第21話

 22時20分。を示した銀縁の丸時計。

 電気を消したくらい教室で、革靴のまま席に着き彼女を待つ。昼間の明るい雰囲気とは違い、暗い教室は月光のみが光源で、どこか飲み込まれそうな雰囲気があった。


 今日は彼女、玉葛友菊の月命日だ。だったら現れるだろう、彼女は。彼女たちが笑い会った教室に。3人目の犠牲者を出すために。最後の、復讐のために。


 がらりと前の扉が無遠慮に開かれる。おおきな灯油ストーブにさえぎられながらも、さやかな月光の中、それだけを頼りに見たぼくの目に映っていたのは、息を荒げ、肩を大きく上下に揺らす彼だった。


「なんで!?」

「なんではこっちのセリフだ! なんだよあのうわさは! あれなら、あれなら犯人は!」

「・・・いいからはやく」

「おい!」


 ずるりずるりとかすかに聞こえる衣ずれに、ぼくは急いで席を立つと、机の波をかきわける。彼の元へ行くと彼を引っ張り、ぼくの席まで引きづった時に、それは現れた。


 黒いローブともいえる長い布、その布と同じフードを目深に被った小柄な人影。クラスメイトたち、生徒たちからは魔女と呼ばれているだろう存在だった。


 ずるりずるりとその長い布を引きずってぼくの席の前、委員長の席に来る。するりと白い指を机の椅子に絡ませ、突然ぼくたちに向かってそれを投げた。


「はぁ!?」

「屈んで!」


 ぶおんと音を立てて飛んできた椅子は、がしゃぁん! と轟音を響かせ窓ガラスをぶち抜き、外に飛んでいった。

 彼女を振り返ると、今度は机を持ち上げて、彼に向かって投げつけるところだった。


 彼が横に転がることで間一髪よけ、彼はそのまま彼女に向かっていった。ガラスを被った顔はところどころ血まみれで、彼の白いパーカーを汚していた。


「やめろ! 乙音」

「・・・違う」

「は?」

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う、違うよ。トモでしょ?私、玉葛友菊だもん。オトじゃないの。あの裏切り者とは違うの」


 次第に高調していく声は涙を含んでいた。

 だから、と区切った彼女は掴みかかってきた彼の首もとを掴み、上へと持ち上げる。彼には一切の抵抗を許さないそれは容易に身体を宙に浮かせた。ものすごい怪力だった。ぎりぎりと首が絞まる音が聞こえ、彼が苦しそうにうめく。


「ぐっ・・・」

「邪魔しないでよぉぉぉぉ!」


 そのまま、思いっきり彼を自分の足元の床めがけて振り落とした。遠目から見るに何とか頭をかばった彼は、しかしろくな受身も取れず、そのまま気絶してしまったようで、ぴくりとも動かなかった。

 

 もし打ち所が悪かったら・・・さぁと血の気が引いていくのがわかる。


「君!」


 急いで駆け寄る。気絶はしていても大きな怪我はなかったみたいだった。

 彼を投げた彼女をにらみつけると、彼を投げた風圧と腕を振り上げたことによって彼女の顔を隠していたフードが取れた。


 赤縁メガネにふわふわとした肩までの猫っ毛、健康的な白い肌に小さな桃色の唇。美しいではなく可愛らしいと表現されるような顔立ち。

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