第五十七回 Re:クァチル・ウタウスってなぁに?
【初めに】
リクエストがあったクァチル・ウタウスについて取り扱おうと思います。今、「前にクァチル・ウタウスやったような……?」って気分になって見直したのですが、なんとやってた!やってたけどまあ良いでしょう。勉強です。
日々の仕事に追われて足元が疎かになってないか? 思えばそう、アニメも追えず、ソシャゲもAP溢れ放題、精神性は堕落の一途をたどるばかり。こんなことではゆっくりと己の感性が死んでいくのではないか?
そういう堕落に抗っていくべく、クァチル・ウタウスについて学んでいこうと思います。
【時間を超越する神?】
クァチル・ウタウスの特徴といえば、クトゥルフ神話TRPGの「不老不死を与える神」とか、分かりやすい「子供のミイラのようなしなびた姿」という見た目、それに「周囲の物体の時間経過を加速させる」という性質が挙げられます。あと直立したまま身体を動かさずにススススーと近づいてくるホラー映画によくあるアレをやってくれるというチャームポイントも忘れられない。
こういう性質から時間の神という紹介をされがちです。
まあ実際問題起こっていることは時間の加速に近い事象であり、原作を読むチャンスが日本語訳だと『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』くらいなので、どうしても時間の神や永遠を与える神……という解釈になってしまいますが、これ違うんじゃね? と私は思うんですよね。
今回の記事を書くにあたってクァチル・ウタウスの出てくる「The Treader of the Dust」を読み直したんですが、これまでのクァチル・ウタウスの解説で切り捨てられてきた
更に、主人公のジョン・セバスチャンの最期の描写なんですが
“Then he was no longer John Sebastian, but a universe of dead stars
and worlds that fell eddying into darkness before the tremendous blowing
of some ultrastellar wind....”となっており
これってざっくり言うと「彼はもはやジョン・セバスチャンではなく、星間宇宙に果てしなく吹く風を飲み込む闇に巻き込まれていく死んだ星々と幾つもの世界だったのだ」になるんですよ。ジョン・セバスチャンって熱的死を迎えた宇宙に至ったんじゃないでしょうか?
|宇宙を越えて吹く途方もない風《the tremendous blowing
of some ultrastellar wind》って、これ要はエントロピー(物体・エネルギーの乱雑さ)の増大じゃないですか? 風って空気を構成する分子が飛んでいって皆さんを押しているんですよ。そして宇宙を吹く風、死んだ星や終わった世界(文明なり銀河系なり)の崩壊と共に原子レベルに小さくなった物体が四方八方に飛んでいく=エントロピーの増大に他なりませんよ。クァチル・ウタウスがやっていることを単純な時間経過として見るのはあまりにも味方が人間的に過ぎます。また、クァチル・ウタウスが現れたところで、作中で時間そのものは動いてないんですよ。タイムワープも時間停止もない。強いて言えばクァチル・ウタウスのストップモーションめいた高速移動が時間移動に近いのですが、逆にそれ以外に描写はない。
クァチル・ウタウスはエントロピー増大の法則という宇宙の法則を司る旧支配者ですよ。そこまで行くと外なる神では? リン・カーターがクァチル・ウタウスを見誤ってたんじゃないかな……これだけすごいなら外なる神クラスだと思いますよ。
仮にクァチル・ウタウスがエントロピー(物体・エネルギーの乱雑さ)増大の法則を司るならば、エントロピー増大の法則から自分だけ外れる事もできると思うんですよ。ヨグ=ソトースが時間を自由にできるみたいにね。それでこのエントロピー増大の法則から外れることができるなら「自分の存在が、外部に与える熱などのエネルギーの一切を遮断できる」ことを意味します。同じ姿勢のまま一瞬で近づいてくるのは「移動に伴って周囲に与える影響を最小限にした」とも言えるのではないでしょうか?
