第二十九回 ダオロスってなぁに? (Fate/Grand Orderにおけるホームズについての考察あり)

【初めに】


 Wikipediaって便利ですよね。よく分からないことがあったら僕もとりあえずwikiで調べちゃいます。クトゥルー神話に関係する記事は最近とくに充実してきて、気になったことをちょっと確認したい時とか、調べたい神様の参考資料を調べる時には非常に役に立っています。英語の資料とかもリンクから調べると良い感じに良い感じですよ。

 今日(執筆時2020/07/16)、私はクトゥルフ2020のシナリオで題材になっていたダオロスについてお話しようと思ったんですよ。まあWikipediaめちゃくちゃでしたね。なぜかダオロスのところがグロース(https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054892212443)の内容になってるんですよね。意味が分からん。俺が調べてまとめねば……と更に強く決意したのでした。


 という訳でダオロスです。変幻自在に輝き蠢く不思議な神。クトゥルフ神話TRPGでは外なる神に分類される強大な邪神です。この神がどんな存在なのか、なぜ恐ろしいのか、なぜ比較的マイナーなこの神がクトゥルフ2020のシナリオにとりあげられたのか、私の勉強したことをお話したいと思います。


【外見について~口に含むと塩味がするそうです~】


 ダオロスの姿は人間の目には捉えきれません。英語版の外見描写読んだんですが、読むほど正気を持っていかれるような文言が並んでいます。

 この神は人間の目には捉えきれません。光の束を纏い、棒に囲まれている不定形の塊という記述はあるものの、人間が無理に視覚で捉えようとすれば感覚に異常をきたし、正気を失ってしまいます。これを信者が像としたものについての記述をラムゼィ・キャンベル先生の「ヴェールを破るもの(The Render of the Veils)」から一部抜粋の上、対訳しました。まずはわけの分からなさを一緒に味わってください。


「The image of Daoloth was not shapeless, but so complex that the eye could recognize no describable shape. There were hemispheres and shining metal, coupled by long plastic rods. The rods were of a flat grey colour, so that he could not make out which were nearer; they merged into a flat mass from which protruded individual cylinders. As he looked at it, he had a curious feeling that eyes gleamed from between these rods; but wherever he glanced at the construction, he saw only the spaces between them.」

「ダオロスの像は、そこに確かにあるはずなのに、視覚では理解しきれないような複雑奇妙な作りだった。まず半球と輝く金属が長い樹脂製の棒で組み合わされている。その棒はのっぺりとした灰色で、重なり合ううちにどちらが近いかもわからなくなり、遠近感を狂わせる色合いだ。それらは渾然一体となって一つの円筒を構成していた。観察するにつれ、彼は像を構築する棒の隙間から瞳が輝いているような、奇妙な感覚を覚えた。どれだけ注視したところで、そこには何もない空間しかないというのに。」


 はい、わけがわからなくて楽しいですね。怖いですね。私にとってクトゥルー神話の本質にあたる「分からない恐怖」「分かってしまうことの恐怖」を帯びています。

 ダオロスの特徴はこの「分からない」「分かってしまったら終わり」というところにあります。邪神として、根源的で本質的なんですよ。だからこそ格が高いのです。


 ではそんな高位の神は、果たしてどんな存在からの信仰を受けてきたのでしょうか? どんな力を持つのでしょう? 次はそれについてお話します。


【ダオロスの信仰と力】


 地球ではアトランティス、地球外でもユゴスやトンドなどの惑星で崇められていました。現代においてもダオロスを崇めるカルトは存在し、理性と正気を焚べながらかの神を求める儀式が行われています。


 ではなぜ崇められているのでしょうか? 信仰により、ダオロスはどんな力を与えてくれるのでしょうか?

 全知です。宇宙の知識を与えてくれます。アトランティスの予言者はこれを利用して彼らの仕事を行っていたのだと思われます。そしてユゴスといえばミ=ゴですね。あいつらはイヌを殺す最悪種族なのですが、科学技術の発展に関しては認めざるを得ません。やつらは卑劣にもダオロス様の知恵を盗み、技術を発展させてきたのかもしれません。皆さんもミ=ゴを見つけたら焼き払いましょう。卑劣な連中です。

 TRPGにおいても光に触れた瞬間に正気を持っていくやばい存在として化身が確認されています。その他、PCがそのカルトの創始者になってしまい、止めなくてはならなくなるというユニークなものがあります。


