第101話 一人より二人で。
ラーシェイの入り口に立つとカインさん、腰が引けてる。
「大丈夫ですよ、行きましょう」
「………」
無言だけど頷いてくれたので僕はカインさんの手を引いて町の中へ進んだ。
黙々と歩いて魚屋さんが並ぶ繁華な町の中心部へ着くとカインさんをうかがう。
「…どうですか?カインさん」
呆然と回りを見回し、僕の言葉で我に返るとじわりと喜色を滲ませる。
「………平気だ。微かに感じるけどそれだけで、平気だよ!」
スゴイスゴイとカインさんは僕の頭を撫でて更に脇に手を入れて持ち上げてくるくる回った。
喜んでくれて嬉しい、んだけど往来でちょっと恥ずかしいので慌ててカインさんの腕をタップする。
「よ、良かったです。あの…カインさん、そろそろ下ろしてください…っ」
「ん?あ、ああ、ごめん。つい嬉しくて」
「いえ、喜んでもらえて良かったです!」
「………どうでもいいが、魚買わねえなら退いてくれ」
「えっ」「あっ、すいません!」
魚屋のおじさんの声で通りを塞いでしまっていたことに気づいた僕たちは慌てて謝り端に避けた。
一人でも色々見たつもりだったけれどやっぱり二人の方が視野が広がって昨日は目に入らず素通りしていったものがたくさんあると気づく。
僕だけでは忘れていた細々とした必要なものもカインさんに教わりながら更に買い足して今日こそは次の町へと歩を進めた。
砂浜側とは反対から町を抜けて
昼食のメニューを考えつつ鼻唄を歌う僕の頭の上で楽しげにモリーがリズムをとるように足踏みしている。
「…どうして、消臭魔法を?」
「え?」
それまで黙っていたカインさんに聞かれて質問の意図がわからず首をかしげた。
「どうしてわざわざ魔法開発までしてくれたんだい?」
苦笑して再び問うカインさんに僕は不思議に思って逆に問う。
「理由が必要なんでしょうか」
「…え?」
虚を突かれたように足を止めたカインさんに合わせて僕も立ち止まり振り返る。
「だって、一人で買い物してもつまんないです。カインさんがいたらもっと楽しいし、カインさんが一人で臭さに耐えて待ってるとか…僕も辛いと思ったんです」
僕一人でいたってカインさんのこと考えてるなら、一緒にいる方がずっといい。
そう思ったことをそのまんま喋ったら、カインさんが顔を覆ってしまった。
「カインさん?」
「……………ん、…ありがとう」
しばらくしてからカインさんは照れ臭そうにしながらも笑って僕の頭を優しく撫でてくれた。
「…はい。えへへ」
カインさんの優秀すぎる嗅覚を守るための魔法を作った理由をもっとちゃんと言うならば多分、単純に僕はこの言葉と笑顔が欲しかったのだ。
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