14話 - 紅一点 - side:S

 長い回廊のような場所を歩いてた。ゲームで見た色々な怪物モンスター達が目の前に現れては、自分のパーティに次々と屠られていく。大きな扉の先には、自分たちの五倍以上もある巨大な怪物が立ちふさがっていたが、自分たち四人なら何でも倒せる気がした。たとえ何度も形態変化を繰り返すような強大な敵でも、この力を尽くせば簡単に攻略出来ると思ってしまうほどの力だった。

 何度か巨大な怪物を倒すと、今度は回廊から城へと場面が移る。人型の怪物達が敵対心をむき出しにして襲いかかるが、カウンターで一刀両断。光の様な粒子を残し消え去る。それを見た自分たちは口々にゲームなんだなと呟いて先に進む。

 螺旋階段を登り、玉座の間らしき豪華な扉を開ける。その場所は入口から奥に向けて赤い絨毯が敷いてあった。そして壁や柱が金で出来ていて、柱の間には白銀プラチナ全身鎧フルプレートが槍を持ったり剣を佩き、ズラッと並べてあった。

 一歩室内へ足を踏み入れると、一斉に白銀の全身鎧がこちらへ襲い来るが、賢者の全体攻撃で前一列を灰燼と帰す。そこへ聖騎士が素早い動きで敵の前線へと向かい、敵の意識を自分へと集中させる。その背後から聖女がエンチャントとデバフを施し、賢者が最後尾側から単体攻撃を連発させる。自分はあまりヘイトを稼がないよう、聖騎士の傍で剣と魔法を揮う。

 程なくして白銀の全身鎧を掃討し尽くすと、先ほどは感じなかった禍々しい殺意を感じ、殺意の方へと視線をやる。視線の先、奥の方からサーっと冷気が降りてきて、まるで金縛りに会ったように、小指一本も動かせなくなる。つっと額から冷たい汗がこぼれ落ち、ゴクリと喉を鳴らし唾液を嚥下する。何時間も睨み合っていたような一瞬に殺意の主が立ちあがり、おもむろに自分たちの方へ手のひらを向けた。

 気が付くと部屋の中腹まで進んでいたはずが、強い背中への衝撃と共に入口の壁に押し付けられていた。そして間近まで迫っていた殺意の主の顔は、自分の顔だった。


「勇者様、起きて下さいまし」

「……っん、あぁ。おはよう、デルフィーヌ」

「うなされていた様ですが、またあの幻ですか?」

「っ、そうだよ。何度見ても恐怖で動けなくなってしまう」

「あれは未来の一つであり、必ずそうなるという訳ではないので……その、あまり気にしない様に出来れば……いいのですけど……」

「すまない、君にそんな顔をさせて。さぁ、この話は止めだ。朝食の時間なんだろう?」

「はいっ! 本日は青兎のサンドイッチとアプレルサラダだそうですよ。わたくしの頭を撫でるのも止めて階下に参りましょう」

「あぁ、先に行っててくれ。どうせ私が殿しんがりなんだろう? さっと顔を洗ったら向かう」

「わかりましたわ」


 閉まる扉を見送り、昨日使ったたらいに水を生む。汗を掻いてしまったので服を脱いで、そのまま顔を洗い、手拭いで身体を汗を拭う。ついでに服も軽く水洗いし、浄化と乾燥を掛けてもう一度着る。軽く髪を整え、仲間達の待っているテーブルへと向かった。



 * * *



 気が付くと部屋の中腹まで進んでいたはずが、強い背中への衝撃と共に入口の壁に押し付けられていた。そして間近まで迫っていた殺意の主の顔は、自分の顔だった。自分に首を掴まれ、強い力で締めながら持ち上げられ、床へと叩きつけられた。

 プツリとテレビの電源を切ったように映像が途切れる。先ほどの場面が嘘のように五体満足で冷たい床に寝転んでいた。起き上がり、周りを確認すると眼鏡の優男やさおとこ、ガテン系のお兄さん、ガリ勉そうな男子中学生が同じようにキョロキョロしていた。自分たちが座っている場所は青白い文字が浮かび上がっている。天井がかなり高い丸い部屋だ。窓は天井近くに一つあるだけで、日の光が差している様子から日中だと分かった。扉は両開きで、木製だった。特にそれ以外収穫が無かったので、他の三人と相談してそれを開けてみる事にした。


「あ。俺は中村竜馬なかむらたつまだ。21才、大学生。あんたは?」

「俺は和地道義わちみちよし、トラックを運転してる。28だ」

「……ねぇ、何で自己紹介してんの? 今、この状況、変だと思わないの? どう考えても拉致監禁じゃないか。こんなの許される訳がない! もし、この部屋を出たら殺されるとか考えないの?」

「あ。そっかァ、そりゃ考えても見なかったわ。完全に異世界転生ひゃっほーってなってたからなァ。ま。この展開だと俺らは城で勇者として召喚されて、魔王を倒してくれって言われるのがセオリーなんじゃねーのかなァ」

「何を言っているのか大半が理解できないが、殺す必要があれば誘拐した時点で殺しているだろう。あとは、拘束されていない。扉が閉まっていれば逃げ場はないが、見張りが来た時にでも隙を見て逃げだせばいいじゃないか。柔道六段の俺に任せとけ! こういうアクション映画はかなり見て来た方だ。安心しろ」

「安心出来ないよ! 二人ともばっかじゃないの!?」

「まぁまぁ、落ちつきな、よ……? え?」

「ん? どーしたの? もしかしてアレの日来ちゃったァ?」

「お前、女性・・に何を言っているんだ! もう少しオブラートに包め、オブラートに!」

「アレって何です? 喉押さえてる様子からして喉の調子が悪くなる日……とかですか?」

「無知だなァ、少年」

「少年ではありません! 小林です。白梁はくりょう中学校二年生徒会書記の小林悟こばやしさとるです。少年呼ばわりは止めて下さい!」

「はいはいはいはい、分かったよ、悟クン」

「さて、落ちついた所で嬢ちゃん・・・・に話しを聞こうか。いいな? 二人とも」

「そうだなァ、俺は別にいいぜ」

「僕も色々腑に落ちない事だらけですが、一先ひとまずは心配ですのでお姉さん・・・・の状態を確認したい所ですね」

「だ、そうだぜ嬢ちゃん・・・・。人魚よろしく声が出なくなっちまったか?」


 僕は自分の出した声に驚き、喉を押さえて固まってしまった。そして、彼らの自分に対する呼称に再び驚き身体の異変に気付く。この声は、<彼女>の声だ。そして、恐らく身体は<彼女>のものだ。僕が彼女ということは、彼女は僕になっている可能性が高い。

 心配してくれた彼らに大丈夫だと声を出そうとした瞬間、目の前の扉が開いた。

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