第98話 海辺でファイヤー。

 町で必要な買い物は僕が済ませて、カインさんには町からちょっと離れた海辺で野営の準備をお願いした。

 ここに長いこと居るのは無理そうだし、調理場を使えなくても魔法でどうにかできるだろうとカルモが釣った魚は亜空間に閉まっておくことにする。

 早めに離れた方がカインさんの鼻に優しいと思う。

「らっしぇい!兄ちゃん何探してんだい?」

「海鮮、かな?とりあえず」

「おお!そうかいそうかい、ラーシェイ自慢の魚を見ていきな!」

 港町らしくたくさんの魚介が山のように積み重なっている売り場を眺める。

 でっかい貝もあれば小海老の山も、変わった色のタコやら魚やらある。

 かと思えば見慣れたアジも…。

 これなら僕のレパートリーで作れるね。


「じゃあおじさん、これとこれとあとそれもください!」

「お、いい目を持ってんな?こいつはどうだい、おすすめだぜ?」

 魚屋のおじさんがそういって示したのは鯛みたいな形だけど見たことない青と緑のグラデーションの魚だ。

 鯛のつもりでいけるかな?

「それももらおっかな。全部でいくらですか?」

「そう来なくちゃな!よし、おまけして銀貨一枚銅貨二枚だ!」

 銀貨一枚が千円で銅貨一枚が百円だから千二百円か、この量ならお買い得かな。鯛モドキもおっきくて新鮮そう。

「銀貨ないからこれでいいですか?」

「き、金貨…まあいいだろ。はいよおつり銅貨八枚。兄ちゃん気軽に金貨なんか出しちゃいけねえぜ?また次ぁこまけえの持ってらっしぇい!」

「あー、ははありがとー」

 また、はどうだろ。カインさんの鼻が心配だからなあ。…魔道具作ってみようかな?


 用意していた麻袋に魚などを入れてもらい重さにふらつきながら持ち上げると店を離れて町の外へ踏み出した。

 背後にあとをつける影ふたつ。

 もう少しでカインさんが待つ野営場所、というところでさっと麻袋を亜空間に放り込むと息を呑む気配がした。

 くるっと振り向くと同時に魔拳銃で牽制の一発を放つ。

「チッ」

 舌打ちして距離を取った男は見たところ平均的な町の人の身なりと変わらないように思える。

 ただその目付きの悪さと手にした武器で善良な人間とは判断できない。

「おじさんは何者ですかね?」

 冷静に問えば苦虫を噛み潰したような渋面になる。

「…ガキのクセに…大人しく金出せば痛い目見せずに済ましてやるよ」

 だがすぐ気を取り直し偉そうに命じてきた。


「金。あー金貨がまずかったのか、仕方ないですね」

 全く崩していなかったので金貨を出したから目をつけられちゃったのか。

 このおじさん単なるチンピラだよね、このくらいで魔法とか使っちゃダメだよね。

 自分で結論付けうんうん頷いていると、何を勘違いしたのかチンピラは肩の力を抜く。

「そうそう、ガキは大人しくそうやって搾取されて…」

 僕は修行で培った素早さを活かしてチンピラさんの背後に回ると銃口を脇腹に押し付ける。

「…ッな、なななァ!?」

 多分チンピラさんの目には瞬間移動でもしたかのように映ったはず。

 残念ながらまだそこまではできないんですけど。

「おじさんこそ大人しく帰った方が身のためですよ?」

 言葉と同時にじわりと魔拳銃に魔力を込める。

 わずかに熱を持った銃口に男は悲鳴を漏らして逃げ出した。

「ヒ…、お、覚えてやがれえェ!」


「覚えてないとダメなんですかね…ねえ、そちらはどうです?」

 僕は言ってすいと視線を移した。

 もう一つの影へ。

「貴方は、何者ですか?」

「………」

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