第18話

 ぶつりとパソコンをシャットダウンさせて、足で青いカーペットを押し、椅子を引く。安っぽいつくりのそれがぎしぃと鳴くのも気にせず、そのままふらふらとベッドに倒れこむ。こちらも悲鳴を上げたが、いつものことなので気にしない。

 

 ふとクローゼットが目に入って、家に帰ってから気づいた。彼がふざけてぼくの右ポケットに入れた黒い包みがなくなっていることに。


きっとあの魔女が、持って行ったのだろう。


 蛍光灯のついていない、暗い天井を見上げる。開けたままだったカーテンから入る月光でも、案外天井の染みの数まで細かく見えるものだった。


 半年前の女子生徒死亡。そもそも何故彼女は夜の学校に忍び込んだのか。いじめられていた。・・・呼び出されたのか? なら行くものか。ぼくなら行かない。男ならともかく、女の子が危ないなんてぼくにもわかる。委員長と仲が良かった? もし、彼女を盾にとられたなら・・・行くだろう、きっと。そうして彼女は、そうか、逃げたのか。嘘だと知り逃げ回って、あそこにたどり着いた。でもそれは追い詰められたのと同義語で。最後の手段として、彼女は飛び降りたんだ。


 そして、彼女が死んで悲しいのは誰だ? もし、自分を盾にしていたと知ったら相手を恨むのは・・・。それだけじゃない。彼女は彼を『トモ』と呼んでいた。親しみ深く、まるで長い時間一緒にいたみたいに。

でも彼が来たのは半年前。そんな短時間で形成されるものか、あのまなざしは。


そうだ、最初、彼をかばったときに感じた違和感。あれは・・・そう、まるで女友達にするみたいにかばったからだ。だからおかしいと思った。灯と友菊、同じ『トモ』。もしかしたら彼女は・・・


 つらつらと考え始めた思考の波に愕然とする。じゃあ彼は、ただの代わりなのか。代役でしかないのか。彼女の愛する親友、玉葛友菊の。


 彼女の前でのみ笑顔を見せる彼。ちょっと話していただけのぼくに、嫉妬の視線を投げる彼。表情から、態度から、好意を感じ取れるほど、きっと彼女を好いている彼。


「それが、代わり・・・?」


 あってはいけないはずだ。そんなことは。

 自分が思っているよりも低く出た声は暗い部屋の中、闇に解けて消えていった。

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