19話 - B.L.T. -

「この調子で他のダンジョンも強化してSP長者に私はなる!」


 と、椅子から立ち上がり右拳を天高く掲げた私は扉からの気配にハッとする。少しだけ開いた扉から魔人形リグドルが顔を覗かせていた。そしてその後ろにはイェレナさんが横を向いた状態で立っていた。


「……見てた?」

「「……何も見てないよ、まお様」」

「……ノックはしましたよ、魔王様」

「それ100%見てるやつじゃん! もー! 今のは忘れて、ね?」

「「……誰にも言わない」」

「畏まりました……」


 少し肩が震えているのは気にしないことにしよう。私自信の為にも。さて、ちょっと机片付けないとね。というていでいそいそと座り資料を纏めてダンコンと一緒に横に避けておく。


 程なくして、魔包丁イビルナイフさんと魔狗ブラガルトゥさんが料理を持って来てくれた。イェレナさんは私の斜め後ろへ、魔人形リグドル達は料理人2人の傍へそっと移動する。魔狗ブラガルトゥさんが押して来たワゴンは金色で前側の車輪が大きくて可愛いく、上段には釣り鐘型の金属カバーを掛けたお皿が2つ、中段には氷の入ったバケツに瓶が1本入っていて、グラスが1つ傍に伏せてあった。そのワゴンを執務机の手前まで押して来て料理人2人が目礼をする。


「失礼する……します。魔王様、そっちに置いてもいいか……ですか」

「うん、こっち片付けたからお願いするよ。あと、魔狗ブラガルトゥさんが喋りにくかったらいつもの感じで喋っていいですよ? 私、そういうの気にしないから」

「駄目でござりまする、魔王様。魔王様が気にしなくとも、他の者が気になりまする」

「「……せめて十傑衆くらい強くないと、」」

「ええー……。ダメなの?」

「「「駄目(でござりまする)」」」

「3人に言われたら仕方ないなぁ……。ごめんなさい魔狗ブラガルトゥさん」

「いや、オレ……私なんかにそんな、ありがとう……です」

「良かったナ、魔狗ブラガルトゥ!」

「喋るんだ……」

「オレっちは魔包丁イビルナイフだからナ! ちゃーんと喋れますゼ!」


 話していた間に魔狗ブラガルトゥさんが手際良くセッティングを終え、料理に掛けていたカバーが外され、グラスに透明な液体が注がれていた。それにしても、他の人とも仲良くお話したかったな……。異世界の料理なんて楽しそうだし、食材とかも気になるし、仲良くなったらレシピとか色々教え合ったり出来ると思ったんだけど、やっぱり力こそ全てな体育会系かぁ。それにしても魔包丁イビルナイフさんが軽くてちょっとだけ引いたのは内緒にしておこう。


「本日の昼食は、ベーグルというパンに野菜と肉を挟んだものと、サテュロスチーズのケーキ、あとペアルジュースだ……です」

「さっき下にパン屋っちゅー良く分からねー奴が来ててナ。そいつから買ったンですゼ! もちのろんで<毒見フォアテイスト>スキルで見てるから安心して食べてくれ下さいだゼ!」

「え……これめちゃくちゃ見覚えがある食べ物なんだけど、その人は?」

「来る時もどっから来たか分かンなかったですケドよぉ、売り終わったら箱に入ってって、それから消えるようにどっかに行っちまったですゼ」

「不思議だね……って、あれ? 魔王城ここに来るのってダンジョン突破しないと駄目だよね? 私まだ新設部分に繋がるよう設定してないから不親切なボスラッシュのままだよ? イェレナさん、誰か来たって情報ある?」

「いえ、ございませんよ」

「うーん……謎だ……」


 お皿の上にはつるっとしたベーグルにレタスとアボカドと海老とタルタルソースが挟まれている物と、セサミがたっぷり付いたベーグルにBベーコンLレタスTトマトそしてマスタードが挟まれている物が1つずつ置いてあって、もう一枚の皿にはレアチーズケーキが乗っていた。ブルーベルエルのジャムが掛ってめちゃくちゃ美味しそうだ。だが、それよりもこのベーグルを持って来た人物が気になる。箱に入って消えるのはマジシャンかな? マジシャンがなんでパン屋してるんだろう? うーん、本当に謎過ぎる。腕を組んでベーグルを見つめたまま思考の海を泳いでいるとちょんちょんと袖を引っ張られた。


「「……まお様、ご飯食べないの?」」

「おっと、そうだった!ありがとね、ネロちゃん、ビャンコちゃん。 よし、いただきます」


 魔人形リグドルの頭をなでなでしてお礼を言うと照れながらいそいそと魔狗ブラガルトゥさん達の横へ戻って行った。ホント可愛い。

 さて、ご飯ご飯! まずは一口飲み物を……ってこれ、梨ジュースか。スッキリした味の中にある、ほんの少しの酸味がアクセントになってて幾らでも飲める。そして口からジュースが消えた後に残る梨の香りが最高。余韻を楽しみつつアボカドと海老のサンドを一口食べる。まろやかなアボカドとプリっとした海老の食感、それと大き目に刻まれたタマネギの粒を感じるタルタルソースが癖になっちゃう美味しさだ。次はBLTベーグル。セサミが香ばしいベーグルに包まれたカリカリベーコンに優しい甘さのハニーマスタードソース、シャキシャキのレタス。シンプルだけど安心する美味しさにうんうん頷きながら食べてしまった。

 酸味に食欲を刺激されたのか、意外とお腹空いていたのか、ちょっと多いかなと思っていたベーグル2つをぺろりと食べ切り、チーズケーキに手を付ける。サッパリとしたレモネルの風味のチーズケーキにブルーベルエルの甘みが丁度いい。食べきった後の丁度いいタイミングで紅茶が運ばれてくる。吸血薔薇ヴァンプローズのジャムをひとさじ入れ、口の中をリフレッシュさせる。


「ごちそうさまでした! チーズケーキ美味しかったよ、魔包丁イビルナイフさん、魔狗ブラガルトゥさん、ありがとね!」

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