第96話 懐かしい香り。
火山を降りていくと遠くにきらきらと揺れる光が見えた。
よく目を
鼻をくすぐるのは潮の香り。
「……海!」
「うん、今度は海沿いを歩くよ。次の町は漁師の町だから魚料理が名物なんだってガザシが言ってたよ」
「楽しみです!」
降りきると所々に森の端が顔を出す街道をカインさんとドラゴンのカルモと歩いていく。
モルモのモリーも一生懸命隣を歩いてたんだけどコンパスの違いがどうしようもなくて途中からは諦めて僕の肩の上。
登山中はムサビーに乗ってたけど嫁が寂しがるからと帰っていった。
森の合間を縫うような道を抜けると強くなる潮の香りと湿気と熱気がまとわりつく。
ナンオウは常春っぽかったけどヤマの町はやや肌寒くレイクサイドの町は温暖だけど爽やかだった。
この辺りは湿潤で日本の梅雨みたいな感じだ。
少し滲み始めた汗を拭って僕は見えてきた砂浜に顔を輝かせる。
僕の家は海が近かったから懐かしい。
白くてサラサラの砂浜はきれいだけど歩くには砂に足をとられて普通の道より体力が
それでも馴染みのある感触に僕は気づくと笑顔になってた。
「楽しい?」
「はい!」
カインさんは余裕そうに歩いてる。
僕が故郷にもあったから懐かしいんだって言ったらゆっくり行こうといってくれた。
やっぱり優しくてかっこいいな、イケメンめ。
カルモは砂の感触が珍しいみたいで一歩ごとにぎゃう、ぎゅあと笑ってるみたいな声を出す。
モリーは時々砂に埋もれて、いや砂浴び?しながら歩いてる。
砂まみれのまま僕の肩の上に登ってくるから僕まで砂まみれになっちゃったよ。
でもやっぱり楽しくて僕もわざと砂を蹴りあげてみたりした。
最終的に全員が砂まみれのまま漁師の町に行くことになったけど、みんな笑顔で歩いてた。
途中カルモが魔力ですいっすいと海の水面すれすれを飛びながら、周りの妖精が指差して教えてくれる場所に尻尾を垂らして魚を釣っていたので、調理場を貸してもらえたらさばいて料理したいな。
魔物肉の解体はなかなか慣れないけど魚は日本でもさばいていたからか大丈夫みたい。
やっぱり自分と近いものがより忌避感を煽るのかな…。
これはきっとずっと解決しないこと、と思う。
だって生きるためにしなくちゃいけないものを否定したらやっていけないし、倫理観念を捨てたら人として終わるっていうか…。
折り合いをつけてやっていくしかないんだよね。
だから僕はそういう責任を負いながら倫理を忘れずきちんと生きる糧を作り出すヒトを尊敬する。
漁師の町は懐かしい潮の香りと働く
え?
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