第119話 視野狭窄と大人の思惑。

 待たせてはいけないと急いでそこらに並べていた魔道具やタリスマンを収納すると亜空間ドアから宿の部屋へと戻った。

 カインさんを助けるためなら自重をやめてなりふり構わず力を出しきる、と決意はしたけどそれで迷惑をかけるのは本意ではない(ラノベ知識による)。

 なのでそこそこの広さとは言えワンルームなので目隠しにパーティションを置いていて良かった、と内心冷や汗を拭って顔を出す。

「デリカ先生!お久しぶりです」

 相変わらず赤い長髪をきれいに撫で付けてパリッとした服を着てデキル男っぽい人だ。

 ナンオウで会ったままのナイスミドルなデリカネーヤ先生だが少しだけ疲れているように見えた。

 魔法で出した白湯を二人ぶん入れたコップを宿備え付けのミニテーブルに置くと互いに一口すする。

 温かい飲み物は落ち着くなあ。

 でもいつかお茶を手に入れたいな。

 そんな風に一息つくとデリカ先生がおもむろに口を開いた。


「ええ、落ち込んでいるかと思いましたが…元気そうで何より」

「っ、カインさんの事をご存じで…?」

 先生の口ぶりに情報の一端を垣間見た気がして身を乗り出すようにして聞く。

「………彼が第三王子であることも謀反のことも知っています」

 帰ってきた言葉に目の前が真っ赤になったような怒りに染まってしまう。

「カインさんは!謀反なんて考えていません!!」

「…わかっていますよ」

 まるで謀反が本当のことみたいな言い方にカッとしてしまった僕をデリカ先生は怒ったりせず、穏やかに受け止めてくれた。

「………すみません、僕、つい…すみません………」

「いいえ。私の言い方が悪かったのです。謀反の嫌疑ですね」

「はい。あの、本当にごめんなさい」

「いいんですよ。それだけカイン殿下を慕っているということでしょう」

「その、あの、はぃ…」

 デリカ先生の指摘に恥ずかしくて縮こまる。

 でもお陰で気まずさが薄れた。空気を読んだ大人の対応?

 うーん、こんな大人になりたい。


 白湯をまた一口飲んで少し落ち着くけどデリカ先生が何の為に来たのだろうと内心首を捻る。

 僕の様子を見るためだけに魔法部隊長が貴重な時間を割くとは思えない。

 今は謀反疑惑で忙しいはずだし。

 そう言えばデリカ先生は何でここがわかったのかな?

 王都に行くとは言ったかもしれないけど、何処に泊まるかなんて着いてから決めたのに。

「…実は伝手を頼って面会を取り付けたのでお誘いに来たのですよ」

「えっ…!?」

 王子に対する聴取だから扱いはひどくないと思ったけれどそのぶん警備も厚くてどうすれば良いかと考えてた。

 それがデリカ先生のはからいで会えるという。

 僕はさっきの疑問を忘れて単純に提案に飛び付いた。

 これを断る手はないよね!と。


「どうですか?」

「是非!会いに行きたいです!」

「では差し入れなどの準備もあるでしょうし、後で一階に来ていただくのでよろしいですか?」

「はい!ありがとうございます!」

 本当はすぐでも行けるんだけどさすがにまずいよね。

 色々まだデリカ先生に話してない秘密もある。

 空間魔法とかカインさんに相談してから…あ、いや、これからは僕だけで頑張らないと。

 でも、魔法部隊長であるデリカ先生にバレたら王都を離れられなくなりそうだもん。

 五分後に行くということで了承した。


 とりあえず必要なものは亜空間収納に入ってるのを確認。

 差し入れのご飯とお守りを買っておいた簡素な袋に入れて、肩にモリーを乗せれば準備OK!

「………チュー…」

「ん?どうしたのモリー」

 モルモなのに眉間にシワが、なんて思いながらちょいと撫でる。

「ヂュ…主、あやつ何やら思惑がありそうでジブンは気に食わぬ」

「…そう?大丈夫と思うけど…」

 言いながらドアを開けた途端足元に大きな魔方陣が出現して光を放つ。

「えっ何これ!?」

 咄嗟に袋を亜空間仕様に変えてモリーにくくりつけ魔方陣の外、ドアの内へ投げた。

「く…っモリー、差し入れをカインさんに…お願い!」

「プキューッ!?主!」

 驚いて鳴き声が変わってるけどくるくると回転してさっきまでいた部屋の中にすたっと着地したモリーにホッとする。

 直後ギュオッと光が幕のように広がり僕を飲み込む。

 幕の向こう側廊下の先に無表情のデリカ先生が姿を表して瞠目した。

「せん、せ、い?どう…して………」



「私の望み………を手に入れるために貴方は邪魔なんですよ。すみませんが、消えてください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る