第五十八回 クトゥルフ神話TRPGプレイングガイドってなぁに?①~血文字の本~

【初めに】


 GMをやっていたTRPGのキャンペーンが一つ完結しました。

 構想開始から足掛け五年。実プレイ開始から三年半。参加人数40人くらい。シナリオ(卓)数にして17本。GMを除いた参加延べ人数100人くらい。番外編の中には僕以外の参加者にGMやってもらった回もありました。

 知り合いの卓者を次から次へと呼んでその人の一番美味しいプレイとかその人にしかできなさそうなプレイをしてもらってました。カクヨム書籍化勢も居れば、イラストでバリバリしている人、世間に知られぬ達人、個人的に注目していたTRPGニュービー、天才TRPG星人、皆が悲鳴を上げて苦しみながら最高の物語に向けて邁進してくれました……。僕も二十代に作った貯金キャラクターを全ブッパしました。一人の少年が外なる神と出会い、日常を守る為に戦い、己に流れる忌まわしき血統について知り、出会い・別れを繰り返し、最後は儀式を通じて超越者となるべく探索者との戦いに挑む……クトゥルフ神話TRPGじゃないんですけどね、ダブルクロス3rdです。

 冷静に考えてほしいんですが、邪神と伝奇バトルするならメタリックガーディアンかダブルクロス3rdを選んだ方がスムーズです。邪神と戦いたいなら邪神と戦うシステムを、神話的真実を探りたいなら神話的真実を探る為のシステムを、美少女邪神といちゃつくならばいちゃつく為のシステムを、クトゥルー神話をより深く楽しむ為には使う道具を選ぶことが大事なんですよ……(ろくろを回すポーズ)


 近況報告はここまで、ここから本題です。


 道具を選ぶことは大切です。そしてそれと同じくらい、道具の使い方は大切です。自分の体格、知識、習熟、展望によって道具の使い方は変わります。この道具の使い方、そして整備・調整チューニングを教えてくれるのが――この本!

https://www.kadokawa.co.jp/product/322401001477/

 『クトゥルフ神話TRPG プレイングガイド』というわけです。

 TRPGってシステムを問わず大変な労力を必要とする遊びなんですね。まず参加者のスケジュール合わせがあり、シナリオやキャラクターの用意、それらの実際の卓における運用、更に終わった後のフィードバックやログも宝物です。遊びであり、物語の創作であり、なにより共同作業です。

 これだけ労力を求められていて、しかも事故が起きると人間関係や精神面にリスクがあるというのに、これまでそのTRPGを“どう調整チューニングするか”について注目した本が無かったというのは考えてみるとびっくりです。

 これまではプレインググループでのノウハウ共有や新規参入が限られていたので、ここまでしっかり解説する必要が無かったが、昨今の環境変化によってこういった本への需要が膨らんできたというところでしょう。あるいは世界が親切になっているということかもしれません。

 なんにせよ、とてもいい本なので、細かく紹介させてください。それではスタート。


【パート1 キーパー編】


●第1章 悪夢を分かち合う

 本文でも書いてありますがKPとPLの双方に向けた内容となっております。

 キーパーが気をつけた方が良いこと、クトゥルフ神話TRPGを楽しむ為にどのような態度が望ましいか、クトゥルフ神話TRPGは参加者全員が楽しむ為にあるということ、TRPGの基礎となる大事なことが書いてあります。これはどんなシステムであっても大きく変わりはしないでしょう。

 個別に紹介されている話は

・プレイスタイルの決定と共有

・探索者の作成と関係性の樹立

・シナリオ導入の手引

・ルールの把握と改変、運用についての心得

・情報の渡し方(調べ方)

・明かすべき謎とその追跡

・エネミーの運用についてと戦力バランス

・お話をラヴクラフト風にする為のエッセンス

・卓を遊んでいる最中の雰囲気づくり

・今やっている卓そのものへの尊重

 というところです。本の中では項目の名前は別ですがおおむねそういう話をしていると思ってください。


 PC1のみ固定にした全部で17話くらいの巨大キャンペーンを終わらせた身としてこれらの項目の重要性に対する私見を述べると


・プレイスタイルの決定と共有

→そもそも“どういう遊び方をするか”が共有されてない場合、作り上げる物語はしっちゃかめっちゃかになります。特にPCの扱い、これをしっかりできないとTRPGは爆発四散し人間関係はぶった切られます。どういうスタイルか決めることは、この物語に参加するPCがどうなる可能性が高いかを提示する最初のやり取りです。


