだな。ああ、しっかりしなければ。無実を証明して堂々と迎えに行こう」

 今度こそ俺が助ける、そして二度と離しはしないと。

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