第1話
銀色の窓枠、磨きぬかれたガラス越しに見る空は雲1つなく広がる春の青空だった。そして、その下にある街並みは絵に描いたように平凡で、特出した建物など1つもなかった。
少し視線を下げると、アルミニウムでできた腰までの大きさしかない靴箱・・・下駄箱っていうらしいそれにはばらばらな大きさの革靴が20足、僕の分も含めて整然と入れられていた。なぜ下駄箱の中が2段になっているのかは知らないが、みんな上を開けて下の段に靴を入れているから、きっと上履き用なのだろう。
その陰に隠れるように、申し訳なさそうに隅に置かれた赤い消火器がかすかに見えた。
黄色く塗装しワックスを塗った廊下は朝日に照っていて。そんな窓と下駄箱。僕の背後にある壁は、というよりも全体的に真新しい校舎は開校して2年目なだけあって、傷1つなかった。
朝のHRのためだろう、どの教室も静かで時折がたんと誰かが身じろぎする音くらいしか聞こえない、静寂の廊下で。
視線をあげると目に入ってくる、広がる空は突き抜けるように青くて、その気楽ともいえる能天気さにため息がこぼれる。
(高校生というものはもう少し大人びていると思っていたのだけれど・・・)
「とても、ぼくより年上なんて思えない」
もたれかかっている背後の白壁、その向こう側からはじけるように声がわれたのを聞きながら、思わず吐き出された言葉はまだ今日という日が始まってもいないのに疲れていた。
大小さまざまな音量、声量が口々に何かを叫ぶように言っているのが廊下までわりと清明に聞こえてきていて、さっきまであったはずの静寂はたやすく破られた。
呆れるほどの騒ぎ具合だが、仕方ないのだろうことはわかっている。
本来であれば静かにとつとつと行われたはずのHRは、昨日まで存在しえなかった転校生という異物に浮足立っているのだから。言うなれば自業自得だ。
けれど、あまりの騒がしさに天井を仰ぐ。2-3と書かれたプラスチックのプレートがコンクリートの柱からにょっきり生えていて、その上にある天井も埃もなく白一色。
その真下でぼんやりと立ちながら、また窓の外の景色に目を戻す。
青空の下に広がった平凡な町並みはどこまでも平穏を物語っているようで。先ほどまでは能天気だと思っていたそれが、ささくれだった心に染みこんでくる。
(ここで排除対象とみられるか否かで、今後の仕事の進捗も変わってきてしまうし・・・)
第一印象でこれからの印象付けの方法も多彩に変化すると片瀬も言っていたし。でも、ちょっとばかり特殊なぼくは、できるだけ初見の印象を薄くしなければならないから苦労するのだけれど。
けれど、片瀬の言うことももっともだ。そうわかってはいるし、思っているものの。
「うそー、全然知らなかった」
「男? 女? かわいい子希望!」
「どこ座るのー?」
ほぼわめいていると言ってもいいような声量に力が抜け、もたれかかっていた壁から背がずるずるとずり落ちて、太陽光に照らされて温くなった硬い床に尻をつける。
視線の高さが変わり、窓外の町並みから革独特の匂いがする下駄箱で視界が埋まる。番号のみがふってあるそれは出席番号順というやつなんだろうかと思考逃避。
なんとなくもう疲れてしまった気がして。もう1つ、ため息が口をつく。
「それじゃあ、広瀬君、入ってきてくれるかな」
教室の中から担当教諭の声で呼ばれ、温かった床から立ち上がる。特に汚れてはいないと思うけれど数回、床についていた尻を払う。
引き戸扉の銀にメッキを施された指かけ部分に指をかけてから、深呼吸を大きく1回。
(大丈夫。今日からぼくは『
仮の名前を深く脳裏に刻み付けて、がらりと一思いに扉を開けた
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