8話 - 玉座へと至る道 -

「後ほど視察も兼ねて行く予定でござりますので、今暫く我慢してくださりませ」


 私たちはドナドナ号魔牛馬車掘立小屋セーフゾーンに体当たりし、次の瞬間にはお城の目の前へ来ていた。

 城門をくぐると大きな噴水のある石畳の中庭があり、私はここでドナドナ号魔牛馬車とお別れする。噴水の向こうにある階段を登ると、吸血薔薇ヴァンプローズの生け垣がうねうねと歓迎してくれた。

 その先には見事なイングリッシュガーデンが広がっていて、所々うごめいていたので、きっと魔草や魔花系の何かなんだろうと勝手に推測してみる。お庭を抜け本館前に辿り着くと、お城に勤めている魔族の方々が整列して恭しく礼をしたまま迎えてくれた。


「なんか、マジで私って魔王なんですねー」

「「……やっと実感湧いてきたのですか」」

「うん、やっぱりこういう事してもらうと、ね」

「それでは、皆に挨拶をしてやってくださりませ、魔王様」

「わかったよ、マッ……イェレナさん」


 館のポーチ部分の階段を登って入口前のバルコニーのようになっている場所で、お城勤めの皆さんへの挨拶をすることになった。スピーチって苦手なんだよね……ガチで挨拶だけでいいよね?


「はじめまして、皆さん。この度、歴史ある魔王として遥々地球から召喚されました、マオ・アキノです。初めての魔王職、十分に職責を果たせるかどうか不安ですが、皆さんんと共に一生懸命やっていくつもりです。宜しくお願いします!」


『『『『 う お お お お お お お お ! !! ! ! 』』』』


 私が短い挨拶を言い終えて軽くお辞儀をした瞬間、割れんばかりの歓声に包まれて、なんだか魔王も悪くないなとニヤニヤ顔で後ろに下がると、キリっとした顔のマッチョさんが前に出て歓声がぴたりと止む。


「皆、これから新しい魔王様にしっかりと尽くせ。魔王様から御下命されるまでは通常通りの仕事をせよ。では解散!」


 マッチョさんの号令で音もなく何処かへ消えていく皆さん。

 あれ、マッチョさんのが魔王っぽくない?と思っていると、マッチョさんがくるりと私のほうを向いて優しい声でにっこりと笑いかけてくれた。


「それでは魔王様、色々説明せねばならぬ事がござりますので、中へどうぞ」

「ふぁい」


 そんなギャップ萌えと考えてて変な声出ちゃったけど、気にせず重そうな扉を軽々開けたマッチョさんに側近ちゃん共々付いて行く。


 豪華な館の4階の奥、玉座の間の壁や柱が眩しいほどの金で出来ていて、テニスコート4面分程の広さがあり、壁際には白銀の生きた鎧リビングアーマー達が並んでいて、入口から玉座にかけて如何いかにもな赤い絨毯と、その先にある如何にもな玉座が私を待っていた。側近ちゃん達は玉座に上がる前の所で左右に分かれキリッとした表情で立っている。私はマッチョさんと一緒に玉座へと座った。


「それでは、簡単に魔王様のお仕事の説明や世界の仕組みなどを……」

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