第三十三回 “クトゥルフ神話ガイドブック改訂版”は素晴らしいというお話
【初めに】
異世界トリップと埴輪の破壊とヘビィボウガンの練習に勤しみすぎて更新が遅れました。申し訳ありません。大事を取って最後の治療が少し後ろにずれてしまいましたが、現在のところ血液検査の結果も良好です。
今回は2020/10/3に発売された“クトゥルフ神話改訂版”についてご紹介したいと思います。
こちらのガイドブックは著者の朱鷺田先生が2004年に発売なさっていた“クトゥルフ神話ガイドブック”に大幅な加筆・修正を加えたものとなっております。
20世紀におけるクトゥルー神話の歴史を振り返り細やかに纏めた上で、21世紀に突入してからの現代日本クトゥルー神話の受容の歴史を第一線を走った立場から丁寧に振り返ってくださっております。
我々は21世紀における歴史の一部ですが、朱鷺田先生は歴史そのもの、すなわちとても偉大ということです。今回のお話は、その優れた知見を学ぶべく、“クトゥルフ神話ガイドブック改訂版”を購読すべきだよ、というお話です。
クトゥルー神話を知らない初めての人には、すこし厚く・高く感じてしまうこともありませんが、お買い得間違いなしであることを理解していただければ幸いです。
【第一部 ラヴクラフトと神話の誕生】
この本は序章と資料集と本編が三部、あわせて五部の構成になっております。導入と概要を語る序章を終えた後、まずは重要な基礎であるラヴクラフト御大の作品についての解説が入ります。
『クトゥルフの呼び声』から始まり、『宇宙からの色』に終わるこの章では、作品の紹介とは切っても切れないラヴクラフト御大の生涯についても紹介を行います。朱鷺田先生の執筆なさっている『ラヴクラフト1918─1919 アマチュア・ジャーナリズムの時代』やパンタポルタ連載の『クトゥルフ四方山話』などにも掲載された内容を、今回の作品に向けて編み直しています。特にパンタポルタ連載の『クトゥルフ四方山話』はお手持ちのスマホ・タブレット・PCからアクセスが可能ですので、この本の雰囲気に触れてみる為に調べてみても良いかも知れません。
第一部の作品解説において、個人的に推したいポイントは時代背景と描写がいかにしてリンクしているかという点です。作品そのものの解説、ラヴクラフトの解説、そして時代背景の解説。この三つが噛み合うことで、一つ一つの作品に対して『何故書いたか、何を書こうとしたか、どのような手法を使ったか』を分析することができます。
小説を書く場合は、ラヴクラフト御大の作品が何故魅力的なのかを理解することで、自らが神話にまつわる作品を書く際の参考にすることができます。私は御大の作品の魅力は時代性にあると思っていて、その時に起きたことや社会を鋭く題材に取り込むことで、読み手を惹きつけたと考えています。それ故に、その血を継ぐ作品群は、どどんとふやココフォリアを囲んだ“今を生きる人”の物語として好まれるのではないかなと。私も一番最近書いたクトゥルー神話作品は大阪万博のロゴマークをモデルにした話です。結構受けました。Web小説のホラーを読んでくださる方は貴重ですが、今を生きる人の恐怖や違和感に寄り添った物語は何時でも需要があるのではないかと私は思います。
TRPGのシナリオを書いたり、KPをやる場合は、特に時代背景についての記述が参考になることでしょう。現代もの、ジャズエイジ、あるいは遙かな未来を舞台にしたSF、比叡山に火を着けたりしてもいいですが、時代背景を理解していると楽しみが増えます。知っていると楽しい。昔の時代の描写を自分にとって疑似現実的な出来事として受容できる訳ですから。多くの人がゲームをやる理由は楽しいからだと思います。この第一部を読むとシナリオの何気ない描写から時代背景を楽しんだり、逆にシナリオの細部にさりげない時代ネタを仕込んで楽しくなったりできるわけですね。
こうして楽しく役に立つ記事を通じて基礎を固めたら次は二部。ラヴクラフトに続いて活動した多くの作家についてを紹介するパートへ入ります。
【第二部 後継者たちの悪夢】
ラヴクラフト御大の周辺の人物について、作品とともにクトゥルー神話にどのような貢献を行ったのかを紹介しています。オーガスト・ダーレスやクラーク・アシュトン・スミス(C.A.スミス)などといった有名どころから、フランク・ベルナップ・ロング(ティンダロスの猟犬の創造者)やゼリア・ビショップ(蛇神イグの創造者)といった中々詳しい情報が手に入らない作家まで、詳細な解説がされています。
更にここにきて、この本の便利機能である“リーダーズ・ガイド”が光る。この本では紹介した作家の話が載った本がどの出版社のどんな本なのかを紹介してくださるのです。福利厚生ですよ。まさにガイドブック! ラヴクラフト御大以外のクトゥルー神話の作品は、クトゥルー神話全集やそれに関わる短編集に飛び飛びに収録されてしまいがちです。勿論作家ごとに纏めて読みたいというのが一番の願いなのですが、そうでなくとも気になった作品をつまめるというのはとてつもない利便性! このリーダーズガイドと相まって、第二部はより知識を深めたいという方にぴったりのパートとなっております。
個人的に嬉しい点としてはC.A.スミスの作品についての紹介をガッチリなさっているところです。C.A.スミスはクトゥルー神話の作家として有名でありながら、クトゥルー神話だけに創作の枠を留めず、結果として神話の枠を広げたスミス先生の功績についても、是非皆さんチェックしてみてください。
