第120話 カインと副団長。
騎士団詰め所の中央に当たる部屋に団員に前後を挟まれて入る。
通されたのは団長執務室だった。
武器を取り上げられ丸腰だが拘束はされず執務机の前に持ってきた椅子に座らされる。
「…ご足労ありがとうございます。カイン=ナフィヨル殿下」
「シュトロムか…」
しかし出迎えた人物は騎士団長ではなくシュトロム副団長だ。
カインは落胆を禁じ得ない。
室内に入ってしまった以上この中に味方を作らねばならない。
団長なら説得の余地があると思っていたが団長以下第一部隊は出張遠征討伐中だというのだ。
国王派の団長であれば話を聞く耳くらい持ってくれそうなのだが。
いかんせんこの男は大公派で有名だった。
シュトロムはカインを眺めやり、手をひとふりする。
ルーファウス以外の四名が一礼して出ていくと躊躇ったもののルーファウスも執務室を出ていった。
二人だけになるとニヤリと嫌な笑みを浮かべたシュトロムが執務机を回ってカインの真ん前に立って座るカインを見下ろしてくる。
「殿下、大変なことをしでかしましたね」
「私には身に覚えの無いものだがな」
「いつまでしらを切れますかな?証言がたくさん上がっていますからね」
「…冤罪だから関係ない」
取り調べのような問答だが無実なのだから、意味の無いやり取りとも思える。
だが僅かでも情報が拾えればとシュトロムの言葉を聞き逃さぬよう表情に異変がないか見逃さぬよう睨むように見上げた。
「ふふ、左様で。ええそうでしょう。しかしそれでは困りますので」
「…何?」
しかし面白そうに笑うシュトロムに不審を覚える。
身構えるカインに正対したままシュトロムは剣を逆手に持つ。
「貴方には謀反の御旗を勤めてもらわねば」
「お前が…?いや、まさか…!」
証拠は貴族からの告発状だったが首謀者はシュトロムだったのか?
だがシュトロムは騎士団の参謀にも近かったが頭の切れる貴族ならもっと他にいる。
だとすればシュトロム自身もまた駒でありその後ろにつく者こそが黒幕。
そう考えて大物の可能性に思い至る。
あの御方なら確かに動機もある。
考えを目まぐるしく巡らせていると、シュトロムが剣を振った。
「ふっ!」
「な!何をするシュトロム!お前はっ」
血が滴る。
直剣と、シュトロムの左足から。
「カイン王子がご乱心遊ばされた!誰か、増援を!」
「シュトロム、貴様!」
剣を投げ捨てて叫んだシュトロムに怒りが沸き起こるが、すぐに駆け込んできた騎士に囲まれてはどうしようもない。
「カイン…?嘘だろ…」
捕まるしかないのかと諦めかけ、ルーファウスの呟きにはっとした。
気の合う友じゃない。せいぜい悪友だ。
王子の癖にその立場を利用したような騎士団への異動を快く思われなかったが当然だと思ったしその考え方は好ましいもので、正義感の強い一本芯の通った彼に敬意を持っていた。
それが信じられないとばかりの呟きを落とす程度には見てくれていたのだ。
一定の信頼を得ていたことに今になって気づいた。
このまま捕まるわけにはいかない、そう思う。
待っていると約束してくれた人だっている。
王都から逃げるように去ったときのように諦めてなるものか。
そうだ、まだ。
まだまだ足掻け!
「…俺は、無実だ!」
「カイン!」
揺らいでいた気持ちが定まり大声で宣言する、とルーファウスがはっとした顔をこちらに向けた。
「カイン殿下!」
「ぅおおおおお!」
カインはその場に落ちた直剣を拾い上げ逃亡した。
戦略的撤退を。
その後しばらく、カイン=ナフィヨル第三王子は指名手配されることになる。
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