始まりの日

1話 - 雪山 -

 私、朝来野苺桜アキノマオはキラキラネーム世代に生まれた高校生。

 同級生の名前は殆ど読めない。

 何故【火星ビーナス】や【アダム】って名前付けちゃったんだろ……

 そんな私は周りの子に合わせて前髪を眉毛でまっすぐに揃え、肩甲骨辺りまで伸ばし、グループの子達とお揃いの髪飾りを付け、お揃いの腕輪を嵌め、どこにでも居るような普通の高校生活を送っていた。


 両親 ――父は警備員、母は銀行員―― は共働きなので小学校に上がる頃には簡単な自炊が出来ていて、今の腕前は母親に並ぶが追い越すレベルだと自負している。

 ひとりっ子ペット無しなので、小さい頃は親が帰るまでは隣のお兄ちゃん ――桐谷総司キリヤソウシ―― が遊んでくれていた。

 5歳年上の総兄そうにぃとの差は成長するつれあまり遊ばなくなり、今では年2回ほど行く2家族合同旅行でちょっと会話するほどの差になった。


 旅行は夏冬の休みを利用してキャンプ場で泊まりサーフィンをしたり、ロッジに泊まりスノーボードをしたりというアクティブな3日間を過ごすのだ。

 そう、今日から雪山で3日間スノーボードで滑ったり、雪だるま作ったり、かまくら作ったりして遊びまくる!


 ……はずだったのだが、初日からコースを外れ、遭難しそうな所を総兄に見つけて貰い、どうにか山小屋へ辿り着き2階からお邪魔させて貰うという最悪なスタートだった。



 * * *



「寒くない?

 ここ、薪とか食料ないみたいだからとりあえず固まって助けが来るのを待とうか」


 梯子はしごで1階に降りたが、ゴザが敷かれているだけの何もない所だった。


「暖炉とかないんだね……ガチ何にもないじゃん、ここ」

「映画とかだと暖炉に薪、毛布で寄り添って助けを待つっていうのが王道だよね」


 茫然と立ってる私に総兄が苦笑いを浮かべ、頭をぽんぽんと軽く叩いて壁際にゴザを引きずって行きそこにドカっと座った。


「さ、とりあえずこっち座りなよ。僕はもう疲れた」

「……」


 総兄は自分の右側を空け、手で どうぞ としてくれたのがなんだか気恥ずかしくて、無言で隣に座った。


「……一応、こっち方面に来るのは言ってあるから、僕が帰らなかったらすぐ分かると思うから。ね、大丈夫だよ」


 私を安心させようとしてくれているのか、昔と変わらず優しい笑顔で接してくれるのが嬉しくて、同じように笑ってしまった。

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