ここで「えっ? 塵埃を踏み歩くものじゃないの? 歩いてないの?」って思ったかも知れませんね。実は元々の英文だと「only a low mound of dust on the
floor beside the lecturn, bearing a vague depression like the imprint of
a small foot ... or of two feet that were pressed closely together.」とあり、この描写だと「小さな塵の山の上に足跡が二つ残ってる」までは分かりますが、歩いた跡とは言えないんですよね。まあ二本の足で立ってそこに存在したのは確かで、わずかにエントロピーを増大させてはいます。主人公のセバスチャンがエントロピーを無限に増大させられて宇宙に拡散したその現場でクァチル・ウタウスは己の存在を維持してたわけです。
おそらくですが、この外なる神、エントロピーの増大・停滞・減少を操れますね。逆に無からエネルギーとか生めますよこいつ。ぬるま湯を熱湯と氷に分けられる。冗談だろ? こわいですね……。それができるなら無限にエネルギーを汲み出せますよ。
無限の生命を与えるっていうクトゥルフ神話TRPGの設定も、本来の宇宙が持つ「最終的に全てが熱的死を迎える」という法則からの逸脱を指していると見て良いのではないでしょうか。クァチル・ウタウスに見た目年齢とか十年くらい吸われて、自然な劣化や変化を否定して、どこか一点で固定されちゃうんでしょうね。TRPGだと。
【カルナマゴスの誓約】
クァチル・ウタウスといえば忘れられない魔導書です。カルナマゴスの誓約!
incubus-begotten monster、すなわち淫魔が生み出した怪物の血で書かれた恐ろしい魔導書ですよ。
※淫魔の血をひく怪物の血で文字が書かれたのは、キリストの教えに背いた修道士が書いた写本の方です
この本はおなじみリン・カーターがクトゥルー神話の中に導入しました。C.A.スミスが書いた魔道士エイボンが執筆した『エイボンの書』と共にハイパーボリア大陸で発見されたということになっています。カルナマゴスの誓約もスミスが作ったものなので、同じ作者のつながりということなのでしょうが、よくもまあダイナミックに組み込んだものです。
元々ギリシャ語で書かれた本が古代のハイパーボリア大陸で見つかるの、それこそ時間を越えたかハイパーボリアでギリシャ語に近い言語が使われていたかですよ。ちなみにハイパーボリアの着想元になったヒュペルボレイオスはギリシャで想像された理想郷の一種であり、ギリシャ神話の神々も逗留することがあったらしいので、まあギリシャ語の本がそこにあってもおかしくはないかもしれません。きっとそういう流れだったんでしょう。元ネタを大事にしたんだ……リン・カーターが!
中身としては「In that volume were the chronicles of great sorcerers of old, and the histories of demons earthly and ultra-cosmic, and the veritable spells by which the demons could be called up and controlled and dismissed.」とあるので、本の中では古代の魔術師の年代記、地球や宇宙の歴史、悪魔を呼んだり操ったり返したりする呪文が書かれていたようです。
インキュバスとかの淫魔って、修道女や貴族の娘さんが不思議と妊娠したときの言い訳として良く使われてましたが、その子どもの血で書いた写本だったんですよね……一体どれだけ化け物の血が必要だったのか考えたくもないですね。
【最後に】
死んでましたね、僕の感性。そうか……俺はこういう文章を上手に書けるし調べ物もすぐできるし午前一時半まで起きて書き続けられる男だったんだな。私としたことが自分ができることもわすれていようとはなんたる堕落。全ては労働と婚活が悪い。どちらも面白い文章を書く自分を忘れさせてくれますからね。でも労働はしなきゃ生きていけないし、労働から生まれた経験があって書ける文章もあるからね。
ただ定時にちゃんと帰るために勢いよく仕事を進めると脳は焼け付いて執筆の状態に入るまでにコーヒー飲んで夜ふかししないといけないくらい溜めの時間が必要になるし、溜めが終わって書き始めたら翌日に響く時間まで起きることになるというだけで……。
婚活? んなもん執筆の邪魔に決まってるじゃないですか。後に回せるなら十年くらい回したいよ。今しかないからやってるだけです。
社会人になっても執筆やお絵描きを続ける人々は偉いというのは良く言われますがやっぱ大なり小なり無茶をすることになります。文筆というのは人生を豊かにする為の行為なので程々にしていきましょう。それはそれとして私は身体が無事な限り好き放題やっていきますが……。科学の目で神話を見てクトゥルー神話の重要な骨子である科学から深く神話世界を解釈し、基礎知識を纏め、新しい視点も提供する。そういうことをやっていきたいと思います。よろしくおねがいします。
宮古ミーゴちゃんの動画“クトゥルフゼミナール”シリーズも引き続きよろしくね!
https://www.nicovideo.jp/user/122043219/series/425478
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