16話 - 魔王の仕事 -

「この後、9時まで謁見でござります。魔王様に挨拶に来たいという遠方の魔族達の相手したら、ダンジョンについてお勉強いたしまする」


 玉座の間には挨拶に来た種族の代表がずらりと並んでいた。この玉座の間は出入り口が数か所あって、外部専用の通路と出入り口、私用の玉座の裏から入る出入り口など色々だ。玉座の裏から登場する私に全員がひざまづいて顔を伏せる、ネロちゃんとビャンコちゃんがいつもの場所で槍を掲げた。それを合図に、先頭から立ちあがって魔人形リグドルの手前でまた跪き私の足元の辺りを見ながら不思議な響きの声で話し出す。


「ご尊顔を拝し奉り、御前に侍りますは魔狼一族が長、ヴァサラにございます。わが一族郎党、魔王様への忠義を捧げることをお許しください」


 海外の映画で良く見る狼男――二足歩行の狼――が言い切ると足元に淡い光が出てくる。後でイェレナさんに聞いたら、私のスキル<純粋なる忠誠ピュアディヴォーション>用の口上で、この後に続く他の魔族さんも同じように何々一族の長何某なにがしの部分だけ変えて一言一句同じ言葉を言っていた。

 これがイェレナさんの言ってた9時に終わったのは奇跡だと思っていたら、時間内で済む様に調整されてたみたい。敏腕秘書だなぁ……



 * * *



 寝室がある5階の隣の部屋、寝室と違って地味な扉の執務室に移動した。イェレナさんは何やら資料を取りに行くと言って途中で別れたので、魔人形リグドルの二人に案内してもらって来た。二人は入り口で門番をすると言うので、私だけ中に入った。

 ここには社長が使っていそうな大きな机と座り心地の良さそうな椅子、良く分からない言葉で書かれたハードカバーの本が並んでいる本棚があった。部屋の中を色々と見ていたところで、イェレナさんが紙の束を持って来た。


「さて、ここからが本題でござりますね。魔王様のお仕事の中で一番重要なダンジョンの管理でござりますよ」

「昨日出したダンコンダンジョンコントローラー出せばいいのかな?」

「その前にこちらの資料に目を通してくださりませ。魔王城のダンジョン以外の状況でござります。図面、配置モンスター、罠などのアイテムが全12箇所分、記載されておりまする」


 バサッとイェレナさんが持って来た紙を机に広げる。和紙の様なごつごつした感じの紙に色々な図形と記号や文字などが書きこまれていた。


「わー……いっぱいあってうれしいなー。……これって、ダンコンで見れないの?」

「はい。現在地以外のダンジョンは表示されない仕様と書いて「あー!思い出した思い出した!」…ござりましたね。ですので、通信水晶で昨晩の内に聞いておりました。平時はダンジョンマスター《ボス》達が運営してござります」

「そうなんだ。まぁ、当面はこっち魔王城がある程度改築終わらないと、総兄そうにぃ探しに行けないし、私もこんな低レベルじゃ……あれ、レベル上がってる? もう37になってるけど、何かしたっけ?」


 ふと思い立って自分のレベルをステータスで見てみた。なんといつの間にか赤ん坊を卒業しているじゃないか! 私は天才か!


「恐らく、スキルを使用したりされたり、栄養豊富な魔界産の果物を食べたりした所為でござりますね。我々は過酷な世界に生きている故に50ほどならば食事で上がりまする。何故かそれ以上は食事しても上がらないのでござりますが……」

「なにそのチート食物。すごく楽じゃない」

「ですが、その先がなかなか上がらないのでござります。先ほどの族長達で60に達している者はおりませぬ」

「壁高すぎるよ! でも、イェレナさん150くらいなかったっけ?」

「158でござりますね。前の魔王様は900越えていたと言う話を聞きましたが、魔王様なら恐らく到達できるのでござりませんか?」

「……いや、私そんなバケモノになりたくないから、イェレナさんのちょっと上くらいを目指すよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る