第112話 降ってわいた疑惑。

おやつのような昼食のような中途半端な味巡りの後まったりしようかと宿に戻る途中、先日会ったカインさんの知り合いらしき人が現れた。

「…」

何も言わずに進行方向に立ち塞がられて戸惑う。

不機嫌な顔でむっつり黙ってるより用があるなら普通に言ったらいいのに。

「ルーファウス?」

怪訝そうなカインさんの呟きを拾ってこの人ルーファウスさんていうんだ、と思う。

そのルーファウスさんが眉間に縦ジワを刻んだまま衆目のある中で突然のたまう。


「カイン=ナフィヨル殿下、騎士団まで出頭願う」

大きな声でもなかったのに妙に頭に響く。

丁寧なようでいて強制的な言葉に僕が目を白黒させている内にルーファウスさんはカインさんを連れて行こうとしていた。

けど突然の事に素直について行くはずもない。

伸ばされた腕を避けてカインさんがルーファウスさんに尋ねた。

「何があった?」

「………殿下にはこちらの指示に従っていただきたく」

「理由を聞いている」

カインさんの強硬な態度にルーファウスさんはイラついたようにため息をついて口を開く。

「第三王子殿下に謀反の疑いありとの事」

「謀反だと…?」


謀反?王子?何が何だかわからない。

でも、良からぬ事だとだけは僕の鈍い頭でも察することができた。

「あのっ、それはいつの事なんですか?カインさんはずっと僕と一緒でしたし、昨日は貴方と会って…」

「やめなさい」

「カインさん、でも…」

「いいんだ。それより、ごめんね?黙ってて」

「え…」

「俺…私はカイン=ナフィヨル第三王子。謀反など私の預かり知らぬ事ゆえ嫌疑を晴らしに行ってくる。出来れば待っていてほしいが…」

「殿下、迎えの馬車がついております」

ルーファウスさんじゃない他の騎士が声をかけて来て言葉が途切れた。

僕は叫ぶようにカインさんへに返した。

知らないように通り過ぎる街の喧騒にも騎士たちの体にも阻まれぬように。

カインさんに。


「カインさん、待ってますから!」

「ッ…ああ、

「絶対、待ってますから。を…」

最後は掠れて聞こえなかった。きっと。

僕は王子なんて知らない。

貴族だって全然知らなかった。

だけどカインさんが謀反だなんて絶対嘘だよ。

そんな事する訳がないと思う。

待ってるといった。それはもちろん絶対。だけど、このままただぼうっとしていても仕方ないとも思う。

漠然と待つだけじゃなく、カインさんの疑いを晴らすために。

修行もして、謀反の調査もする。

魔石の調達もできてるし、モリーやカルモとの連携とかもやっておこう。

万一の時には、いざとなったら、さらって逃げてやるのだ。

カインさんを!


何せいたたまれずに日本から異世界へ逃げたような僕なのだ。

国から逃げるくらいなんて事ないさ。


一国の規模で追っ手をかけられれば苦労するに違いないのだけれど、半分以上本気であと半分くらいの冗談と空元気で僕は心の奥でこっそり決めた。

だってもう家族と、大切な人と引き離されるのは嫌だから。

自分から変えるために動くことを躊躇ためらわない、と。

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