第5話

「広瀬君、はやく出た方がいいわよ」

「え・・・でも」

「何やってんのよブス! 広瀬くんがボール拾おうとしたでしょ! とるとかあんたサイテー!」

「は? 何言ってんの? あたしただボール拾っただけですけどぉ?」


 いまだ言い合いをしている二人を置いて、白線を乗り越える。外にいた18対の目からはどれもたがわず憐憫をにじませた視線を投げられた。


 白々し気に巻き髪女子は言うと、右手でボールを持ち、左手で自分の髪に指をからませてそっぽを向く。苛立たし気に足もとの砂を蹴り上げた黒縁メガネの子を鼻で笑うと、また素晴らしいフォームでボールを鋭く投げ始める。

 のそのそと外野まで行くと、ちょうど近くにいた委員長が話かけてくる。


「ごめんね、せっかくの転校記念だったのに。・・・ちゃんと言ったんだけど」

「ううん、気にしないで。それにしてもドッジボールって激しいんだね」

「あ、ははは・・・ごめんね」


 ちらりといまだ激戦を続けている彼女たちを見て呟くぼくに、委員長は苦笑していた。その様子から見て、ドッジボールというものには縁がなかったぼくの、昼休みに調べた方が一般的らしいと認識を新たにする。


「あの子たちって、あんまり仲良くないの?」

「え? ううん、普段はすっごいいいんだけど、たまったものとかを体育で発散してるみたい」

「それは・・・いい関係だね」

「ねー、根に持たないところがいい子たちなんだよ」


 輝かんばかりの笑顔でうちのクラスは良い子たちばかりなんだよ! という委員長に、こちらも笑顔をはりつけて応対する。


「そういえば、もう学校の中って案内してもらったりした?」

「ううん、先生にしてもらおうかと思って」

「じゃあ、私がするね! 今日の放課後とかどうかな? 明日は用事があるんだよね」

「そっか、じゃあ頼めるかな」

「うん、任せて!」


 お互い笑いあって会話が終了する。ちょうど話が途切れたところで、向かいで待機している3人に固まった女子たちに手招きされる。

 委員長が自分を人差し指でさすと首を横に振られる。そのままぼくを示すと頷かれた。ぼくに何か用事があるらしい。

 委員長に軽く手をあげて行ってくるねと言えば、行ってらっしゃいと軽く手が振られる。


 女子たちの下に向かう途中、ずっと感じていた視線の主に目をやる。むっつりと口を結び、不機嫌そうな態度、表情で木下の木陰に座っている男子。


 ぼくの斜め前に座る子で、たしか「トモ」と呼ばれていた子だった。

 ぼくが委員長と話し始めたころから感じ続けていた視線に合わせると、不機嫌そうに顔を歪ませ、音は聞こえないまでまでも舌打ちしたのが分かった。

 

 あれが嫉妬というやつなのかと頭で考える中、女子たちのもとへとたどり着いたぼくはぐるりと周囲を囲まれた。

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