第二十一回 新・クトゥルフ神話TRPGってなぁに?

【初めに】


 あけましておめでとうございます。2020年ですね。狂騒の時代、1920年代ジャズエイジから100年の月日が経とうとしています。すごいですよね。100年の間、後進が途切れなかった創作世界ですよ。こんな幅広く芳醇な創作世界は人類史において後にも先にも……あったわ、神話。

 そう、世界各地の神話こそ、人類史の中で長く語り継がれ、継ぎ足された最大最強の物語ですよ。神話の無い土地はありません。とはいえ、クトゥルー“神話”というだけあって、もはやその領域に突入していると言っても過言ではないのでは? 次の百年間もこの灯火を絶やさずにいきましょう。先人の、我々の、そして未来の友の神話が世界に確かな痕跡を残せるように。


 というわけで今回取り上げるのはクトゥルフ神話TRPG第七版、新・クトゥルフ神話TRPGですよ!

 アマゾンランキングでもトップを突っ走るキングオブTRPG! とはいえ、発売されたばかりでこれまでのCOCとの違いとか分かりづらいですよね。なので、ざっくりルルブを読み込んだり試してみたりして感じたことを書いていきます。

 それで2020年最初の記事! いってみましょう!


【これまでのクトゥルフ神話TRPGからの変更・注目点】


 結構沢山あるので箇条書きにしました。その中から特に気になるところについて個別に項目を設けて解説していこうと思います。


・キーパーへのおすすめラヴクラフト作品集の題名のみ掲載(本編はなくなりました、結構紙面食ってたものね)

・ラヴクラフト本人と神話世界そのものへの章一つを使ったこれまでより詳細かつ読みやすい解説

・旧神という概念の抹消、四大元素説の抹消、神話生物の上級下級独立奉仕といった区分の抹消

・能力値や技能ポイントの割り振りについて細かな調整が可能になる(その分少しだけ扱いが複雑になっていますが、面倒な人向けの簡単能力決定方法もあります)

・キャラのバックストーリーを詳細に決められる(ライフパス、といえば通じる人もいるでしょうか? 書き方マニュアル付きです)+発狂時にその内容をKPから書き換えられることもある

・レギュラー、ハード、エクストリームの三段階ロール難易度設定

・ロールのプッシュ(リスクを伴った振り直し)

・技能:伝承(狭い分野における知識)

・神格のゲーム的なサイズ比較表

・戦闘フローチャートの追加

・マーシャルキックは死んだ


 多い! 多いよ!

 めっちゃ多い! 良くも悪くも作りがシンプルで強度の高いルールが魅力だったんじゃあないんですか! 代わりに裁定がよく分からねえような場所は丁寧に潰してあります! すごい! 最高!

 これなんですが、細かい状況を遊ぶプレイヤーも増えてきたのでそれに対応できるようにしたいという意図があるみたいですね。逆に面倒くさいと思ったら導入しなくても良いし、簡単に処理する方法もちゃんと載っています。画面の前の皆さんはもう買っていると思いますが一人一冊ちゃんと購入しましょう。GM方法のマニュアルも詳細すぎるくらいに詳細に書いてあります。

 いや、正直親切すぎて敷居が高いように感じさせてしまいそうな気はするんですけどね。けど良いんだよ「動画で見ましたやってみたいですギャーなんだこれ!?」を繰り返しながらKPとPLは大きくなっていく。そうなっていくとこういう細かいのがありがたい。俺もそうだった。瞬間瞬間を必死に生きている限りお前は間違っちゃいない……。

 これは今の段階でもそう変わらないんですが遊ぶ前に膨大なルールの波を浴びせられるので、ルルブをしっかり読んでからやろうとすると絶対におっかなびっくりになります。きっとyoutubeで良い感じの動画が上がってくるはずでしょう。ねえなんとかかんとかさん! 良い感じの動画待ってます! 


【キーパーへのおすすめラヴクラフト作品集】


 ルルブの内容を勝手に掲載はできないので、これについて内容に言及することはできません。ただ本編をまる一つ掲載するよりは、良い判断だったと思っています。なぜかと言うと現代日本では森瀬先生が読みやすい名訳をしてくださった本が出版されているので、別に本文乗っける必要無いんですよね。情報化社会の流れの中で、日本以外でも作品へのアクセスがどんどん容易になってきている現在、必要なのはどの作品を勧めるかなんですよ。なのでこれは実に良い。

 紹介されている作品は全て読んでいますが長くてハードル高いやつと初めての人でも楽しめるなってものと色々ありますね。僕自身のおすすめする作品に関してはこれまでの講座で言及していると思うのでそちらを御覧ください。

 只一つだけリストに文句があるのは“神殿”が無いことです。あれこそがラヴクラフト御大の最高傑作なのですが????? なんでないんです???? 皆さんはもう読んでますよね神殿。潜水艦を舞台に描かれる深海の恐怖と追い詰められた人間に忍び寄る狂気。そして人間の理解を超える巨大な何か。静謐な情景描写と相まって最高傑作なんですよ神殿。なのでこのリストに神殿を加えて読んでほしいなあという思いがあります。森瀬先生訳も、田辺先生の漫画版も、アクセスの機会は充実しておりますので!


