復興の街ナンオウ
魔物の強襲から一ヶ月程も後、ようやく王都から使節団が到着する。
近くの街に救援を頼む間もなく襲われたが一人の少年と街一番とも目されていた剣士によって街は救われ、物資や支援金を嘆願するため自警団の一人で足の早い者が王都へ走っていた。
遠い王都から物資などを積んだ荷馬車を率いて来るのだからそれなりに時間はかかる。
疲労を隠せない一団はやっと目的地につくがそれが魔物に襲われた街では存分に気を抜くことはできないだろうと思っていた。
しかし彼らは到着するなり街の様子に目を剥く事となった。
「…ここは本当に魔物に襲われたのか?」
「はぁ、その筈なんですが…」
使節団のお偉いさんに尋ねられた自警団の一人も目を見開き唖然としている。
通常の事ならば襲撃後の一ヶ月ほどでここまで復興が成るなどあり得ない。
事実、彼が街を出たときには街の半分が消し飛んでいたのだから。
現在使節団の前に広がっているのは、大半が更地ではあるが建て直し中の建造物が点在し、水路が巡り畑があり子供たちが遊ぶのどかだが悲壮感の無い街の姿である。
目を疑うのも無理はない。
とにもかくにも自警団本部に報告に赴かねばならない。
一団は揃って周りをキョロキョロと見ながら街の中を進んだ。
「あっ!にーちゃんだ!にーちゃん帰ってきたよガザシのおいちゃん!」
「おっと、元気だったか?ガザシ団長も!」
彼を一番に出迎えたのは隣に住んでいた仲の良い一家の一人息子、彼にとっては弟分だった。
被害状況を目視だけで確認して走り出していた彼はたった一月とはいえ懐かしい顔に会えたことを喜んだ。
「おう、よく帰ったな」
「はい!王都から使節団をお連れしました!」
「そうか。ご足労いただきありがとうございます」
「いえ、大型の魔物に襲われたと。お気遣いは無用に願います。それよりも現状の把握を」
「ではこちらへ。おい、飲み物を頼む」
「はいっ」
案内された二階の団長執務室の応接スペース、といっても国の末端の街の自警団である。
立派なものではない。
しかし長旅を敢行した身には柔らかいソファがあるだけでありがたかった。
三人掛けのソファにゆっくりと身を沈め出された白湯をすする。
茶という貴族の嗜好品などはないものの暖かいお湯が飲めるのは小さな街では破格だ。
このナンオウに貴族はいない。
管理は平民に任されていた。
まあ平民といってもあの元近衛騎士が自警団団長なのだから、安心して任せられたのだろう。
「時間が惜しいので本題を先にしましょう」
「はい。…端的に申し上げますと大蜥蜴に襲撃されましたが撃退しました」
「…貴方がですか?ガザシュットヴァルド団長」
救援要請でなく物資などの要請を受けてより疑問だったことだ。
王都の騎士団でも簡単には倒せない大型の魔物を、誰がどうやって倒したのか。
予想できた質問だったのかガザシ、ガザシュットヴァルドは苦笑して答える。
「自警団員が手を尽くして倒しましたが…今はガザシですよ、魔法部隊長デリカネーヤ殿?」
「………そうだったな。で、ガザシ?本当の事を言わんと仕事が長引くと思うのだがね…」
王都で近衛とも連携して動く魔法部隊の長である自身にとって背中を預けられる相棒であり友人だったこの男が、王都から去ったのは何年前のことだったか。
一瞬眩しくよみがえる思い出を振り払い、デリカネーヤはガザシを挑戦的に見る。
「…はっ、かなわねえな。いいだろう正直に話す。だがな、俺の大事な息子たちに余計な真似はするなよ?」
睨み返す視線がやはり衰えぬ強さを感じさせ、惜しいと思う。
だが目に写るその姿に考え直すしかなかった。
「ああ、いつの間に隻腕になったか知らないがそれでもお前を敵に回したくないからな」
「…ありがとよ」
失われた右腕の先を片腕となった左手でさする様子は悔しさはなくどこか満足そうですらある。
察するにそれは大蜥蜴にやられたのだろう名誉の負傷なのかもしれない。
しかし話の続きをしようとしてはたと思う。
彼の一人息子は既に亡い。
今は自警団の者たちが彼の息子のような存在なのだろうが…それでもここまで庇うような発言を聞いたことは無かった。
疑問の答えはとんでもないもので、デリカネーヤはかつて戦で大敗しそうになったときより遥かにひどい混乱に陥る。
「この街を救ったのはな、俺の大事な息子たちよ。カインと義息子だ」
義息子は十四歳の少年らしい。
身に備える魔力がとんでもない上に光属性。
それだけでも国史に載る大事なのだがもう一人の名が更にデリカネーヤを動揺させた。
「まさか…、出奔したあのカイン=ナフィヨル殿下だというのか…!?」
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