さらば教官! 永遠に眠れ
――雷神トールが頭の中で暴れているような激しい頭痛により意識が徐々に覚醒する。
安物の寝台でも私には大き過ぎるのだが、敷布団と毛布と枕は聖域から『無断で拝借している』中々の上物なので心地が良い。羽毛さまさまだ。
しかし、なにか違和感がある。
いつもより心地が良いというか……例えるなら『抱きしめられている』ような、人間的温もりを感じると言ったところか。
「ふむ……」
謎の頭痛も伴い、頭の中で霧が発生したかのように思考が上手く回らない。
きっと私は幻覚を見ているだけなのだ。
ラグナシアと思われる、可愛らしい小さな寝息が聞こえるが、きっと気のせいだろう。
きっと私は幻聴が聞こえているだけなのだ。
……もう一眠りするか――
――それ見たことか!やはり幻だったではないか!
再び目を開けると、見慣れた『みすぼらしい』天井が見え、なんだか安心してしまう。
誰かの『抜け殻』が横に居て、
まぁそれは良いとして……頭痛いし喉乾くし胸がムカつくし頭痛いし目眩がするし体が震えるし頭痛い。
一体私はどうなっているのだ?
そして、ここは本当に学園なのか?
寝心地と天井からして、私の寝室のようだが……
第一になぜ私は『横に』なっているのだ?
念の為もう少し状況を確認しよう。
頭を少し傾けると古ぼけた鶏時計が年期の入った壁に掛かってることを確認した。どうやら今は『月曜日の七時』らしい。
その壁掛け時計の下にある、私より少し背の低い
ここは私が寝室として使用している学園の校長室で間違いない。
横になっている私の頭上にあるカーテンの隙間からは淡い陽光が顔面に降り注ぎ、まるで嫌がらせのように感じる。
麗らかな陽射しが、絶不調の私には非常に恨めしい。
「状況確認はできた訳だが……」
新たな疑問が痛みと共に湧いてきた。
私はいつの間に寝巻きに着替えたのだろう?
後夜祭の後、ラグナシアに背負われて学園に帰宅し、皆で『鶏の唐揚げ』や『あんず飴』等を食べた所までは覚えている。
「なるほど、うまく言えんが何かおかしい」
不可解な状況に、つい心の声を呟いてしまった。
……それはそうと頭が馬鹿に痛い。
この前の研修でユウと激突した時とは比べ物にならない程に酷く痛む。
こめかみに当てた左手のブレスレットが目に映る。モルガン石が太陽光を反射して眩しい。
「
デズモンドの話によると母親に良く似て、聡明で優しい、天使のような少女に育ったとか。
過酷な運命に抗う、生きることを諦めない強い意志を受け継いでいるとも……
身につまされて涙が溢れそうだ。
居た堪れなくなり目を閉じ、歯を食いしばってしまう。
郁美に会いたい。
会って謝りたい。
『何も出来なくて悪かった。助けることが出来なくて悪かった』と。
彼女は私に何と言うのだろうか。
「エイハブ様、気がつきましたか?」
と言ってくれるのだろうか?
果たして郁美は私を許してくれるのだろうか。きっと……
「熱は……下げたほうが良いかもですね」
と言うかもしれない。だとしたら私は熱を下げたほうが……
下げたほうが? 幻聴か?
今の濁った私の頭では、現実かどうかの判断がつかないのであった。
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