第20話

咎守終焉とがもりおわり。俺の代で咎が終わるようにと付けられた名前だ」

「咎って言うのは?」

「・・・好意を。恋愛感情を持った相手の精神を狂わす」

「だから君は、僕に目のことを聞いたのか」

「咎が解けるかもしれねぇと思ってな」

「・・・委員長、大丈夫かい?」

「だからいっつも見張ってんだろ。それにできるだけ感情動かさないようにして、規則正しい生活をしていれば少しは抑えられるんだ」

「小学生みたいな?」

「・・・まあ、近いか。何時に起床、食事、帰宅、就寝、禊って決まってんだ」

「だから18時ろくじまで帰れないんだね」


 規則正しくな。ともう一度言って、嘲笑を浮かべた彼は、どこまでも自分を呪っているようだった。


 君が悪いわけじゃない、生まれたところが悪かった。そういう言い方もできるのだろうけれど。嘲笑してなお、家族にはそれを向けない彼は家族を大切に思っているのだろう。


 でもまあ、いいことを聞いた。18時ろくじ。それから彼は学校には来れない。この時間以降、できれば今日、全てを終わらせよう。


「話は変わるけど、君魔女のうわさって知ってる?」

「あ? 知らん。なんだそれ」

「この話を委員長と話したことは?」

「一回もねえ」

「そっか」


 ちょっとお茶買って来るねと手を上げると、軽く振りかえしてくれた。

 そうして重い鉄の扉を開き、それが閉じる寸前に思い出して、彼に告げた。


「ぼくの名前は全てが終わってから教えるね」

「は?」


 唖然とした彼を残したまま、パタンと案外軽い音を立てて扉は閉まった。


 


 2階まで降りて、自動販売機でお茶を買う。ごとんと落ちてきたそれは350mlのアルミ缶。今度は飲まれても大丈夫なように大きいものを買った。


 友達ってこんな心配しなくちゃいけないんだなあと思いながら、屋上へと上る。


 鉄扉の向こう、彼はむっつりとした顔でぼくを見ると、ふてくされたように口を開いた。ちなみに、横につまれていたパンの山はなくなっていた。


「絶対教えろよ」

「うん」

「そういや、あんた。ここでの仕事が終わったらどうすんだよ」

「また次の仕事に向かうよ」

「そうか、また会えるといいな」

「ちょっと難しいかな?」

「は? なんで」

「だってぼく、14歳だもの」

「・・・はああああー!?」


 絶叫が屋上に響き渡った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る