 ところでみなさんもダオロスに接触してみたくはありませんか? 私は遠慮しておきますが、真理に触れたいという皆さんの声にお答えして儀式についてもまとめてみました。


【儀式】


 サーマーの儀式という人外の聖職者たちが使う呪文があります。それは旧神の印ですら抑えきれない外なる神への最後の手段であり、神に仕えるものが神に仕える為に神から身を守る儀式です。儀式には八つの印が使用され、それぞれに守りの力があるとされています。特にこの中の第二の儀式がダオロスの召喚に深く関わっており、この第二の儀式で組み上げる五芒星(プレーンの五芒星)がダオロスの力が術者を傷つけることを防いでくれるのです。しかし人間である限り残念ながらこの術は使えないので、必然的に人間を捨てる必要があります。

 この制約を掻い潜る方法は無いのかですって? たとえば深きものどもの混血とかだったらどうでしょう? ダオロスを扱った「ヴェールを破るもの」という作品で儀式に参加した人物の名前はフィッシャーとギルマンなんですよ。ラヴクラフト世界では有名な苗字です。儀式は良いところまでは行っていたし、五芒星の準備もできていたところからすれば、深きものどもの混血であればこの厄介な条件設定を突破できる可能性があります。私? 多分ただの人間なんじゃないかなあ……惜しい。読者の中にもし深きものどもの混血の方が居たらためしてみてください。


 それでは儀式の手順について簡単にまとめてみましょう。まずダオロスの姿をハッキリ見ない為に部屋を暗くします。次にダオロスを留め置くのに最低限必要なロウソク二本、燭台にする為に穴を二箇所あけた人ならざる存在の髑髏。口がないという描写から夜鬼の頭蓋骨が使われたと推測されます。

 これらを準備した部屋の中で「うとごす ぷらむふ だおろす あすぐい」から始まる呪文を唱えると完了です。儀式の主催者は神の似姿を刻んだ杖とかも持っておくと良いでしょう。呪文はそのまま持ってくるのも良くないので森瀬先生の「ゲームシナリオの為のクトゥルー神話辞典」か「ヴェールを破るもの」を日本語訳したた「クトゥルフ神話への招待 ~遊星からの物体X」を購入して確認してみてください。日本語で詠唱しても問題なければいけるはずです。


 最後に、ダオロスの召喚には適切な時間を選ぶことも大切です。これは地球の暦ではなく、全宇宙単位で決められた時間です。そんなの普通分かりませんね。私なら時間を司る神の慈悲を借りて適切な時間を掴み、然る後儀式を行うと思います。まあ私はやろうと思いませんが、気になる方は参考にしてください。


 それではダオロスについて分かったところでまとめに入りましょう。


【まとめ】


 ダオロスの本質は「分からない」ことです。よしんばすべてを理解しても、理解したものは狂気の彼方から帰ってこられません。故に、ダオロスを理解するものは理性の世界に存在しません。また、実際に作品で描写されたダオロスの儀式において、失敗したのは主催者の不信心からです。。そういう意味でもやはり神として本質的なんですよね。神と人間の関係、人間の小ささ、狂気、信仰、それらをシンプルに詰め込んでいます。

 だからこそ外なる神なのです。あまたある邪神の中でも隔絶した高位存在たる外なる神とされるのです。クトゥルー神話における邪神の機能をコンパクトに纏めつつ、人間的善悪を超越した大きすぎる力、矮小すぎる人間が本来触れるべきでなかった存在、という性質を有しているのがダオロスなのです。

 故にクトゥルフ2020のシナリオでも、ダオロスに触れ続けたものは仮に無害化しても人間のままではいられずに変容してしまったと思うんですよね。

 思い出しました。人間のままではいられなかったダオロス関係者の話をもう一つしましょう。みんな大好きFate/Grand Orderから、名探偵ホームズです。


【名状しがたき色の考察】


 FGO第二部からのホームズがキャスターからルーラーにされてしまったことに、実はダオロスが関係しているのではないかという与太話があります。確かに最初に出会った時はキャスターだった筈がルーラーになってしまったのもホームズとダオロスの力を抑え込む枷(実際にオリュンポスで力が暴発してカルデアに被害を出しており枷が必要であるとも示された)と見ることはできますし、ダオロスのデザインとホームズのデザインが似ていること(私の主観では言うほど似てないです)、またフォーリナーのクラスカードとホームズのデザインが似ていること、スルトがホームズの霊基に混ざりものがあると指摘していること、ホームズがそのものずばりダオロスの信仰があったアトランティス(オリュンポス)においてゼウスから馬鹿になる呪いを食らって自由な動きを封じられていること、そもそもスキル名「天賦の見識」が天から与えられた洞察力=ダオロスから与えられた世界知覚能力なのでは、といった気になるポイントがいくつもあります。ああ、あとホームズもダオロスもイギリス人作家の作品ってあたりも奇妙な符号ですね。

