第2話
最初に目に入るのは大きな灯油ストーブが入って左手にあること、右側には給食の献立やお知らせがはられた白いホワイトボード。
そして歪んだ黒緑の大きな黒板と、ぼくが来るのを待っている担当教諭。
極々一般的な教室風景というものなのだろう。
開くと途端に好奇の視線がぐさぐさと刺さる。視線というものに殺傷能力が備わっていたのならば、即死は確定だろうと思われるほどには強く。
一瞬、好奇とは違う視線が混じっていたように思えたが、それがどこかくるのか、どう意図のものなのかまではぼくにはわからなかった。
顔を伏せて、ところどころ黒い傷跡のあるフローリングの床を見ながら、その中をくぐり抜けて教壇に立つ担当教諭の横に並ぶ。
生徒たちに向き直り、下げていた視線をあげる。
5つの列に4つの机が整然と並べられている。
開いているのは窓側の一番後ろとその隣、そして廊下側の1列の前から2番目。きっとこのどれかがぼくの机なのだろう。
生徒たちの後ろにはスチールでできた大きな集合ロッカーがあって、それもまた番号がふられていた。それ以外はやはり白い壁で。でも廊下のそれより若干薄汚れている気がした。
生徒たちはぼくの方を見ながらざわざわと小声で何か互いに囁き合っていたが、あいにく聞き取れるほどぼくの耳は高性能ではなかった。
いまだ騒々しい中、生徒たち、これからクラスメイトとなる人たちの視線を集めながら大きく息を吸い込んで、腹に力をいれる。
「広瀬陽一です。これから一年間仲良くしてください、よろしくお願いします」
定番ともいえる言葉で締めくくり、なけなしの笑顔を前面に押し出す。普段表情筋を全く動かさないぼくにとってはそう。なけなしだった。
そのためか、少し口元が引きつっているような気がするが、気のせいだと思いたい。そんな僕の笑顔を緊張故と比較的好意を持ってみてくれたのか、クラスメイト達は息を吐いた。
「なんだー」
「男かよ」
「優しそう」
「かわいい顔してるよねー」
などと失礼極まりない発言、もとい感想を漏らしていた。男で悪かったなとさらに引きつった口元のまま周囲を見回す。
ぼくを見る視線に悪意や敵意はないか、好奇心やそれに準じるもの、初対面の人間に向けるような感情であるかを見ていくが、先ほどの視線は元々なかったかのように誰からも感じ取れなかった。
「広瀬、窓際の一番後ろの席に座ってくれ」
今までぼくの反応を見ていた担当教諭にのぞき込むように言われて、窓側から1番目と2番目の列の間を通り、僕の席だと言われた場所に向かう。
向かう途中も騒がしかったものの、「よろしくね」と手を軽く振ってくれた人がいたり、にこりと笑顔を見せてくれた人がいたりとぼくの転校は概ね好意的にとらえられているようだった。その中で、ただ一人。
ぼくの斜め前の席に座る男子生徒だけは、机の上に腕を置き、その中に顔を埋めて完全に我関せずの姿勢を貫いていたが。
そんな彼の横をぬけ、指定された席にたどり着く。真新しい机と椅子。
机面だけは気でその他はプラスチック、椅子も同じような造りになっていて、机の横にあるフック。ここにかばんをひっかけるのか、と通ってきた机たちの側面を思い出す。
ぎいと椅子と板張りの床をこすらせて椅子をひき、座る。ふと視線を感じて頭をあげると、前の席に座っている赤縁眼鏡にふわふわとした肩までの茶色の猫毛の少女がこちらを見ていた。
美少女という表現ではなく、知性を宿した茶色い瞳、健康的に白い肌、桃色の小さい唇、茶色のセーラー服が良く似合う、かわいいと表現するにふさわしい少女だった。
可愛い子もいるものだなと見ていると、少女はぼくに話しかけてきた。
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