第14話

「俺もそう思う。っつか俺、あんたのこともう友達だと思ってたわ」

「は?」

「だってさあんた、企業秘密、教えてくだろ? 俺が情けない面してたから」


 滑稽なくらいさ。嘲りを含んだ彼の声に振りかえると、嘲笑を浮かべて立っていた。他の誰でもない、自分への嘲笑に顔を歪ませて。小さく握られた手は、かすかに震えていた。


「肝心なことは、教えてないよ」

「それでも俺にとって重要なところは聞けた」


 だからいいんだと言う彼は、こともなげに無表情を装備して、ぼくの肩を軽くつかみ押しのけると、ゆっくりとロフトへと上がっていった。

 呆然とその後姿を目で追いながら、今度は足で追いかける。もし、仕事に関するものが出てきたとして、彼にいじられるわけにはいかない。

 ぼくの人生においての友達という存在に浮かれた足取りは、どこか軽かった。


「これって何の意味があるんだ?」

「さ?本像を置き忘れたか持ち去られたのかはわからないけれど、意味はないんじゃないかな」

「なぁんつーか・・・無様?」

「言いえて妙だね」


 銀白の階段を昇り切ると、視界は一転。深紅へと変化した。


 固く薄い赤い絨毯、天井も、何かわからない抽象的な絵がかかった壁も、一面赤で塗られていて。天井には、天井の約半分ほどもある大きさの窓は手が容易く届くほどに近くにあったが、その窓のガラスも赤いため、そこから降ってくる光も赤。その中で唯一、元は純白なのだろう。

 この部屋の中の赤いガラスで薄赤に染まっているそれを見て、彼は呆れたように言った。


置かれるべき像のない、台座を見て。


「っつーか気持ち悪いな。血の海みてぇ」

「なんていうか、まさに紅白って感じ」

「それな」


 ぽんぽんと弾む会話は心地よくて、これが友達というやつなのかと感動した。片瀬みたいに遠慮がないわけじゃないけど、ちょうどいい距離感が良かった。

 

そんなことを思いつつも、目では細かくこの場を見ていく。不審なものはないか、あるとすれば台座だが、これは後で依頼人に確認すればいい。気になるとすれば窓の鍵が開いているくらいか。そもそもこの赤の中じゃ血の跡なんてあってもわからないし、小さな汚れも知覚できやしない。


 じっくり調べればいいが、彼がそばにいる限りそれも出来ない。あまり何をしているか知られたくはない。ここに来た理由も。もし気になることがあれば、またあとで来ればいいか。

 

 つらつらと考えているといつの間にかうつむいていたぼくに、彼は心配をにじませた声で話しかけてくる。


「あんた、大丈夫か?」

「え、あ、うん。大丈夫だよ。なんともない」

「そう・・・か?ならいいけど」


 戻ろうぜ、もうなにもなさそうだし。そう言って彼はぼくに背を向け、階段を降り始めた。かつんかつんと靴音が響く階段に、ぼくはあわててついていった。

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