第11話
今日はテスト集計会議の日ということで、午後には放課後とあいなった。
HR中ざわめいた教室で、こんなのは初めてだとぼくの斜め前に座る彼にぼくの前に座る委員長が話しかけていた。
(つまり、これはぼくに時間を作ってやるから調査しろと言っているのかな)
そう判断した。ちなみに、窓側の一番端に座る僕の右隣の子は教室登校拒否らしく、保健室登校というものをしているようだ。もし仕事中に来られたら困るから、一度会いに行くべきか否かを軽く迷っている。
委員長と呼ばれた僕の前の席に座る彼女は時々会いに行っているみたいだけれど、ついていくのも相手の精神上にあまり好ましくないだろう。
僕の転校によって、開かれた先生合わせて218人しかいない全校集会にも来ていなかった。この学校中の人たちみたいに全校集会で挨拶した時にこの目を見せられたなら便利だったのに。
ブナやカシといった木々が生い茂り、鬱蒼とした印象の中庭を突き抜けて校舎の裏手に向かう。そこで見つけた草の上に出来ているおかしな獣道を歩きながら辺りに目を配る。
ここは学校で、放し飼いにされているのはいいとこ小さな池にいる錦鯉くらいなものだ。地面に足をつけて歩くような動物の飼育はされていないし許可もされていない。
(人間を飼育しているともいえるかもしれないけれどさ)
嘲笑が口元をゆがめる。
まぁ、こちらが許可せずに住み着いてしまった動物というものもいるかも知れないが、それならば彼らは駆除を命じるだろうし獣道が形成されるような数、もしくは大きさに気づかないはずがない。そもそも獣道と言われるにはこれは広すぎる。
だからこの道が獣道なわけがない。つまり、これは人為的に踏み倒された草よって出来ている、ということだ。誰かが、作った道。大体、新芽が出だすこの季節にほとんど変化もないとはおかしい。
実際、道の所々に出かけたものの踏み潰されてしまったつくしがあった。つまり、ここはつい最近まで使われていたことになる。そもそも、草が起き上がりかけているところと踏み荒らされていないつくしが生えている所を見るに、3~4ヶ月以上前には少なく見積もっても2、3人がここを通ったと思っていい。
今回は潰されたつくしの場所からいいとこ1,5人と言えばいいのだろうか。でも、おかしすぎる。なぜ、この道の約半分と言ってもいいような面積の草が全て寝ているのだろうか。まるで、何かをひきずった後のような。
違和感が視界を掠めた気がした。
見上げるのは学び舎の裏側に隠されたようにひっそりとある、白い壁にドーム型の屋根、林の中にぽつんと立つ古いけれど白く清く厳かな礼拝堂。
事実として、ここは隠されている。
表向きとしては、生徒が入り込んだら危ないから。本当の理由は知らないけれど、それは別に必要なことじゃない。ただ、本当に隠そうとしているのならもうちょっとうまくやるべきだ。こんな拓けたところにぽつんとあれば目立って仕方ないだろうに、とは思うが
ぼくはゴーストメイトで、仕事のためにここに来ている。重要なのはそこだけだ。
仕事の内容は要約すれば「明らかに襲われたと思われる形で生徒が重体だから、その調査を依頼したい」というものだった。
ならばなぜ、警察がこれを調べないのか。簡単なことだ。届けが出されておらず、知らないから。学校経営者の息がかかった病院は両親に本当のことを知らせず、「夜に学校に忍び込んで階段から落ちたのだろう」と告げた。
セキリュティやなんやでうるさいこのご時世、学校に忍びこんだというだけで犯罪だが、真面目な一般生徒ならば停学ですむだろうところを、普段の態度が悪く次になにか起こせば退学だと言われていたらしい。そんな中で明らかに自分たちの旗色が悪いのに相手を訴えるようなことはそうそうに出来はしない。それどころか、学力・素行などの問題で転校先のない彼の両親は、一応学校での怪我、時間外だがと入院費を出し、痛みわけなどとほざいて停学で済ませ懐柔しようとした学校側にころりと騙されて称賛すらしていたという。
このために、朝一番に来て第一発見者となった数学教諭は昇進やその他諸々の特権と引き換えに一生学校を辞めることは出来ず監視をつけられ、たとえ故意ではなくても口を滑らせかければあっという間に存在を消されるだろうことにあいなった。
抜かりはなく、監視カメラを設置していた警備会社はもれなく買収されて手中に収まったらしい。
経営者側にとって幸運なことに、重体の生徒はいまだ意識が戻らず、戻ったとしても頭を強く打ち付けているから記憶に障害が出るか、一生植物状態のままの可能性が高いとの診断が出た。これ幸いとばかりに、彼らは調査を依頼して犯人を捕まえ、この『事件』と本来は呼べるものをもみ消そうとしている。
正直、腐ってるなこの人たち。と思わないでもなかったが仕事は仕事だし、チャットを通して依頼が来たのだから人間性はさておき料金の支払いや依頼内容の信用には足りるということで引き受けた。
ぼくにとってこの仕事は、生活の糧であり大切な家族とのつながりであり存在の軸だから、そこにぼくの自身の個人的な意見なんて何の関係もないことだし。
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