・探索者の作成と関係性の樹立

→PCの扱いが大事。PCとPCの関係性はとても大事で、繊細なものになります。卓はPCがいなくなれば成立しません。卓の途中でPCがいなくなるとかがまあ最悪の事態と言えるでしょう。そういうことを起こさず、また参加したPLの持ち味を活かす為に、事前にKP(他のシステムならGM)とPLたちはある程度想定を話し合うという選択があるという話です。とはいえ突如出てくる“生”の物語も美味しいんだよなあ~。


・シナリオ導入の手引

→慣れてると忘れがちなんですが、探索者全員がスムーズに事件の調査に入る為の努力は欠かせません。慣れてないKPやPLにはこれがまた大変なんですよね。あと本格的にシナリオ入る前の茶番とか楽しくてそっちに意識持っていかれるのも困るからね。どういう入り方をすると良いかについて書かれています。


・ルールの把握と改変、運用についての心得

→ルールは皆で面白い物語を作る為にあります。なのである程度の柔軟性をもたせるのは当然ですが、なんでもありにするとどんどん面白くなくなります。どれくらいが一番間違いのない味付けか、という話だと解釈しています。


・情報の渡し方(調べ方)

→これも慣れるほど意識しなくなっていくんですよね。意識せずにできたとしても、どうやってこれを行うべきかを文章で意識しておくと話書く時に良いですよね。内容はクトゥルフ神話TRPGを前提としていますが、この感覚は全てのTRPGで役に立ちます。


・明かすべき謎とその追跡

→手に入る情報が筋書きになって、事件の核心に至るまでの過程がどうあるべきか、一般的にどうつながるのか、そういう話です。シナリオを進める為の体幹はしっかりしている方が良く、そういう体幹は読書経験で得られるものの、理解して鍛えると成長効率は段違いです。


・エネミーの運用についてと戦力バランス

→これはもうそのまんまです。強すぎて全員倒れても駄目だし、脅威を感じないというのでは面白くないし、暴力担当PCには暴力を発揮してもらう機会があったほうがいい。その塩梅について説明してくださっています。


・お話をラヴクラフト風にする為のエッセンス

→日記、魔導書、呪文、夢。これらの運用です。初めてだとちんぷんかんぷんだし、さりとてラヴクラフトの作品やそのフォロワーを追いかけるのも大変です。その状態でもクトゥルフ神話TRPGやりたいよなぁ? 俺はやりたいと思ったぜ~~~~! ってわけでここを読んでおくと「呪文ってどういう扱いなのか」「どういう要素を出すとクトゥルフ神話らしくなるか」「どういう塩梅で日記や魔導書や呪文や夢は使われるのか」を把握できます。


・卓を遊んでいる最中の雰囲気づくり

→立ち絵、BGM、その他小道具。オンラインでもオフラインでも、雰囲気を作っていくのに有効な小道具類について紹介されています。また、小道具以外にも環境作りのノウハウについて書いてあります。それに作中での恐怖描写についてもコツが書いてあるのでぜひ読んでいただきたいですね。


・今やっている卓そのものへの尊重

→TRPGは卓を囲む仲間たちの遊びなので、皆できゃいきゃい楽しめるのが一番! んなこたぁ分かってるよ! って皆言うかもしれませんが、お話を作っているという興奮と自負が産むエゴは、容易に他者を傷つけます。あと普通に技術の不足でも同卓の仲間に嫌な思いさせる可能性はあります。なのでこの項目の〆にそういう事が書いてあるっていうのは大事なことだと思うんですよ。TRPGは参加者全員で楽しむものだぜ! じゃないと私みたいに巨大キャンペーンの前半で胃袋が八つ裂きになって流血したまま最後まで走り続けることになりますからね。


【小休止】

 

 この本、話すことが多すぎる事に気がついたので三つくらいに分けてお話しようと思います。

 先に結論だけ言っておくと「この本はTRPGプレイヤーの血で書かれている」「クトゥルフ神話TRPGをやる人でなくとも、TRPGやっているなら買って損はない」ということです。SNSとかツイッターとかXで車輪の再発明してるくらいならこの本読みな! というものではあります。あなたが会話すべきはSNSの人々じゃなくて眼の前の同卓者で、この本は眼の前の同卓者や自分自身が流した血をインクにして世界中のTRPG星人の皆様が書いてくださった本なんですね。

 なのでみなさん、買って損はないと思います。

 というわけで続きは仕事をしながら急いで書きます。

 大丈夫、今の私は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んで無敵モード。『花束みたいな恋をした』も一緒に観たので無敵モードです。どうやって執筆を続ければ良いかがちょっと分かってきた感じです。知識と執念でやりたいこと全部やるんだ……執筆の“執”は執念の“執”。

 というわけで今日はこんなところで。次回お楽しみに。

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