第二十六回 遺伝子とクトゥルー神話②【応用編】(深きものども)

【初めに】


 今日は皆さんに悲しいお知らせがあります。受講生の中にここの講座の内容を丸パクして自分の作品として発表した子が居るのです。さあ皆さん机に顔を伏せて、心当たりのある人だけ手を上げましょう。よし、いませんね。なおボイスチャットや配信でこの作品と内容について紹介してくださる場合はタイトルとこの作品へのリンクだけ貼ってくださればオッケーです。内容を引用したい場合ですが、大学で習うようにしてくれればいいですし、知らねえよそんなのという場合は直接聞いてくれればいいです。引用したい場所教えてくれればいい感じにするので。

 此処にやり方を書かないで聞いてくれっていうのは、趣味が合う友達が欲しいからですね。とてもわかり易い理由です。北海道の僻地に住んでいると同じ趣味の友達が欲しい。僕だって人様の研究を参考にしてここで文章を書いています。他人の知見を元に自らの思索を深めるのは当たり前のことです。だから質問は何時でも大歓迎、是非仲良くしてください。

 なおパクられた案件については既に掲載サイトの運営様に通報して絶賛公開停止となっておりますのでご安心ください。サイトからの停止なのか自分から停止したのかは分かりませんが、迅速な対処まことにありがとうございます。一応言わなければいけないので強く言ってますが、僕の作品が好きみたいなので、できれば仲良くしたいんですよ。マジで。

 そもそも知識や思想というのは生きており、伝わることで自己保存や複製を行うのです。その行為は何も遺伝子を持つ生き物だけの特権ではありません。言葉は生きています。生み出した人間の意図を超え、様々な側面を生み出し、広がっていきます。ウイルスも同じです。生物としての機能の多くを欠き、塩基配列のみで増え続けるウイルスも、生態系の中で大きな役目を果たしています。まるで言葉のようではありませんか。本日扱うのはそんなウイルスのお話。神話と遺伝子パート1で取り扱えなかった深きものどものお話です。

 彼らはどうして人間を使って増えるのでしょう。彼らはどのように人間を使って増えるのでしょう。そういったことについて語りたいと思います。


 さて、それでは神話と遺伝子パート2を初めていきましょう。


【インスマス面・遺伝子仮説】


 クトゥルフ2010において、インスマス面は『細胞質中を漂う遺伝子がある時から核の中に入り込んで細胞の形質を変えてしまう』のではないかという話が提示されています。

 これは非常に面白い話です。元の話ではじゃあ何時の間に漂って何時の間に忍び込むんだって話にもつれていくのですが、まずは現実にそのような「成長途中から働く遺伝子とかあるの?」って話をしましょう。

 皆さん思い出してください。身長の伸び、止まりませんでしたか? 骨の成長する細胞や成長を促すホルモンは途中から出なくなっています。性的成熟などの刺激を受けて、肉体が不要と判断し、そういったホルモンが出なくなる訳ですよ。いくら遺伝子を抱えていたところで、その遺伝子を元にタンパク質が合成され、肉体がそれに伴って働かないのならばその遺伝子は無いのも同じ。だから「決まった年頃になるまで働かない遺伝子」というのは存在しうるんですよ。

 なのでインスマス面の人々が人間から離れていくのは赤ん坊の指が五つになり、身長の伸びが止まっていくような、ある意味当たり前の摂理なんですよね。

 ただ最初からそういった遺伝子なり染色体なりがあって働いていないだけの場合、ヒトゲノム解析の過程でかならず発見され、解析され神秘が白日の下に晒されます。その事実を踏まえて正面からインスマス面を扱ってみる話は、バッチバチのSFとして面白くなるかも知れません。逆にその前提をすっ飛ばして高度な科学をSFとしてやるとなると「生命科学はまだ進んでいない」と回避するか、「どうしても分からないブラックボックスがある」みたいな話になってしまいます。どうしてもわからないブラックボックスなんて出しておいて扱わないわけにもいかないし、生命科学だけは進んでないよ~にするのが安心安全ですね。邪神のせいにできるし。

