第111話 貴き血の人。

 後で聞いたところによると大公は王の父親である現公爵の兄…つまるところ王の伯父に当たり、先代の王らしい。

 ちなみに街を治めるものが貴族位をいただいており上から公爵、伯爵、侯爵、子爵、男爵となっている。

 過去の功績あるいはその血筋により爵位は与えられる。

 身分が平民なら一代限りの騎士爵、男爵等となる。

 そして王が存命のまま退位もしくは譲位する場合、一代限りで特別に大公という地位が設けられる。

 つまり王には爵位が存在しないのだがそれは今は置いといていいだろう。


「まさか大公閣下がいらっしゃるとは…」

「カインさん、…」

 立ち上がったカインさんにさっきの震えはない。

 けど何となく顔色が悪く見えて声をかけて、考えた。

 こういうときは気分を変えよう!

 僕はカインさんの手を取って明るく笑いかける。

「えっと、カインさん!お腹が空きました。何か食べに行きましょう下町に!」

「…うん。行こうか」

 ぎこちなかったけれど笑って答えてくれたカインさんと貴族街を出て歩き出した。

 繋いだ手は少し冷たい気がしたけれど下町につく頃には暖かくなっていた。


 食堂の定食ではなく屋台のジャンクフード的なものがほしくて、カインさんとブラブラ歩いて回る。

 店の前に簡易キッチンを設置して大鍋を豪快に振る舞うところや串刺しにした謎肉の店、魔法による派手な調理を見せる店もあった。

 ナンオウやその隣のヤマでは沢山いた獣人が一人もいなくて人間ばかりなのが少し引っ掛かったけど、美味しい屋台グルメですぐに忘れてしまう。

 しかしやはり甘味は貴重らしくひとつもないようだ。

 かろうじて小さな果物を売るところもあったがとても高くて諦めた。

 さらに「甘味なんて貴族の食べ物だろう!」何て言われては…。

 くっ、いつか果物を育てる魔法でも編みだそう!


 ナンオウでは貴族に会わなかったから全然意識しなかったしこの国では身分制度は廃れつつあるらしいけど未だ各地のトップは貴族が占めている。

 今の王の考え方は血筋に地位がついてくるという古い貴族の主張より実力主義で、実際上位役職に就く者は半数が元平民の血筋なんだけど、あと半数は生来から貴族の人間だ。

 まだ王の考えが浸透しきってはいないからさっきの大公閣下のような人はとうとき血ということで優遇されたり権力を持っていたりするようだ。

 現王が実力重視の改革を進めようとしているとカインさんに教えてもらったけど、マナー?作法?も学んだ方が良いのかな。

 カインさんは最低限の礼儀ができていれば問題ないとは言うけど、一応やっておいて損はないよね。

「……じゃあこれから少しずつ教えるよ」

「カインさんが教えてくれるんですか?ありがとうございます!」

 まあナンオウは辺境らしいから今後も貴族は関係しないだろう。

 うん、カインさんの用事が済んだら早く帰ろう。


 自然に意識しないでスルッと帰ろうと思った。

 本当にナンオウがふるさとになったんだ。

 そしてカインさんと一緒にいるのが当然のような気持ちになっていた。

 それは傲慢、だったのだろうか?

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