第四十七回 Kutuluってなぁに?

【初めに】


 お久しぶりです。世間はGWですね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。私は前回ご紹介したヘンリー・カットナーの『魂を喰らうもの』が完売+再販分も完売したことや、日産からフェアレディZの新型発売の発表があったことから、超ご機嫌です。『魂を喰らうもの』は面白い本なのでぜひ

http://seirindousyobou.cart.fc2.com/ca27/846/

 からつぶやいて、再販希望出しておいてください。

 さて、そんな中ですが翻訳繋がりということでぜひご紹介したいTRPGシステムが日本に入ってきました。

 それがこちら『Kutulu』(https://kutulu.jp/)です。

 スウェーデン発のクトゥルー神話モチーフのTRPGとなっております。

 判定はシンプル、進行の仕方も明確、データの作成も簡単。それでありながらクトゥルフ神話TRPGと近い遊び方ができて、廉価で手に入るという点で非常に面白い取り組みです。

 動画やツイートでの紹介も公式や有志の方々で行われているのですが、私も面白いと感じた点を文章の形で残しておきたいと思います。ほら、やっぱ探索者といえば手記ですからね。

 それでは始まり始まり。


PCプレイヤーキャラクターについて】


 Kutuluのキャラクターメイクは少し特殊です。というのも今回出版されたルールブックにおいては時代背景を1920年代以降の「第一次世界大戦の記憶が新しい時期」と定義しています。またPCに怪事件を調査するだけの「時間と関心、そして経済力」があるという前提で話が進められています。

 このあたりはクトゥルフ神話TRPGやトレイル・オブ・クトゥルーほど自由度が高くありません。

 そして背景として「出身地・階級・家柄」を決め、「職業・称号/肩書」を決めてから、実際の能力値を決めます。

 能力値に関してはこれまで決めた設定に縛られず「アクティブ能力値」と「パッシブ能力値」に自由に割り振りが可能です。勿論、これまでの設定と矛盾するとゲームを遊ぶ際に周囲が困惑してしまうのでおすすめしません。この能力値で戦闘や交渉、器用さなどが決定します。

 そしてその能力値とは別に専門分野があります。これはキャラクターの知識にかかわる数値です。そう、このゲームは知識とそれ以外の能力について別々に割り振りができるようになっているのです。故に。私は「俺馬鹿だから分かんねえけどよ……要は悪いやつをぶっ殺せば良いんだよなぁ!」って感じのヤンキー漫画みたいなキャラをよく作るのでちょっと驚きました。自由度が低い! みんなできる子です!


 ですがこの自由度の低さがKutuluの強みです。というのも、誰が、どこで、どんな面子で卓を囲んでも、GM(このゲームではKPではありません)とシナリオがある限り、話を進めることは可能です。だってどのキャラだってそこそこ判定はできますからね。んですよ、システム的に。

 だからこそ、知らない面子でとりあえず遊んでみようとなったときには非常に優秀なシステムとなりえることでしょう。キャラ同士でかぶらないように技能とるだけで手がかりはあつまりますから。


NPCノンプレイヤーキャラクターについて】


 PCたちの活躍を助けてくれるNPCと組織が明確に設定されているのも素晴らしいところです。

 これはルールブックの内容なのであまり詳しくは書けないのですが、PCたちが所属を推奨されるアンゼリカ・ソサエティという社交クラブがありまして、ここに依頼人や協力者が集まりやすいようになっております。ただ第一次世界大戦後の社交クラブなので当然ある程度の資産・学識を持った人の加入を前提としております。

 こういった話の作りやすさ・わかりやすさの為にも、PCの作成が限定されている側面があるのでしょうね。

 クラブに所属するNPCも纏められているので便利ですよ。


【ルールについて】


 ダイス判定に指針があります。特に重要なのは「もし十分な時間があるので

あれば、それはレベル1で成功できる行動と見做されるべきです」「失敗でも成功でもゲームマスターが面白い結果を考えられる場合にのみ、ダイス判定を行ってください」という文面です。

 とにかく進みやすくなっているんですね。これはトレイル・オブ・クトゥルーのガムシューシステム(最低限技能を持っていれば手がかりが手に入り話が進むようになる方式)に近いものだと思っていいです。

 そういう意味でも初心者のGMが「ここで想定外の展開が来ちゃったけどどうしよう」とは悩まずに済むスタイルです。

 自由度という意味ではやっぱり低いのですが、キャラクターのところでも話した通り、この自由度の低さこそがハードルの低さや遊びやすさにつながっています。TRPGって良くも悪くも手慣れた面子でどんどん難しい遊びを始めてしまって新規参入障壁が高くなりがちですから、ルール面でも「遊びやすい」というのは非常に良いことだと私は考えています。


【狂気】


 このゲームの特徴はここです。

 ラヴクラフトを始めとする多くの作家が描いている作品において、神話的恐怖を前にしたとき、人間の「正気が減る」だけではなく「狂気が進む」ことは皆さんご存知かと思います。

