2話 - 白い世界 -

 私を安心させようとしてくれているのか、昔と変わらず優しい笑顔で接してくれるのが嬉しくて、同じように笑ってしまった。


「やっと笑った」


 私はその言葉と笑顔ドキっとして思わず両手で顔を隠した。

 手袋をしたままの手は少し濡れていて、冷たくて、ちょっと火照った顔に気持ち良く感じて、少しだけクールダウンできた。


「そ、そんなに、わら、笑ってなか、なかった?」


 案外寒さがこたえていたのかもしれない。照れていた所為せいかもしれない。


 盛大に噛んだ。


「……ゴホン、そこまで笑わなくてもいいじゃん

 いつも思ってたけど、笑いの沸点低すぎ」


 指の隙間から総兄を見ると自分を抱いて肩を震わせていた。


「くっ……ぐ、っはぁ……あー苦しい、いや、詰まりすぎでしょ?

 はー……笑い死ぬと思った」

「今の笑うトコ無かったじゃん」

「いや、耳まで赤いとかもポイント高い」

「ばかー!」


 ぽかぽかと擬音が付きそうな緩さで総兄の右腕を数回叩いたら、総兄は笑いながらおでこをぐぐっと押して私の腕を遠ざけたら、それを払い漫画に良くあるような連続した突きもどきをお互いが繰り出し、数分それをやると唐突にあっち向いてホイを始め、5回ほどで高速アルプスいちまんじゃくに移行した。

 小さい頃からの慣習で最後までやってしまったが、小学生の時振りなのでちょっと新鮮だったが、体力的には辛く、三角座りのまま総兄にお尻を向けるように床に転がった。

 ゴザ、ちょっとホコリ臭い。


「はー、疲れたー。ほんと総兄と居ると体力使うわー」

「久しぶりだけど体が覚えてるもんだね」

「確かにー、私も忘れたと思ってたー」

「……眠そうだね、いちごちゃん」

「寝ないもーん、目ぇ閉じてるだけだし

 いちごじゃなくて苺桜まおでーす」


 確かに眠いんだけど、目、閉じるだけだから、寝ないから。


「ほら、どうせそんな事言ってても寝るでしょ」


 あーはいはい、どうせワンパタですよーだ。


「寝たら死んじゃうよ?」


 良く言うよね【雪山で遭難中に寝たら死ぬ】って。


「いーちーごー! 起きろ!苺!」


 でも……久々に呼ばれたなぁ……総兄だけはいちごって呼んでたっけ……


 あ、ヤバ……これ寝落ちするわ……

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