 余談ですが人間の細胞の中には、全く別の生物の遺伝子が保存され続けています。みなさん、ミトコンドリアというものをご存知でしょうか。これは細胞の中で酸素を使ってエネルギーを作ってくれる大切な器官です。このミトコンドリア、本来人間とは全く別の細菌に由来する遺伝子を持っており、人間の一部でありながら別種の生物なんですよね。たとえばですが、このミトコンドリアが人間の遺伝子を書き換えることができたら、そういった機能を持つ特殊なミトコンドリアによって人間の遺伝子が書き換えられたら、大いなるクトゥルーがミトコンドリアを操ることができたら、インスマス面とかの説明にまた一つ幅が生まれるかも知れません。

 余談の余談ですが、ミトコンドリアの挙動を取り上げた小説があります。瀬名秀明先生の『パラサイト・イヴ』です。瀬名先生も薬学部出身で、僕も学生時代は教授に「海野! 君はパラサイト・イヴみたいな小説を書いて売れろ!」などと言われたものです。まあ書きたいですが現実は世知辛い。そもそも小説があんまり売れない! くそ! 売れる小説書きてえなあ! 現在執筆中の『異世界麻薬王』、もしも発表したら応援よろしくね!


【インスマス面・ウイルス仮説】


 こちらは別方面からのアプローチ。ウイルスに感染することで体の仕組みが変わっているんじゃないかという話です。これは単純に細胞質に遺伝子があると見つかってしまう可能性が有るから惜しいよなって思ったんですよね。

 この説ではインスマス面が深きものどもを媒介し、人間に血液感染するウイルス病ではないかと考えます。そうするとイルカに血液感染してイルカと深きものどもの間に子供が生まれるなんて話にもまだ納得がいきます。深きものどもが人間の苗床を必要とするのは、深きものどもウイルス(仮にDウイルスとします)のキャリアが必要なんですよ。人間にDウイルスを感染させても免疫機構が邪魔で最終的に排除されてしまう可能性が高いし、感染させた人間も生きていられるかわからない。ならば最初から苗床にした人間にポンポコポンポコ子供を産ませてその子供が母子感染した状態で生まれてきてくれれば万々歳。母子感染した子供が次のDウイルスのキャリアになってくれます。適当なタイミングで発症するまで放っておけば次のキャリアを作ってくれます。じゃあそのDウイルスの元が何なのかと言うとダゴンやハイドラではないかと私は考えます。ダゴンやハイドラが様々な種族にDウイルスを植え付け、植え付けて出産させた個体を操り、血液感染や母子感染を通じて彼らに都合よく肉体を作り変えたりしている訳です。


【サバがマグロを産む話】


 ここで補足。

 受精卵・胎児って免疫系も体の仕組みも完成していなくて、その状態で遺伝子を組み込んだりすると案外あっさり定着しちゃうと言われています。同じサケ科のヤマメとニジマスだと、ニジマスの生殖幹細胞をヤマメの稚魚に移植すると定着して、ニジマスを産むヤマメを作ってしまえるそうです。この研究はサバにマグロを産ませることを目的として進んでいますが、同じ理屈でダゴンやハイドラが人間に深きものどもを産ませる研究をしていたとしても特におかしくないよなあと私は思いました。

 イルカが良いのか、人間が良いのか、あるいは鮫が良いのか、とにかく使えるものは何でも使って、深きものどもは生まれ続けています。ここからは僕の受信した電波なのですが、あくまで深きものどもの生産はついでなんですよね。本来ならクティラからしか生まれないクトゥルーに、クティラ以外の母体から生まれてもらう為の壮大な実験なのではないでしょうか。単純に深きものども同士の交配に手間がかかるので人間を使おうってだけの可能性の方が高いですが、そういうロマンが有ってもいいですよね。人が神を産む物語です。


【複合仮説】


 これまでの話を踏まえた上で、ウイルスの影響で、特定遺伝子が働き始める場合があってもいいじゃないという話もします。

 インスマスの影において、主人公は自らの出生について理解した後、インスマスに再び向かっています。別に暮らすだけなら何処の海でも良かった筈ですよね。呼ばれたということですが、じゃあ何が彼を呼んだのか。

