第123話 待っていて。

 亜空間収納からあるものをそっと取り出しぎゅっと握る。

 ずっと地面を殴り続けて血の滲んだ手の中には、魔石がはまったマジックアクセサリー。

 小さなくず石だけどきらきら、無色透明に光っている。

 王都の店で買った小さな無属性の石だ。

 カインさんとお揃いにしたお守りにつけるために加工した、魔導石のおまけみたいなもの。

 ちっぽけな石ころだけど、カインさんと歩いた思い出の欠片だ。

 確かにここにある。

 ちゃんと手の中にある。

 自らの存在を主張するように、強く光がまたたく。

 僕とカインさんの見えない心の、欠片。


 僕は………、僕は、カインさんを助けたい。

 この恋を叶えられなくたって構わない。

 傷ついても、離れても、怖くても………もう一度。

 自分の心の底からの本音は、望みは。


 自分を偽って誤魔化すのはもう止める。

 本当に心からしたいことをしよう。


 僕がカインさんを好きだから。

 もう一度、会いたい。

 だから………助けるんだ!



 僕は、涙を拭って立ちあがり服についた汚れを生活魔法クリーンで払ってきれいにした。

 まず装備。

 服とマント、武器の魔拳銃とナイフ。

 魔道具アイテム

 亜空間収納に入れてるからモリーに預けた差し入れ以外持ってる。

 何も失ってないし耐久も減ってない。

 ………迷いが無いとは言えないけど向かう先が定まって心の整理もついたし。

 うん、無問題もーまんたい

 デリカ先生が何を考えてこんなことをしたかはわからないけど、何と言われたところでカインさんに一度も会わずに消えるなんてできないもの。

 納得できる理由ならその時考えることにして、今はとにかく…。

「………、どうやって戻ろう?」

 うーん、モリーは王都に置いてきちゃったし。

 周りを見回すけど街や村どころか人気ひとけがなく荒れた石と砂だらけの場所だ。

 これと言って目印になりそうなものもなくて途方にくれて曇り空を見上げた。

 すると急速に大きくなるシミのような影が目に入る。

 同時に身につけたマジックアクセサリーの魔石が明滅し始めた。

 ビーコンモドキが反応してるんだ。

「あれ、なんだろ…?え、まさか」

「ぎゃうー!」

 風と土埃を撒いて降り立ったのは。

「カルモ!!」


 雲を掻き分けるように勢いよく飛んできた影はドラゴンのカルモだった。

「どうしてここに、いや、なんで僕がいるって」

「ぎゅ?ぎゃあう」

 匂いを辿って飛んできたと言われて動揺してしまう。

「えっに、匂い?僕って臭いの…?ど、どうしようカインさんも僕匂うって思われてる?」

「ぎゅあー」

「え、そう?ホントに?」

 僕はいい匂いとカルモに言われてホッとする。

 ああでもカインさんの好みとカルモの好みが違ったら…。


 懊悩はカルモの差し出した魔導具で中止した。

 盗撮盗聴の魔導具。(犯罪を推奨するものではありません)

 納められた内容は待ちに待った証拠となるものだった。

 遮蔽物の何もない荒野に地魔法で椅子テーブルを作り出し座って映像を見る。

 とある貴族の屋敷。

 会談する大物らしい人。

 交わされた密約。

 裏切った人物は。

 その目的とは。

「そう…そうだったんだ」

「ぎゅーあ」

「ありがとうカルモ」

「ぎゃう!」


 カインさんの嫌疑を晴らし、真の黒幕を断定する証拠は手に入れた。

 これで必ずカインさんを助けて見せる。

 待っていて。

 必ず行くから。



「………で、カルモ。ここどこ」

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