第十七回 ヴルトゥームってなぁに?

【初めに】


 社会人生活が限りなく忙しかったために滞っていた更新もじわじわ再開です。今回はお花型の神格ヴルトゥームの紹介です。鈴森君の場合でも取り上げられていましたね。火星を拠点にしている都合上、普段の卓や最近の作品ではあまり見ない神格だと思われます。とはいえ、格が高い神格であることに間違いはなく、いきなり出てきた時に「誰? 誰なの!? 怖いよぉ!」ってならないように予習しておくのが吉だと思われます。

 それでは今回も始まり始まり。


【家族構成】


 格が高いという理由はその立派な血統にあります。父はヨグ=ソトース。お兄ちゃんにはそれぞれクトゥルー&ハスター、それにツァトゥグア。邪神一族のサラブレッドです。

 元々はクトゥルー神話の神ではなく、C.A.スミスの書いた作品に出てきたものが、後の作家たちによって神話群に取り入れられた形になっています。その際に大きな働きをしたのはリン=カーター。クトゥルー神話も含む様々な創作について自らの研究や考察をまとめた方で、後の研究にも大きな影響を与えています。調べた内容と自らの創作が混ざってしまっている部分も後世発見されていますが、それでも偉大な業績を残した方なのです。


【声が良い、人の心の分かる邪神】


 声が良い。

 何を言っているんだ貴様。ついにトチ狂ったか。もうとうにこの道に狂っておるわ。じゃなくて、本当に「信じられないほど感じが良い」とか「明瞭で朗々とした声」とか記載されているんですよ。

 で、声が良いだけじゃなくて、喋り方も良い。一人称がわしですよ。クトゥルーお兄ちゃんの呼び声は聞いただけで発狂する人が続出したっていうのに、こちらは宇宙飛行士相手に良い声で交渉を始めますからね。まあクトゥルーお兄ちゃんは封印がきつくて通信にノイズかかってるのかもしれませんけど。

 そして交渉の内容がまた一見すると真っ当で、派遣切り喰らって職にあぶれた地球人と取材旅行中に出版社からの金が打ち切られた地球人に対して「お金や気持ちよくなれて幻も見られる素敵なお花(意味深)をあげるから、地球旅行手伝ってよ」とか言い出すので、なんかついふらっといっちゃいそうになりますよ。それにドキドキ地球侵略計画を邪魔されても「寿命長いから大丈夫!」とか言い出す器の大きさ! 信者たちは拷問もたしなみますが、クトゥルー神話界隈では比較的マイルド(?)な電流を流す系の拷問なのでこれもまた優しい。生きたまま皮剥されたりはしない。苗床にもされない。なんか空の果てで全身干からびたりもしない。すごい良い奴じゃね? って思っちゃいますね。僕も毎日の労働から解放されるなら喜んでヴルトゥームの手下になりますよ。


【能力】


 人に優しい。何を言っているのかとは思いますが、これは本当に大事なんですよ。まずクトゥルー神話の神々は人に優しくない。律儀に部下たちに擬似的な永遠の命を分け与えてくれたりしない。ところがこの神はちゃんと提供してくれる。部下としての一定の生活も保証してくれる。交渉次第ではボーナスもつけてくれる。もうこれだけで結構なアドになるんですよ。原作のキャラクターのままシナリオに持ち出すことができるんですから。神がこんな俗なわけありません! キャラ崩壊です! って言われても「うるせえニャルぶつけんぞ」の他に「うるせえヴルトゥームぶつけんぞ」という選択肢が増える。他に人間風情とでも交渉してくれる神様には大魔術師エイボンとマブダチのツァトゥグアさんもいますが、ここらへんの社交性の高さは兄弟感ありますよね。

 あと怪物とか操りますね。なんかよく分からない怪物。3つの頭を持った蛇みたいな怪物。目の部分から舌に似た炎が吹き出しているそうです。よく分かりませんね。輝くトサカまでも生やしているらしいですがマジでよく分かりませんね。僕は好きです。

