第6話

 え? なにこれ、リンチってやつ? 困惑が表情に出ていたのだろう。きらきらと目を輝かせて迫ってきていたお団子頭の子、ロングストレートの子、ショートカットの子がそれぞれ不思議そうに首を傾げた。

 顔は全く似ていないのに、なぜか姉妹みたいだと思った。


「広瀬くん?」

「どうかした?」

「えっと、なんでよばれたのかなぁって」

「聞きたいことがあって!」

 

 ずずい。そんな表現が似合うほどにお団子頭の子が顔を近づける。

 あまりの近さに思わずのけぞるぼくに、照れていると思ったのかにんまりと笑いながらさらに近づこうとしたのを他の2人に止められていた。


「やめなさいって」

「ごめーん。ところでさ、広瀬くん。委員長のこと一目惚れ?」

「は?」

「いやー、なんかさっきいい雰囲気だったからさ。お2人さん!」

「違うよ。ドッジボールってああいうものじゃないよねって話してたんだ」

「あ、あー。あれはねぇ。うん、ごめん」


 しょんぼりしたお団子頭にロングストレートの子が口を開く。


「ごめんなさいね、最近暗い話題とか変な噂が出回ってるから、少しでも明るい話題が欲しかったのよ」

「そうだよ! まさかの荻原君からの略奪愛とか」

「やめなさい、明るくないわ。・・・本当、ごめんね」

「この子ばかでごめんね。テスト終わったばかりで弾けてるの。普段はもっとマシなんだけど」

「あれ、私けなされてる!?」


 ロングストレートの子がどこか憂い顔で片手を頬に当て、お団子頭の子をかばう。ショートカットの子に関しては完全にお団子頭の子のせいにしていたが。

 お団子頭の子がショートカットの子に抱き着いてじゃれかかって遊んでいるのを見ながら、僕は心の中で笑っていた。


「暗い話題? 変な噂って?」

「えー・・・ええーと」

「それは・・・んーと。あー」

「・・・夜中に学校に忍び込んだ子が魔女に殺されかけたって話よ。3人目なの」

「・・・3人目?」


 おかしい。依頼人からもらった調査書のは2人と書いてあったのに。もしや情報の隠ぺいだろうかと眉を顰めるぼくに、気まずそうにロングストレートの子からショートカットの子が受け継ぐ。


「自殺ってことになってるんだけど、荻原君が転校してくる前だったんだけどね、うちのクラスにいた子だったんだ。玉葛友菊っていう子。いっつも委員長と一緒に居たからあんま話したことないけど、おとなしくて美人だったんだよ。その子が1人目で、隣のクラスの男子が2人。魔女っていうのは・・・その、玉菊さんじゃないかって言われてるの。ええと、2人の男子にいじめられてたから、それで恨みに思って出てるんじゃないかって」

「どっちも彼女の月命日に殺されかけたってうわさなんだよ」

「っていうかごめんなさい、転校早々こんな話して」

「この子ばかでごめんね」

「うん、ごめんね・・・ってまた私!?」

「ううん、ぼくそういう話疎いからさ、聞けて良かったよ。ありがとう」

 

 内心ぼくは嬉しくてたまらなかった。初日にこの情報が取れるなんて運がいい。これからもっと深い話まで生徒たちから収集して、依頼人にも事実確認しなければ。

 

 お団子頭の子がショートカットの子に抱き着いているのをロングストレートの子とにこにこと笑顔で見ていると。


「広瀬くん!」

「え?」


 誰かに呼ばれたことしか認識できないまま。いや、顔面の左側に熱いものを感じ、そのままぼくの意識は暗転に飲み込まれていった。

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