第十六回 イタクァってなぁに?

【初めに】


 お久しぶりです。海野しぃるです。近況ノートに書いた通り、忙しかったので更新が滞っておりました。何で忙しかったか? それはそう、国家試験と卒業論文です。今こうして無事に更新しているということで、みなさんもお察しかと思いますが、このたび無事に国家試験が終わりました! 拍手! 邪神任侠電子書籍版の購入やノベルゼロへのファンレターなどで応援してくださっても結構です! 角川第三本社ビルあたりに送っていただければと思います!

 ちなみに気になる自己採点の結果は72%の点数が取れているのでおそらく合格したかと思われます。例年の合格ラインが65%なので大丈夫、きっと。今年から始まった禁忌肢(複数選ぶと点数にかかわらず不合格の選択肢)を選ばない限り大丈夫。そう、合格。俺は合格したのだ。六年間も辛い勉強と馴染めない理系の雰囲気に耐えて、俺は国家試験を乗り越えて無事に卒業するのだ! ひゃっほー!


 と、まあ浮かれ気分で卒業旅行に突入した僕ですが、その行き先が海外なのが地味~~~~~~にきつかった。最初から反対してたんですが、普段から真面目で遊び慣れていない友人の女の子が本気で海外行きたそうだったのでどう考えてもやべえと思ったのについ折れちゃいましたね。俺が悪い。もっと人の心を捨てるべきだった。

 なんで海外が悪いのかって? だって考えてもみてください。疲れ切った僕にはエコノミークラスの狭い機内で首を痛めるよりも、ぬるい温泉にたっぷり浸かって肩のこりをほぐす方がよっぽど魅力的な時間です。真夏の南国で特に興味もない観光地めぐりに付き合って歩き続けるくらいならば、景勝地で絶景を楽しみつつ茶をしばく方がよっぽど幸せな時間です。だいたい僕は道民なので、海産物が名物と言われても高確率で「鮮度わりいなこれ!? もしかして変なの混ざってたのか!? 海外で入院したくねえ!」と友人相手に本気で恐怖を吐露し始めます。ただし、道民全員がこうなのではなくて、僕が特にうるさくて失礼なだけなので、身近に道民が居ても変な目で見ないであげてくださいね。あと吐露する場合も失礼の無いようにある程度店を離れてからにしましょう。海外でも、案外日本語が通じている場合がありますから。

 それはそれとして最終日、同じようにツアーを使ってたのであろうキラキラ女子学生だったものがあたり一面にクマの浮いた顔で転がってるのはウケましたね。Oh Yeah!! 勿論楽しいことには楽しい時間でしたが、僕以外の旅行メンバーはマーライオンが笑うあの街で体を壊しました。僕だけ改造人間だったから無事とかじゃないですよ。本当に。


 さて今回、再開第一回目はイタクァを扱ってみようかと思います。ご存知ですか? デモンベインでクトゥグアと一緒にBANG!! BANG!! と活躍していたあいつです。どう考えてもクトゥグアと一対になるほどの神格じゃねえだろと大学の先輩は突っ込んでいました。僕もそう思います。まあそれはそれとして氷と風の神といえばこやつみたいなところがあるので、炎と一対にするにはちょうど良かったのでしょう。昨今のシナリオや作品ではあまり触れられませんが、露出もそこそこある神格ですので、ぜひシナリオや作品の参考になさってください。

 それでは始まり始まり。


【概要~どんな神?~】


 まずはイタクァについて簡単な解説。基本的に長い手足と赤い瞳を持つ巨大な人型の邪神です。作品によっては雲のような姿にもなります。元ネタであるウェンディゴはそもそも姿を見せないので、外見はパターンが多いですね。得意とするのは風の操作と星間移動であり、人類には敵対的。ただしブライアン・ラムレイ先生のタイタス・クロウシリーズでは好色に描かれており、さらって来た人間との間に子供を作っているものの、産ませた子供に反逆されています。ちなみに健康的な美しい白人女性が好みだそうです。分かるわ。僕だって好きだ。

 北米において伝承のあるウェンディゴと同一視されており、設定も北米のウェンディゴの影響を大きく受けています。風と共に人間を攫ったり、人間の心に囁いて異常な行動をとらせたりしています。

 この神格を生み出したのはダーレス先生なのですが、風を司る神の代表例として、既に存在したウェンディゴを参考にしつつ上手いことクトゥルーナイズしたのでしょうね。


【概要~ウェンディゴってなぁに?~】


 ここで本題に入る前にウェンディゴが何者かについてもざっくり説明しておきましょう。ウェンディゴは北米のネイティブアメリカンに信仰される悪しき精霊であり、人間の心に働きかけ狂気を誘発します。対処法はクマの脂を摂取することなのだそうですが、この脂肪中のビタミンの欠乏にまつわる体調不良と信仰が絡みあって生まれる一種の精神病であるとされています。軽く調べたんですが、熊肉はビタミンBが豊富だとされているので、このあたりが関係しているのかもしれませんね。

 北米のネイティブアメリカンの間ではかつて保存食として“ペミカン”というものが好まれておりまして、ドライフルーツや干し肉を動物の脂肪で包んだものを低温で保存して栄養補給の手段にしていたのだそうです。まあこれは熊は使わなかったそうですが、脂そのものをそのまま頂くなんて日本ではラーメン二郎や背脂チャッチャ系くらいしか思いつきませんが、向こうではそう珍しいことではなかったようです。登山をなさる方でも厳しい冬山に登る際には栄養補給の手段としてラードを使うそうですよ。