 第一スキルってサーヴァントの生来の資質に深く関わるものというのは考察者ならばよく聞く話だと思いますが、それが天賦の見識なのが本当に成立に関わってそうだなあって思うんですよね。魔術師(人間)から裁定者(人を超えた立場)になるのもそれらしい感じがあり、無関係ということだけは絶対にないと思います。

 あと何度でも言いますが型月は日本でも最高峰のクトゥルー知識保有創作者集団なので、ここまで怪しい点が盛り込まれているのは意図してのことだとしか考えられないんですよね。重ねて言いますが無関係ということだけは絶対にないと思います。

 あと、日本においてミステリーとクトゥルー神話の受容の歴史って実はすごく深い関係がありますからね。そういう意味でも興味深い。クトゥルー神話研究の大家でFGOにも協力なさっている森瀬先生とか生粋のシャーロキアンですからね……。そういう意味でも絶対に遊び心を仕込んでらっしゃる筈だと私は踏んでいます。


 しかしこれだけ接点はありますが、そこでダオロスがシナリオで触れられるのか、というと微妙な気がするんですよね。触れられたとしても、型月世界観内部で整合性のある理屈を与えられて、その理屈の中にまたダオロスとの関係性を示唆する手がかりが存在するって程度に留められるのではないかと。関係性を明確にすること自体が危険なんですよね。

 何故って? 単純な理屈ですよ、皆さん。

 この問題において大事なポイントは、ホームズがわざわざルーラーになっていることです。ダオロスについての話をやるならフォーリナーで良かった筈なんです。これはフォーリナーにさせると危険な理由とルーラーにさせないと危険な理由があったと見るべきです。

 まず、型月世界観的にも、ダオロス&ホームズの能力は、聖槍が縫い止めているような“織物”を引き剥がしてしまうんですよ。つまりダオロス&ホームズが能力を使うだけで地球を白紙化させかねないレベルの危険性を持っているのです。フォーリナーの力は制御が難しく、またベースの邪神としての性格が前に出てしまいます。“織物ヴェール”が非常に簡単に破られてしまうことは間違いないでしょう。なにがどうしてダオロスとホームズが接点を持ったかは知りませんが、ルーラーにでもして彼らを「管理・監督・裁定」という立場に抑え、人理を守る為だけに力を使わせなくては、折角カルデアに来たホームズが人理を壊すという本末転倒な事態が発生してしまいます。

 そういう観点から考察すると、オリュンポスでホームズが最優先で狙われて他のメンバーが見逃されていたのもホームズだけが「ギリシャ神話」という“織物“を引き剥がして「クトゥルー神話」で染めることができる危険性があったからかもしれません。

 しかも作中でわずかにでもダオロスとホームズの関連性が触れられたら今挙げた危機とカルデアが向き合わざるを得ません。作劇的にも触れたら取り扱わざるを得ないし、設定的にもヴェールを破るものと探偵ですから。探偵の見出したヴェールを破って現れた外なる神、別に向き合わなくても良い危機が急にポップしてしまうのですよ。オルガマリー所長で盛り上がっている今、そんな事やったらFGO第二部は何の話だってなっちゃいますよ。だからまあこれまでのフォーリナーとは何もかも違って、ホームズとダオロスの関係性は秘匿されるべきなんですよね。あとそうなるとクトゥルー神話嫌いな人たちが絶対うるさいですからね! そういう人たちにギャアギャア言われないように黙ってニヤニヤしてましょうね! 先生とのお約束です! 分かる人にだけ分かる範囲で分かればいいし、知らない人は知らなくても良い。そういう部分含めて非常にダオロス性が高くて最高ですよ、ホームズ。

 なのでまあホームズとダオロスについては与太話だろ~ってヴェールをかぶせておきましょう。多少イヤミを言われても聞かないふりをしましょう。別に私たち、クトゥルー神話が好きなだけでしょう? 神話が主題じゃない作品であんまり騒ぐのも無粋じゃないですか。そういう態度が「必要なことだけを知る」「リスペクトを忘れない」っていうダオロスとの上手な付き合い方にも通じると思うんですよね。


【最後に】


 ダオロス、軽くやるつもりがかなり濃厚に語ることになってしまいました。情報がそう多い訳じゃないんですが、かなり散逸してしまっていたので、丁寧にまとめ直す必要があったのでやむなしです。初期に比べるとかなり内容を充実させられるようになりましたね。今の力で初期に纏めたメジャーどころの邪神についても纏め直したり、この知識や力を使った物理書籍展開もやっていきたいところです。応援してくださっている皆さんが喜んでもらえるような報告をできるように努力します。楽しみにしていてください。


 くれぐれも次回まで闇からの囁きに耳を傾けないように。

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