さざんかの宿

摩天楼・華

-背筋伸ばして、着物姿で劇場へ…その女ごころ-

雨除けのコート。

雨除けの下駄の爪掛。

母の形見の着物に袖を通しながら確認する。

あの劇場の最寄り駅にはエスカレーターがない。

濡れてしまう。


あ、おばさま、今日のお着物も綺麗。

いつもいっつも、ホントおしゃれ。

私も着てみたーい。

え、お席譲ってくれるんですか。

嘘、こんな前のいい席。

そうなんだ、お父さん、今日、いらっしゃらないんだ。

いつも二人で御一緒してて凄く羨ましいんですぅ。

あ、ミカちゃんですか。そうそう、私と一緒に居るもう一人のコ。

最近、なんか落ち込んでたみたいで。

うん、バイトの休みもお給料も全部使ってたの。

私が居ない時もひとりで来てたりしてたでしょ?

あれからちょっとおかしくなっちゃって…あ、内緒にしといて下さいね。

私? 私は観るだけです。ホント。ホントですって。

おばさま、これからも仲良くして下さいねぇ。

あれ、これ、何。あ、下駄の爪って云うんだ。かわいー!


着た後は全て手入れもせず着捨てている。

それでも毎日着る、雨の日も、雨だからこそ。

うるさい雨除け、歩いて微笑む、今日も、皆晴れ、福笑い。

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さざんかの宿 摩天楼・華 @yumemaboroshi

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