【旧神という概念の抹消、四大元素説の抹消、神話生物の上級下級独立奉仕といった区分の抹消】


 よりラヴクラフトの世界に繋げているという考えもありますが、元素説を絡めるアイディア自体はこれまでにラヴクラフト自身が関与している書簡も発見されているんですよね。それ以外に関してはより小説世界に寄り添った改変だと感じています。

 現在は資料が整理され、多くのラヴクラフト真実が分かっているので、それに寄り添う形でアップデートが必要であるというのは道理です。

 しかしそれによってゲーム的な明快さやプレイアビリティが損なわれてしまうのではないか、と心配になってしまうのも事実です。

 ところが、ラヴクラフト真実についてアクセスできるのは作り手側だけじゃなくて受容側も同じなので、多少わかりにくくなっていても大丈夫なんですよね。こういうものだっていうのを受容できてしまう。

 分からないものこそが暗黒神話なのだ!→本当に訳わからないものにしたらそもそも見向きもされないじゃん→予備知識が広く流布しているので大丈夫

 完璧なロジックです。

 完璧か?

 私はこういうの好きなので嬉しいんですが、同時に私は人間不信なのでこういう自分にとって嬉しいことが始まるとまず恐怖感を抱くんですよ。なんか敷居高くなったりしないかなあ。

 

【キャラのバックストーリーを詳細に決められる】


 これもルルブの内容を詳しく見ていただきたい部分です。ただその内容にハッキリ言及しないままでも言えることが一つあります。

 COCに限らずTRPGのキャラを作る時、TRPGに限らず創作のキャラを作る時、この記事は非常に役に立つことでしょう。COCのルルブやサプリは常に周辺の事例まで非常に詳しくまとめ上げる専門書めいた性質を持つのですが、今回の基本ルールブックではキャラと物語の作成について非常に詳しく解説しています。そして勿論TRPGの進め方遊び方についても同じです。ですから、是非とも手に入れて自分の創作の助けにすることをおすすめします。

 ただしここで注意しなくてはならないのが書き換えもあるということです。妻を深く愛する探索者が、妻に殺される妄想を抱いたり、妻が醜い怪物だとしか思えなくなることもあります。それはそれでロールが面白いのですがちょっと怖いですよね、事故とか。そこら辺は制作陣の皆様もきっちり考えておりまして、あくまでPLとKPの協力によってバックストーリーの書き換え・追加を行うこととされています。なのでこの辺のルールを使う時はしっかり話し合ってやってみましょう。二人の呼吸がぴったり揃った時、とてつもない鬱が発生し、泣き叫び狂い悶えるPCを見てPLとKPは手に手をとってゲラゲラ笑い転げることができるでしょう。


【戦闘フローチャートの追加】


 そう、これがすごく良い。戦闘処理をフローチャートでやってくれる。これまでのルルブでは戦闘の扱いが軽かったのですが、その割には結構殴り合いがあって実卓におけるわちゃわちゃポイントでした。ところが今回はフローチャート形式でとっても分かりやすくなっており、皆も気軽に殺したり殺されたりを楽しめるようになっています。近距離において最強武器だった神殺し“チェーンソー”に重めのペナルティが課されたり、ダメージ量が下がってしまいました。あとはライフルを始めとした貫通系射撃武器に技能を極振りした時に身も蓋もなく強くなっているので、皆で頑張ってライフルマンになろうな。1920年代アメリカは良いぞ、殺し合いができる。

 現代日本での戦闘は辛くなりましたが……そうだね、現代日本でそんなに撃ち合いがしたいならガンドッグだね。ダブルクロスでも良いぞ。やりたきゃ武道とかマーシャルだけ輸入してもいいですしね。

 それはさておき神話生物との殴り合い処理はスムーズになりました。皆も銃器を担いで殺し合いましょう。


【マーシャルキックは死んだ】

 いっぱいかなしい。

 しかし今回は銃器だと有効なダメージを与えられない敵は少ないんですよね。銃器が通じない敵にはそもそも物理攻撃全般が通じないです。これには「この神格、今はどうみても人型なのでラッシュ(武道キック)で押し込めませんか?」とかクソみたいな口プロレスを開始したことがある僕もしょんぼりです。

 人類側の火力不足はフルオート射撃と貫通武器強化で乗り切りましょう。お前たち、銃を持て。なお、フルオートのルールもバランス良く調整されてます。そこまで無体な火力は出ないけど必殺技としてはしっかり機能する良いバランスでしたよ。


【最後に】


 というわけで新しいクトゥルフ神話TRPGの個人的に注目した変更点をまとめてみました。全体的に生々しいですね。あとディテールに対しての熱量が高いです。より細やかな遊び方もできて、遊ぶ側から作る側がイメージする世界に対する解像度が上がる良い版上げだったのではないでしょうか。


 ところでこの講座の広告がAmazonの神話関係書籍じゃなくて、ブラウザゲーの広告だったりするのマジ残念ですよね。ジャンルや作品の傾向ごとに広告の種類少しずつずらせば良いじゃないですか。まあ今は黎明期ですし、システムの実装が最優先なのでやむを得ないところですが、これはわりと早めに改善してほしいというか。もっとやり方あるでしょうこれ。腹が立つのでアマゾンのリンク貼っておきます。


https://www.amazon.co.jp/dp/4047294640/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_sPecEbY63M5RT


 皆さん是非購入してください。


 それでは本日は以上となります。

 次回また会う時までにくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けないように。

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