 鮭は生まれた川を目指して遡上します。ある種の寄生虫は次の宿主に乗り移る為に宿主の行動を操ります。主人公はウイルスの誘導により生殖行動を行う為に、彼の保持するインスマス型Dウイルスの導きに従ってあの場所へ向かったのかも知れません。場所によってDウイルスにはいろいろな型があり、それぞれの故郷へ向かっていくのでしょう。

 この話において主人公は明らかに深きものどもの血族でした。しかし、インスマスを訪れた時でもその事実にも気づかず、また深きものどもへの変貌も始まっていなかった。彼が覚醒したのはインスマスを訪れた後です。

 もしかすると彼はインスマスからの決死の逃避行の間にDウイルスに感染したのではないでしょうか。逃げ出した後、時間差で発症し、その後は他の親族達と同じ運命をたどったのでしょう。インスマスはそういった人間の中の深きものどもとしての性質を目覚めさせるタイプのウイルスが増えやすいのかも知れません。人間の体内ではすぐに消されるけど、その刺激で人間の身体が変わってしまう……みたいな。実際にウイルスそのものが消えたとしても、消えるまでの間に発生したウイルス性疾患によるストレスで、遺伝子変異が起きて異常な細胞が増殖したなんてこともありますからね。具体的にはがんの話なんですが。


 ここで少し何言っているかわからなくなってきたので整理しましょう。


◯ウイルスが遺伝子の組み換え自体を行う可能性

◯ウイルスが組み換え遺伝子の起動を助ける可能性

◯遺伝子の組み換えを行うウイルスが母子感染する可能性

◯そもそも遺伝によって深きものどもの遺伝子を受け渡している可能性

◯後から深きものどもの遺伝子を組み込んでも拒絶反応が出るので、人間の母体を攫って様々な手段で胎児や受精卵を改造し、生まれた子供たちを人間の中で育てることでより自然に遺伝子を拡散しているのではないかという可能性


 今ここで私が考えているのはこの五つの可能性です。五つの可能性の全てが同時に成立することもありえます。状況に応じて「深きものどもの出現」という一つの結果に至る為に様々な可能性ルートを確保していると見てるんですよね。一つの可能性ルートが潰れた時に、すぐに復旧させる必要もありますし。

 この前紹介した『ともに海の深みへ』って作品だと、ちゃんと深きもの同士で交尾もしているけどタイミングや環境が合わないといけないから条件が難しいってことも示唆されてましたね。少なくともサバにマグロを産ませるのと同程度には、人に深きものどもを産ませることにはメリットがあるとみるべきでしょう。人間を使うことで人間社会の再生産システムにタダ乗りできるわけですから。人間が何時でも発情期というのは結構珍しい仕様なんですよ。

 

【結論】


 それではこれまでの話を元に今私がどのように考えているのかを

 深きものどもがどうして人間を使って増えるのか。それはそちらの方が安定して沢山増えるからです。

 そしてどのように人間を使って増えるのか。それは人間の遺伝子に深きものどもとしての遺伝子を組み込み、人間の繁殖システムを利用する形で個体数を増やしています。

 ……というのが私の説です。

 考えてみてほしいんですが、別人の書いた色々な作品を繋ぎ合わせてそれらを説明しうる理屈を考える以上、それは何をどういったところで仮説に過ぎません。証明ができません。まず疑ってみてください。検証してみてください。それでいかにもそれらしいな~と思ったら、最後にもう一度疑ってみてください。その過程で生まれたものはきっとあなた自身の信仰です。尊いものです。


【最後に】


 パート2に分けた理由は分かってもらえましたね。長い。とても長い。パート1と合わせたら余裕の1万文字。流石にちょっとやりすぎです。前提知識となる話も間に挟むことが出来たのでちょうど良かったのではないでしょうか。前回の話と合わせると人間の思考も行動もタンパク質とそれを生み出す遺伝子によって規定されているに過ぎないという話ができますね。規定を知れば自由になれます。規定に思いをめぐらせれば自由になれるかもしれません。自由に価値があるのかは分かりません。答えなんて有りません。さあ皆で神の掌の上に乗りセントラルドグマのリズムに合わせてダンスダンスしていきましょう。

 それでは皆さん今日はここまでです。

 くれぐれも次回まで闇からの囁きに耳を傾けないように。


 

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