 この姿なき精霊ウェンディゴを元に、クトゥルフ神話の中でイタクァが誕生した訳ですね。イタクァが北半球の限定された地域を縄張りとするのもここらへんが絡んでいます。


【概要~イタクァ七変化~】


 ウェンディゴに元々姿が無いので、イタクァも様々な姿が伝えられています。怒りで邪悪に歪んだ表情の雲塊、不定形の雪塊、光る一対の瞳を持つ人形の雲、人によく似た黒い獣。タイタス・クロウシリーズでは不定形の雲から五本の指を備えた手で飛行機を掴んだりしています。手足も鳥の鉤爪のようだったり、水かきがついていてそれで風に乗って歩いたり、不定形な分状況に合わせてやりたい放題やってくれています。

 そもそもが“風に乗りて歩むもの”であり、星と星の間を風のように渡るのですから、あいつ物理的次元における質量とか持ってないor無視する手段があるのでしょうね。もしくは我々の居る次元とは別の場所に居て、我々と相対するのはその影に過ぎないとか、そういう種類の邪神なのではないでしょうか。

 ニャルラトホテプの化身や、大いなるクトゥルー、それに主のハスターも、人間の世界に出てくる時はそこそこ物理法則の影響を受けるので、それに耐性があると思えば中々格は保たれている気がします。トップ勢ほどではないにしろ、状況次第ではトップ勢とタメ張れるくらいの力があるみたいなタイプ……だと良いなあ。


【概要~我が赴くは星の群れ、イタクァの活動範囲について~】


 イタクァは広く星々の間を駆け回る能力を持っています。それにもかかわらず、地球においては北極の周辺から離れることができません。これは旧神の封印が影響しているというのが定説ですが、自由に宇宙を駆け巡る癖になんで地球での行動だけ……と不思議な気分になりますね。地球に様々な神々が封印されていたり、地球には信仰を形成できるだけの知的生命体が居たり、そういった事情があるのでやすやす接近できないように設定されているとするのが妥当ではないかと考えています。

 人間が特別と言う訳ではないですが、70億も居ればカルトの形成には便利ですからね。旧神がイタクァを人間の主だった生活圏から遠ざけていてもおかしくはないでしょう。別に人間を守るためじゃないんだからね!

 なので、宇宙に飛び出していかない限りは、イタクァと直接的にエンカウントすることは殆ど無いでしょう。中学生の時に諸事情あって北極圏近くを飛行したんですが、その時は幸運にもイタクァとは出会いませんでした。ファッキンコールドな風景が外には広がってましたが、こうして生きているのでラッキーでしたね。

 そもそもイタクァは基本的に一箇所にとどまらない性質があり、地球に戻るのも五年に一度なのだそうです。その際は北極や北米のあたりのイタクァのカルトが活性化するそうですので、みなさんもご旅行の際はそのタイミングに当たらないようにお気をつけください。

 とはいえ、イタクァの生活圏から外れていれば安全というわけでもありません。作品によっては、イタクァの不興を買った相手が北極圏からは遠く離れた場所で嵐に巻き込まれてあっけなく死んでいます。神を怒らせれば死ぬ。あまりに当たり前の理屈ですね。できるだけ関わらないようにがんばりましょう。


【最後に】


 というわけで国試勉強から復帰一発目のクトゥルフ講座、いかがでしたか?

 今回は以前からリクエストのあったイタクァを取り上げてみました。

 ハスターのときに多少は紹介していたものの、しっかり一つの記事に仕上げるにあたって調べなおしたり読み直したり中々良い刺激になりました。やっぱ面白いなあクトゥルフ神話。

 面白いと言えばなんですけど、僕がこうした世界に興味を持つきっかけの一つになった沙耶の唄が小説版として出版されていたのでこの前読んだんですけど、これがまた面白いんですよね。今読み返すと思ったより濃厚に神話神話してて、知識を得たことで世界の見方が変わったなあと改めて感じました。

 知識は時間と予算が許す限りいくら集めても良いものです。例えば海外旅行に行って知見を広める、例えば本を読んで先人の思索に触れる、例えば先達の経験を聞いて思いを巡らせる。そうやって集積された知識が人間を作ります。そこが空っぽな人間の価値なんてたかが知れています。私もあなたも、学ばない限り平等に無価値で、学び続ける限り平等に有為の人材です。

 福沢諭吉先生の「『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』と言えり。されば天より人を生ずるには、万人は万人みな同じ位にして、生まれながら貴賤上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物をり、もって衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずしておのおの安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるはなんぞや。その次第はなはだ明らかなり。『実語教』に、『人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり』とあり。されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり」という奴ですね。

 国試勉強は二ヶ月か三ヶ月程度でしたが、学びは一生です。僕は今後とも学び続ける予定ですから、皆様にはこの講座を通じてそれにお付き合いいただければ幸いです。ついでに僕の小説が出たら買ってください。今、担当編集さんと計画を練り上げておりますので、どうぞ次も楽しみにしていてくださいね。


 それでは皆さん、次回までくれぐれも闇からのささやきに耳を貸さぬように。


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 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。


 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


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