 このゲームではその「狂気が進む」という点に着目して執筆がなされております。具体的に言うと「キャラクターの狂気の状態はゲームマスターが管理します。」になります。このゲーム、SANチェックしなくていいんです。否認→模索→受容→適応の四段階を、神話的存在との遭遇に応じて進めていくだけです。そしてこの狂気の段階によって見えてくる情報も違います。ここでGMはPCの状態によって開示する情報を変えるようにと推奨されています。

 私だったら狂気が進行したキャラを一人用意して狂気のPC間格差を作り、情報の伝達をスムーズにするようなマスタリングを考えます。実際、クトゥルー神話の作品を見ていただくと先行発狂者+視点人物という構造は多いですからね。この前紹介したカットナー作品とかは特に多いですよそういうの。

 また、狂気の症状としての幻覚も、ドリーム(夢を見る)→キメラ(現実の中に幻が交じる)→ファンタズム(幻と現実の区別がつかなくなる)とわかりやすく、また「幻覚は、最初はさりげなく導入し、いきなり狂気には導かないでください」という指針もあるのでこのあたりも親切でいいですね。


【ポリティカル・コレクトネス】


 Kutuluの記述で興味深かった点はここですね。TRPGのルールブックにおいて非常に重要な点として、参加者の不快な体験や記憶を刺激しないというものがあります。これはCOCやトレイル・オブ・クトゥルーでも意識されていることです。このKutuluでも「ラヴクラフト世界特有の狂気と、世間一般でいう精神障害が異なるものであることを明言しておきます」と、「社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図」された記載が見受けられます。

 これはとてもな考えです。というよりも今後はになるかもしれない記載です。ほら、今の世の中って私がこういった文面に対して「かーっ、ラヴクラフト世界の狂気描写だって現実世界と密接に絡みついて切っても切り離せねえだろぉ~! これだから(物の例えとはいえスウェーデンの人に対して失礼すぎたので推敲段階で自主規制します)なスウェーデン人はよぉ~!」などとSNSで言ったらスクショを撮られ炎上待ったなしでしょう。同じ社会を構成する仲間に対してそういった差別的な意味を持つ・誤解を招く表現は回避するのが今の世の中のルールですからね。そういう点でも新しいです。

 現実の様々な問題を想起させる邪神も多いことですし、Kutuluで扱う邪神には慎重なチョイスが必要かもしれませんね。現実の障害や疾患には配慮してねと言う他のシステムと、システム側で別物ですと言い切ったKutuluでは違いますから。


【問題点】


 個人的にKutuluの問題は以下の二つだと思います。


・無料で遊べる公式サンプルシナリオが無い(2022/04/29時点)

・神話的存在に関しての記載が少ない


 有料のシナリオはすでに公開されているのですが、やはり最初にルールブックを買った時点で無料のシナリオがついてきて、世界観を把握できないというのは遊ぶにあたって問題が大きいと私は考えます。神話的存在についてもそうです。挙動やデータの指針が無いと遊びづらいです。神話的存在の扱いはシナリオごとに大きく違うのでまだ良いとしても、やはり


・無料で遊べるサンプルシナリオがない(2022/04/29時点)


 というのが大きな問題です。

 せっかく遊びやすいというシステムの長所があるのに、これではその強みを活かせません。

 しかし幸いにも現在「Kutuluシナリオコンテスト」(https://campaign.talto.cc/kutulu-contest/)が始まっています。

 このコンテストの開催により、簡単に遊べるシナリオの数が増えていくことが予想されます。

 また、今回の発表自体「GW前に発売するPDFは「ベータ版」と位置づけ、GW明けにさらに品質を向上させて、アップデートすることを事前にお知らせいたします。」という告知がされております。

 基本ルールブックのサンプルシナリオは、作成者側が読者にどのように遊んでほしいかという意図を発信する重要な役割があります。TRPGのルールブックにとって欠かせないものです。今後のアップデートが楽しみですね。


【最後に】


 という訳で今回はKutuluの紹介でした。

 クトゥルフ神話TRPG、トレイル・オブ・クトゥルー、ダブルクロス3rdなど、クトゥルー神話を楽しむTRPGのシステムが大量にある中で、新たな作品が現れるというのは非常にありがたく、一ファンとして嬉しい話です。

 また、海外のシステムを翻訳するというのは難しく、単純な翻訳だけでなく、ローカライズという観点も重要であることを学んだという意味でもKutuluを購入出来てよかったと思います。

 クトゥルー神話をゲームで楽しみたい人の為に、今後も様々な選択肢が現れると良いなと思います。

 次回はせっかくなのでトレイル・オブ・クトゥルーの紹介記事を書いていきたいと思います。ルールブックもサプリもめちゃくちゃ面白いし、遊びやすい良いシステムですよトレイル・オブ・クトゥルー。


 それでは次回までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬよう。

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