第97話 漁師の町。
「ここぁー港の町漁師の町、
「らっしぇいらっしぇい!安くしとくよぉ、買わんかねぇー!」
活気溢れる市がすでに開かれている。
まるで年末のアメ横みたいな熱気に圧倒される。
町並みはフレンチマリン風の西洋の感じに近いのに、不思議だ。
市場を仕切る人はみんな筋骨隆々のおじさんばっかりで、たまにおじさんのだみ声の後ろで少年が手伝いをする姿がちらほらある。
何故か女性の姿が一切無いんですけど。
そのせいかマネージャーのいない運動部の部室みたいな男臭さに溢れているのですが…。
磯のカホリと汗と男臭に生魚の
町の人、いや漢たちはなんで平気なのか。本人だからか。漢だからか。
でも思わず鼻と口を手で覆って見回すと精霊王の雛であるドラゴンのカルモは平気そうだけど、モリモのモリーは僕のマントの中に隠れてるしカインさんは…あれっ。
隣を僕の歩幅に合わせて歩いてくれていたはずのカインさんがいなくて驚いて立ち止まる。
「かっ、カインさん!?大丈夫ですか…?」
「…ぐ……む………」
振り向いたらカインさんが真っ青になって涙目で鼻と口を押さえてうずくまっていて駆け寄った。
だけど呻くような声が漏れるだけで動けそうにない。
話に聞いたことがある顔の青くなる酒飲みみたいでこれはアカン、と思う。
きょろ、と辺りを見ればどこも魚をさばくために水や桶はある。
どこかで休ませてもらった方がいいよね。
「カインさん、端っこで休ませてもらいましょう。ちょっとだけ頑張ってください!」
僕より大きいカインさんをあんまり揺らさないようにと思って引っ張ったら、手伝おうと思ったのかカルモが急にカインさんを引っ張りあげた。
たぶん周りにはカルモは見えてないから突然すっくと立ち上がったカインさんがいきなりマーライオンになったように見えたと思うよ…。
うん、悪気はなかったってわかってるけどね。
さらに悪化した匂いで僕まで吐きそうになったことは言っておきたい。
思う存分というか腹にあったものをすべて吐き出したあと人の多い場所を避けて休むことにした。
吐瀉物はこっそり魔法で片付けたよ。うん、魔法って便利!
「ぐ、ふ…ぜはぁー……」
カインさんの背中を擦ってしばらくして、少し体から力が抜けたところでホッと息をつく。
「…ごめん、実は俺ヒトより鼻が利くから、ちょっと…」
「えっ、じゃあこの町カインさんには辛いんじゃないですか?」
「………本当にごめん」
「じゃあまた
「…疲れない?」
すっかり吐き戻してしまったせいか人の少ない所にいるからか顔色がちょっと良くなったみたいだけど、カインさんが申し訳無さげに眉尻を下げる。
「まだ平気ですよ?海辺で寝るとかキャンプっぽくて楽しみです」
「……キャンプ」
「遠足みたいっていうか非日常みたいだから…あ、でももちろん魔物とかいたら命懸けだし気を抜きすぎは良くないし、旅疲れが無いわけじゃないですけど。僕は旅ってあんまりしたことがないので楽しい方が強いです!」
「……そっか…」
それに、周りに人が居るより二人でいる時間が嬉しい。
ホッとした顔を見せるカインさんに僕は、喉まで出かかった言葉は呑み込んで笑って頷いた。
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