13話 - 最初の晩餐 -

「ダンジョンクリエイト!!」


 唱えた瞬間、神様がまた来たのかと思うくらいの光が目の前を埋め尽くした。そして数秒後には光の替わりに機械――横向きのタブレットPCにゲームのコントローラーを融合させた何か――が現れ、浮いてる機械それを手に取ると真っ暗だった画面が光り【welcome!】と表示された。

 恐る恐る、Aと印字されているボタンを押すと表示が変わり【登録完了しました】と出て来た。何を登録したのだろうか、指紋?顔認証?


「さすが、魔王様!魔力登録をなどお茶の子さいさいでござりますね!」


 登録されたのは魔力でした。


 その後、インストールされているという仕様書を読み、大体の使い方を把握出来たので、晩御飯にする。というか、読み終わったタイミングで巨大で浮いてる魔包丁イビルナイフさんと、革のエプロンのザ☆肉屋な魔狗ブラガルトゥさんが呼びに来てくれた。

 ちなみに、魔族の名前はイェレナさんが教えてくれている。あとは鑑定のスキルを持っていれば相手の名前とレベルが頭上に浮かんで見えるようになるんだって。勇者職は基本スキルで持っているみたい。


 晩御飯もとい晩餐会場には白いテーブルクロスを掛けた長い大きなテーブルがあり、ゴテゴテした燭台――魔蝋燭イビルキャンドル――と吸血薔薇ヴァンプローズの花瓶が飾ってあった。一番奥の豪華な椅子が魔王席、その右側がイェレナさん、左側がネロちゃん、イェレナさんの隣がビャンコちゃん、あとは魔王十傑衆の残りの人たちが座るんだって。席順は前の世界の上座とかの席順と変わらないみたい。

 私達4人が着席すると、コンソメみたいなスープとミモザっぽいサラダが運ばれてきた。魔包丁イビルナイフさんの説明では、魔野菜マジベジのスープにコカトリスのブイヨンを入れたスープと、魔野菜マジベジとオークのベーコンのサラダにコカトリスの茹で卵を裏ごしして掛けたもの。


「意外と普通に美味しい……」

「「……まお様、何想像してたの?」」

「いや、もっと何の肉か分からないようなもので出来た変な色の何かが出てくると思ってたんだけど、私がもともと居た所と変わらない味と姿で出てきて、つい」


 魔人形リグドル達に突っ込まれてしまったが、魔狗ブラガルトゥさんの外見がそう思わせてくるんだよ~! ホラーゲームだと、肉切り包丁持って追い回してくる怖さがあるんだから! そうこうしている内に次の料理が運ばれてきた。

 黒いパンとピラニア見たいな外見の魚のムニエルっぽい何か。魚には名前が付いて無くて、意思がないものはぜんぶ魚と呼んでるんだって。黒いパンはちょっと酸味のある固いパンだった。


「魔王様、これらの料理は前の魔王様の趣味でござります。お口に合うようで良うござりました」


 固い黒パンをもぎゅもぎゅしてるとイェレナさんが嬉しそうな顔で私を見てた。パンを魚にかかってるソースに付けて食べると美味しいなぁと思っていた時だったので、ちょっとびっくりして喉に詰まりそうだったのはナイショだ。

 そして、何故かゆずっぽい匂いのするシャーベットが出て来た。シトロエルという果実のシャーベットだ。味は完全に柚子。

 デザートを食べて物足りないなぁと思っている所に、台車に乗った大きい塊肉が運び込まれた。大猪ジャイアントボアの姿焼という物で、まだ焼いてないじゃん。と思ってたら、火壺ファイアポットという魔物の口から炎が出てきて大猪ジャイアントボアを炎で包んでしまった。3分ほどしたら炎が消え、こんがり焼けた大猪ジャイアントボアが姿を現した。

 好きな部位を切ってくれると言われて直ぐ思いつかなかったから、柔らかくて美味しい所! とリクエストしてみたら、ヒレ肉を切り分けて岩塩を擂り下ろして掛けてくれた。イェレナさんと魔人形リグドル達はかなり大きいもも肉をハイスピードで食べていた。私が食べてるヒレ肉は、ちょっと淡泊な味なんだけど岩塩が味を締める感じで引き立ってて、脂身も少なめで、めちゃくちゃ柔らかくて蕩けるような味だった。こんなお肉食べたことない……!

 食べ終わって幸せに浸ってるとチーズっぽい何かと小さいピッチャーに入った蜂蜜のようなものが出て来た。チーズはサテュロスの乳から作ったチーズで、蜂蜜と思ってたのはトレントの樹液からに詰めたシロップだった。チーズにシロップを掛けて食べるのは初めてだったんだけど、塩味に甘みというなんともいえない味でかなり好きになった。もし元の世界に帰れたらやってみよー!

 最後に、魔果実イビルベリーとプリンみたいなものと小さなチョコケーキみたいなものが出て来た。魔果実イビルベリーはイチゴ、ブルーベリー、サクランボ、ミカン、リンゴなどの果実がトレントから取れるという不思議な果物なのだ。味は私の知ってる味だし色も形もそのまま。名前だけ違って、イチエル、ブルーベルエル、チェリエル、オレンジェル、アプレルという名前だそうだ。

 プリンはコカトリスの卵とサテュロスの乳を使っていて、トレントシロップとホイップクリームが掛けられていた。小さなチョコケーキはごくごく普通のケーキだった。チョコみたいな樹液を出す黒樫のシロップで作られていて、間に挟んでいるチョコホイップもサテュ乳のホイップに黒樫シロップを混ぜた物なんだって。

 この世界の食べ物も悪くないなと思ったんだけど、魔族以外が食べると魔症イビルシックによって魔族になってしまうみたい。獣族、人族からの転身者はダンジョンを巣にして暮らしているみたい。仕事は侵入者の迎撃なんだって。


「さて、この後は少し食休みして寝室へ御案内致しまする」

「はーい。あ、魔包丁イビルナイフさん、魔狗ブラガルトゥさん、美味しい料理ありがとう。私、ほとんど嫌いなもの無いから何でも食べるよ!じゃあね」

「「……まお様優しいね」」

「そうでござりますね。嬉しい限りでござります」


 出入り口の近くに立っていた料理人2人に声を掛け、手を振りながら部屋を後にする。明日の朝ごはんが楽しみだなぁ!

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