ラグナシアの猛威! ユウもデズモンドも死んだ
というより額に人間のような温かさを感じる。
まさか、とは思いながら目を開けたんだけど、久々に度肝を抜かれたね。
「って、なんでラグにゃんが!? 改めまして、おはよう!」
考え事をしていたせいで、寝台に腰掛け、私の額に『自らの額を当てるラグナシア』に気付かなかった。
私としたことが不覚だ。
しかも訳の解らない事を口走ってしまった。
狼狽する私とは対照的に、ラグナシアは涼しい顔をして私から額を離し寝台に座り直す。
「はい。おはようございます、エイハブ様。調子は如何ですか?」
「あぁ、最悪だ。動悸がするし目眩もするし息がきれる。ちゅうか何があったんだ? 思いだそうとすると頭が……」
「横になったままの方が宜しいですよ? もしかして『一夜を共に過ごした』ことも覚えていないのです?」
「いやはやラグにゃんも面白い事を言うようになったもんだなぁ。唯でさえ頭が痛いってのに、これ以上私を……」
熱っぽく見詰められても困るぞ。
一応は教導師と生徒の関係な訳だし。
「えぇ……まじ?」
「えぇ。とても『心地が良かった』ですよ」
やはり今朝の『アレ』は夢ではなかったのか。
明るみに出れば懲戒免職待ったなしだな。それどころか下種野郎共に命を狙われかねない。
「念の為にもう一度聞くが、私はラグナシアと……なんというか、一線を越えてしまったのか?」
「一線を? 越えた?」
私の質問に彼女は首を傾げてしまう。
「だって一夜を共に過ごしたと言うのは……」
「デズモンド様が、夜に帰宅するのは危ないからと私たちを学園に泊めてくださったのですよ」
「まじか……あの二人も泊まっていたのか」
「はい。夜中まで仲良く騒いでいましたよ」
イタズラっ子のような笑顔で彼女はそう言ってのける。
「全く記憶がない。学園に戻ってユウたちと食事をした所で記憶が途切れているんだ」
「あら、そうでしたか。そのあとエイハブ様は、デズモンド様と早飲み対決をしたのですよ」
そんな馬鹿なことを私は仕出かしていたのか。
「ほら、デズモンド様が見つけていた謎の『水溶液』ですよ? もう本当に……」
『水溶液』
その一言により、微かに記憶が蘇った。
聖域内の楽屋で別れた後、無事に学園へと戻っていた二人は、私とラグナシアが戻るまでの暇潰しにと二階の空き教室を探索していたらしく、私が『捨て忘れていたソレ』を発掘していたのだ。
私の生徒が居るというのに、あんなものを引っ張り出してくるとは……あの寄せ鍋頭野郎は全く。
なんとかユウとラグナシアを誤魔化して、酒と偽り『処分』できたから良いものを……これからは直ぐに流さなければな。
「……に、一緒に入って、エイハブ様をパジャマに着替えさせて寝床に入ったという訳です」
「それだけか? 私はラグナシアに『何も』しなかったか?」
「はい。そのまま朝まで夢の中でしたね」
南無三宝、勘違いだったか。
肩の荷は下りたが、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「頭を抱えて、本当に大丈夫ですか? お顔が真っ赤ですけど。二日酔いが酷いなら、今日は休校にして御休みなさった方が宜しいかもですね」
「いや、ラグナシアとユウに迷惑をかける訳には……」
言いながら起き上がろうとしたのだが、全身が悲鳴を上げ、上半身を起こすだけで精一杯だ。
支えにした左手は痙攣し、それに伴い目眩が甚だしくなる。
「もう、無理を為さらないでください。そのような状態で教えられても私たちが困ります。休校にしないなら、私は前の学校に戻らせてもらいますからね」
ラグナシアは眉をひそめて、震える私の背に優しく手を添えてくれる。
そんな彼女の気遣いに、つい笑みがこぼれてしまう。
「負けたよ。今日は休ませてもらう。今日の講義内容を考えただけで頭が割れそうだしな」
そうと決まればユウに通知しなければな――
――ラグナシアの助けを借りて、なんとか書き上げたが体調不良のせいで文字が『万葉仮名』のようにヘンテコになってしまった。まるで『暗号』だ。
書き上げた文は私自身でも読めない程に杜撰だ……まぁあの子ならどうにかするだろう。
「頼んだよ、ラグナシア」
「この『指令書』はお任せください! 不肖ながら努力致します!」
ラグナシア……指令書ではないのだ。字が汚いだけなんだよ。
その事を伝える前に、彼女は隙のない敬礼をし、校長室から元気良く飛び出していくのであった。
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