 科学力もすごい。原子破砕装置だか粉砕装置だかを使って分厚い火星の岩盤を貫くことができます。これで宇宙船をテイクオフ! 地球までひとっ飛びって寸法です! 宇宙にまで進出した地球人をはるかに超える科学力を持っているので、作者やKPの裁量で自由に遊べますね。俺だったら女体化させてメガネっ子にしますよ。普段は眠ってばかりですが起きるとろくでもない発明品を起動させて素敵ハプニングを起こしてくれます。素敵ですね。薄い本では黒幕便利屋主役まで何でもできるオールラウンダーですよ。一人称がわしのメガネっ子。乳が大きいとなお良い。

  ゲーム的には強烈な幻覚とマーシャルキック程度の触手攻撃を使います。物理ダメージは耐性があるものの、フルオート射撃を数人でぶっこめばワンチャンあるって感じです。ただ、100m以内に近づいただけでPOW35の催眠と対決しなくてはいけないのでゼロ距離射撃はほぼ不可能です。ただしSAN値の喪失は少なめなので、やっぱりPCの眼の前に現れてお話するのにぴったりの神なんだよなあ……。


【カミは何故花になったのか】


 ヴルトゥーム、名前的にもわかりやすいのですが花型の邪神なんですよね。花の雄しべに当たる部分が人の上半身みたいになっている神様なんですよ。エッチですね。それはさておき何故花だったのか、花の邪神がハスターとかイタクァとかツァトゥグアの弟になったのか。不思議ですよね。ヨグ=ソトースの出てくる「ダンウィッチの怪」には、ヨグ=ソトースの息子であるウェイトリィ兄弟にキリスト生誕が重ねられているという考察があります。これと同じように、ヨグ=ソトースが父となったクトゥルー、ハスター、ツァトゥグア、ヴルトゥームの存在を、旧約聖書創世記の第一章五節以降になぞらえたのではないかなと思うんですよね。


『神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である』

 これが第五節。これを時間の誕生→ヨグ=ソトースの存在とすると

『神はまた言われた、「水の間におおぞらがあって、水と水とを分けよ」。』

 これがクトゥルーとハスター。

『神はまた言われた、「天の下の水は一つ所に集まり、かわいた地が現れよ」。そのようになった。』

 これがツァトゥグア。

『神はまた言われた、「地は青草と、種をもつ草と、種類にしたがって種のある実を結ぶ果樹とを地の上にはえさせよ」。そのようになった。』

 これがヴルトゥーム。

 この要素を元に考察を深めることも不可能ではないと思うんですが、それはヴルトゥーム紹介の本質から外れてしまうので、また次回にやりましょう。

 ともかく、少し異質なヴルトゥームをヨグ=ソトースの子供に位置づけたのは、そういったモチーフを回収したいという狙いがあったのではないかと考えられるんですよ。四人の子どもたち、母親については諸説あるものの、父親については一貫してヨグ=ソトースですからね。ヨグ=ソトースが父親であることに意味があり、こいつらが同時につながる神々の物語。その候補として創世記は強いと思うんですよねえ。


【最後に】


 仕事クソ忙しいんですけどそれでもまあなんとか書けましたね。四月や五月や六月に比べると圧倒的に増しになってきました。リアルのお仕事(軟膏を練ったりシロップを混ぜたりするやつ)が忙しいのできつかったり、他にも色々あったり、あと創作意欲を刺激すべくTRPGを盛んに遊んでいたり、ああそうそう彼女できたんですよ彼女。毎日が新鮮です。一気にやることを増やしすぎて、つい先日ついに父親から「お前は俺の息子、このまま父のように働き続け……ることになると大変だからマジ気をつけるんだよ」とありがたい御言葉を頂戴いたしました。本当にどうしてこうなってるんだろうね。

 webの作品も、こちらも変わらず更新を続けていくつもりなのでよろしくおねがいします。

  それでは皆さん、次回までくれぐれも闇からのささやきに耳を貸さぬように。


【宣伝】


 次回作企画、まだ下書きの段階ですが進捗良い感じです。

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