第110話 教会と大物?
翌日一階で軽い食事をいただいて大教会を見に行くことに。
まさか観光に来てあんな大物と対峙するなんて思いもせず僕はうきうきしていた。
荘厳な大教会は貴族街の中心に建てられていた。
イタリアのドゥオモのようなオレンジの丸い屋根で窓は薄い色つきの硝子だ。
現代日本のガラスと比べれば出来は一目瞭然の違いだけれどその粗さが陽光にキラキラと輝いてとてもきれいだ。
入り口の名簿に署名するだけの手続きでお布施も志納らしい。良心的だね。
中に入るとイスラムタイルみたいなモザイクアートが出迎えてくれる。
こちらの世界の教会というものは宗教を強く進めるものではなく人々の寄り合い所のイメージが強かったんだけど、
窓の回りに飾られたモザイクアートが描く光の中には一匹の獣がいてそれが守護神だった。
だけど歴史の中で信仰は薄れていき今では忘れられている。
教会の守り人という管理人さんは入り口にいて見守ってるだけで中でガイドをしてくれたのはなんとモリーだ。
さすが長老、物識り!と誉めたら鼻息荒く髭をピコピコさせて肩でドヤ顔してるよ。
ウチの
お祈りもできるように椅子が並べられ奥の正面には簡易な祭壇がありろうそくと杯が置いてあった。
その後ろに大きな絵がかかっている。最後の晩餐くらいのおっきなやつだ。
でもその内容は全く違う。
背に負う光に対し小さな獣が空を飛んでいる。
僕には柴犬っぽく見えるんだけど。
実家のナツコにそっくりで威厳より可愛い方が強いなあ。
その下、遥か下に民衆が集まってひれ伏す様子が描かれていた。
一見するとまるでジャン○ダルクみたいだ。
でも、一人だけその獣と手を取り合う人がいる。
表情も顔立ちもわからない描写なのに何故か…僕はそれがカインさんに似てるように思えた。
「おや、先客か」
「ッ!…大公閣下」
たいこうかっか?
疑問符を飛ばしつつカインさんにならい床に膝をつく。
頭を垂れた僕たちに近づく重そうな足音。
肩の触れたカインさんが微かに震えていることに気づいた。
なんで?この人は一体…。
わからないけどそっと身じろぎして目の前の誰かに気づかれないようにしてカインさんの手に触れるように移動した。
一瞬固まった手がゆっくりと弛緩して指を強く握る。
その力強さに安心して力が抜けそうになるけど気を抜いちゃいけない相手だろうと心の中で気合いを入れ直す。
「………ほう、そなた見覚えがあるような気がするが?」
「…いえ、閣下のように高貴なお方との縁はございません…」
「……ふむ、そちらはどうか?」
「は、初めてにございます…」
急に僕に振られてビックリしたけどどうにかつたない敬語で答えた。
これで大丈夫だったかな。
「さようか…ふん。良い、楽にせよ。なに、気紛れに出向いただけの事よ。布施を施したら直ぐに退散するわい」
そう言われても、と緊張していたものの大公閣下は本当にすぐ執事に指示してお布施を教会の守り人に渡すとちらっと一瞥しただけで去っていった。
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