第95話 旅の供に友一頭。

 結局ついてくることになった幼ドラゴンと僕たちは火口を覗く。

 その縁にわずかに窪みがあり、多分そこがこのドラゴンの巣なんだと思う。

「本当に僕たちについてきていいの?」

「ぎゃう!」

 幼ドラゴンはまだ幼いせいかモリーみたいに人間言語による意思疏通はできないけれど、その表情豊かな目としぐさで何となく理解できた。

 キラキラした目で僕を見てこくこくうなずくドラゴンに巣への未練は無さそうだ。

 ドラゴン自身の持ち物は巣の中にあった石がひとつだけ。

 彼(ドラゴンに性別はないらしいけどなんとなく便宜上彼と呼ぶ)にとっての外部バッテリーのような物らしい。

 これも魔導石の一種なんだってカインさんが教えてくれた。



 彼は僕を気に入って旅を共にしたいようだけど、従魔じゃなく友達感覚っぽいので契約はしていない。

 というか魔物なのかなとか失礼なこと考えたけど実はドラゴンって精霊の王なんだとか。

 そういえばちっさな羽生えた子?がドラゴンの回りを飛んでるのがちらほら見える。

 羽っ子たちはある程度魔力が強いと見える妖精らしい。

 この羽っ子たちは実体があるわけじゃなくて触れないんだけど、ドラゴンは強力な精霊力によって実体化できるんだって。

 おかげでつるつるの鱗を撫でることができる。イイ感触です。

 ドラゴンがついてきたら目立つよね?って思ったけど実体化を解除することもできるから大丈夫みたい。

 代替わりしたとは聞いてないから次代候補だろうとかなんとかカインさんが言ってたけど、よくはわからない。

 とにかく正式に名付けをすると精霊王を従えるとかとんでもないことになるので友人扱いってことで!


 なので呼び名は仮名としてつけることにする。

 今は幼体だけどきっと大人に成長すれば大きくなるに違いない。

 あの蜥蜴擬きでさえ見上げる大きさだった。

 だけどカインさんいわくこの子は本物のドラゴンなんだからもっともっと大きく成長するだろうという。

 ………う、羨ましくなんてないんだからね!

 兎に角仮名だ!どうしようかなあ…。

 僕は名付けのヒントを求めてドラゴンの特徴を探す。

 六本の角、コウモリのような翼、深い青の瞳…青い目はちょっとカインさんと似てる気がする。

 ドラゴンという強者であるからか苛烈な生存競争の野生の中にあって尚穏やかであり、幼体らしく好奇心いっぱいにきらめく幼ドラゴンの目を見て僕は考えた。

「か…か…カーム…、うーん、カルモ、カルモってどう?」

「ぎゅ?…ぎゃあうー、くるる、くるる」

 喉を鳴らして喜んでいるカルモに自然と笑みが浮かぶ。

「気に入った?じゃあカルモ、これからよろしくね!」

「ぎゃう!」

 暫定友ドラゴンはこうしてカルモに決まりました。

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