【第三部 クトゥルフ・ジャパネスク】
そしてついに現代日本クトゥルー神話シーンについての言及が始まります。もしこの本を読んでいく中で「高度だ……」「知らない……」みたいな感覚を覚えた時、あるいは書店で見かけて軽く雰囲気を見たい時は一度ここまで飛んでみましょう。あなたにも見覚えのある作品が、日本のクトゥルー神話の系譜の中でどのような役割を果たしているのか解説されている筈です。ここを読むと自然に本そのものに入り込んでしまう筈です。この第三部と後に続く第四部は特に、初めてクトゥルー神話に触れている人にこそ読んで欲しい本だと強く感じました。
……と、ここでいきなりですが最近嬉しいことがあったんですよ。この項目で私のデビュー作「邪神任侠」が紹介されました……応援コメントなどで良かったねって言ってください。お祝いしてください。過分なお褒めの言葉を頂いております。光栄ですね。デビュー作だけで続き出てないだろなんて言わないでください。二作目の壁ってよく聞くじゃないですか。その中を頑張っているので、応援してください。
さて話をこの第三部に戻していきましょう。個人的にこの第三部でありがたい記事はなんと言っても日本人作家によるオリジナルのクトゥルー神話小説の紹介です。というのも、クトゥルフ神話TRPGなどの卓動画によるクトゥルー神話の隆盛とこの辺りの時代の文脈って明らかに乖離と断絶があると見ておりまして、そこを補完することで現代性と普遍性が作品に生まれるのではないかと考えています。今の時代に即しつつ、クトゥルー神話という未知の世界を体験してもらう為の工夫を凝らす。動画世代としては、この未知の世界への導入技術を参考にしない手はありません。なんなら邪神任侠も露骨にそこを意識していました。朱鷺田先生が仰っていた既視感というお言葉は正しくその通りで、更に言えばその既視感を脱却しきれていない私は未熟なのですが、ちょっと書いてて辛くなってきたのでこの話はまた今度にしましょうか。
ともかく、です。何故その作品を書くのか、何故そのように書くのか、何故その神話要素を盛り込んだのか、そういったことを考えるためのヒントになるパートなのです。偉大です。
【第四部 資料編】
簡単な用語集、これまでに出版されたクトゥルフ神話TRPG関連作品、そしてラヴクラフト御大の代表作品のあらすじ集が載っています。
まずは用語集、こちらはこれまでに出ている用語集や辞典の内容を踏まえた上で、ワンポイント豆知識がついていたりします。この豆知識が自分で確認とるのが難しいものについて記載箇所も一緒に紹介した上で載っているので神話知識について語る際の小話のネタ探しにピッタリで、私としては非常にありがたいです。
続いてあらすじ集。こちらは特におすすめ。クトゥルー神話に初めて触れるという人でも、先にあらすじがわかっていれば読みやすいですしね。逆にネタバレが苦手な人は読まない方が良いでしょう。でもネタバレ覚悟で読む方が絶対に元の作品読んだときに読みやすいと思うので、ネタバレが苦手という人にもぜひ読んで欲しいところです。こういう事をいうのでネタバレ苦手な人の心が分からない男と言われるのですが、物語への理解を促進する意味では本当にオススメのパートなので、ネタバレ苦手という人にも本当に読んでもらいたいものです。
あと忘れてはならないのは参考資料のパートです。これは学術論文とか他の専門書でも一緒なのですが、参考にした論文や資料や書籍をたどっていくのは学びを深めるにあたって非常にスマートな手法です。自分の持っている本が並んでいて嬉しくなったり、知らない外国の文献の名前を知ったりできる素敵なパートです。ぜひここまで目を通してください。
【最後に】
無事に発売から一ヶ月以内に紹介を終えることができました。本当は治療でバタバタ忙しくなる予定だったのですが、検査したらちょっと経過観察しようねって話になったので、月末か来月頭くらいから治療開始になりそうです。ここが終われば元気な姿でまた執筆ができると思うのでゆっくりお待ちください。
今回のガイドブックはとにかく濃厚で、たとえばお子さんに一冊与えて何度も読み返すとあら不思議あっという間にクトゥルーの大祭司あるいは将来のウィルマース財団のエリートエージェント間違いなしの素敵な一冊です。自分で読むばかりではなく神話の沼に嵌めたい人にプレゼントするのも良いかもしれません。
それでは今回はここまで。次回までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬように。
【宣伝】
さて、最近書いている異世界転生物のお話です。
しがない高校教師が、麻薬村のエルフたちと暮らす内に、悪徳貴族と戦う必要に迫られた挙げ句、麻薬王にまで成り上がってしまう異世界転生ものです。
今回のガイドブックで言えばクラスⅣのシェアードワード(マイナー)に分類されています。女神の正体がニャルラトホテプ級銀河開拓戦艦“赤の女王”であり、ケイオスハウル時空が生み出して全ての銀河に解き放ったニャルラトホテプの化身なので……。そのあたりの話は本編では出ないのでクラスⅣです。
フォロー、☆、応援コメントなど、とっても歓迎です。
「異世界麻薬王~元化学教師が耐毒スキルと科学知識で迫害されたエルフを救い麻王-まおう-となる~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます