第十一回 ティンダロスの猟犬ってなぁに?

【宣伝】


 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。

 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


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【初めに】


 きたる三月十五日、邪神任侠書籍版がついに発売です。思えば長い道のりでした。カクヨム黎明期、激しいコンテスト、ケイオスハウルで頑張るものの、そこで初めてぶつかる壁「クトゥルフ神話知ってる人はそんなに居ない問題」。そんな時に生まれたばかりのエッセイ・ノンフィクション部門。

 これはいっちょやるっきゃねえとクトゥルフ講座を開講して地道に地道に布教活動と宣伝行為を続けてきた訳です。

 そんなカクヨム黎明期、第一回カクヨムコンホラー部門(名だたるクトゥルフ系作品が火花を散らしていたすごいコンテストだと思って下さい)で、特別賞をもぎ取った名作「クトゥルフ神話 探索者たち ~鈴森くんの場合~」が! きたる三月二十日に発売です!

 ほら!! 皆買いに行こう! 僕は買うよかなり買う! カクヨム発のクトゥルフ神話作品が三月の間に二つも発売なんてもはや神の差配に他なりません。カクヨムにおけるクトゥルフジャンル隆盛の時代が来ていると言っても良いでしょう! さあこの火を絶やすなかれ! このカクヨムホラー部門を21世紀のウィアード・テイルズにするのは! 画面の前の貴方! 貴方のお財布の千円札ですよ! 鈴森君の場合も買って下さい!


「ルルイエは浮かぶぞ! もうすぐ浮かぶ!」

~邪神任侠 第37話「なあ兄弟、俺の言うことを聞いてくれ」より~



 ――さて、という訳で今回紹介する神話生物の話に移りましょう。

 今回ご紹介するのはケイオスハウル劇場版でもお馴染み「ティンダロスの猟犬」です。時間旅行した奴には容赦なく襲いかかるワンワンです。しかしこのワンワン、物語がそこまでないんですよね。

 え~もっとワンワンの話をしたいよ!というそこの貴方。

 最近出版された犬魔人先生の「ワンワン物語2~金持ちの犬にしてとは言ったが、フェンリルにしろとは言ってねえ!~」をオススメします。モフいぞ!

 それでは今回の話も始まり始まり。


【概要~姿なき殺戮者~】


 ティンダロスの猟犬は時間の隙間から何時でも貴方に襲いかかる危険な神話生物です。狙った相手の近くにある角度のついたところから現れるので気をつけましょう。消しゴムでも封筒でもなんでもありです。狙った相手と言いましたが、基本的に時間旅行や未来視・過去視を行った際に、彼らの存在する時空(角ばった時間)に接してしまうことで、ターゲットロックオンされてしまいます。

 あとなんか犬とか言われていますが基本は不定形です。獲物の匂いを嗅ぎつけて執念深く追いかけ続けるから猟犬と言われているだけのことです。姿とかも黒いもやだのなんだのと言われて、元々出てくる作品ではハッキリしていません。名前のイメージだけで、後の作品で描写が犬っぽくなったり、挿絵が犬っぽくなっちゃったりしたみたいですね。僕の大好きなタイタス・クロウシリーズですと、かろうじて蝙蝠のような姿であると言われるものの、あまり明確には描かれません。襤褸(ボロ布)のような翼があり、黒っぽくて、飛び回っているという程度です。触手を用いて命を啜りとるということもしていますが、これは最初にティンダロスの猟犬を扱った作品である「ティンダロスの猟犬」において、被害者が猟犬の舌によって襲われていると思しき描写が有るので、これを踏襲したものと考えられます。舌と言っているものの、あくまで作中人物の語りですから、舌と思われていたものが触手でも、触手のように使える舌でも問題ないわけですね。クトゥルフ神話TRPGですと、舌から精神的な力を吸い取り、毒となった膿汁のついた前足でひっかいてくるストロングスタイルです。

 本来は戦う話ではないのですが、TRPGでは魔法を帯びた武器でしか攻撃ができません。

 自らの創作で出す場合は、単純な物理攻撃は効かないとしたほうが“らしい”かもしれませんね。


【概要~対抗策は?~】


 マジックウェポンで殴り倒せ!

 君が魔術師なら直接焼き払っても良いぞ!

 って感じです。

 重要なポイントなんですけど、最初の作品でもタイタス・クロウでも卓ゲシナリオでも、それぞれ少しずつ性質が違うんですよね。

 元の作品だと「深入りしなければ見つからないけど見つかったら角の無い部屋に篭もってやりすごすしか無い」で「対抗する方法も昔は有ったはずだがわからない」なんですよ。

 でもタイタス・クロウだと「基本的に時間旅行中にしか攻撃を加えてこない」ので適当にビームで追い払いながら旅をすればいいんですよね。流石タイタス。

 TRPGだと「一度撃退すれば執拗に追いかけてくることはない」って感じなので、此処らへんはゲームですからあんまりしつこくやっても進行の邪魔ってところでしょうかね。

 一般人だとどうしようもない強敵だけど、心得のある魔術師なら対抗可能というラインなので、一般人と魔術師の違いを際立たせる為には最良の神話生物かもしれません。


【概要~ティンダロスの愉快な仲間たち~】


 ティンダロスの猟犬には様々なバリエーションが有ります。

 この講座を読んでいる方ならば森瀬先生が翻訳なさっていた「虚ろなる十月の夜に」を恐らく知っているでしょう。知らない方は検索してぜひ買ってね。吸血鬼とかジキハイとか出てきてクトゥルフ神話要素が強い聖杯戦争だから。視点キャラ犬だから。わんわん物語だから。この「虚ろなる十月の夜に」の作者であるロジャー・ゼラズニィ様が書いた「変幻の地のディルヴィシュ」には、ティンダロスの犠牲者の成れの果てとでも言うべき存在が出てきます。それがティンダロスの混血種です。ティンダロスの膿汁を浴びた人間の中で不運にも生き残ってしまったものが、人とも猟犬ともつかぬ奇妙に角ばった姿になり、他の人間に襲いかかるようになるのです。


 他にもティンダロスの猟犬を生み出したF.B.ロング氏がその後に書いた「Gateway to forever」ではティンダロスの王と呼ばれる存在が登場します。こちらは狼に近い姿になっており、複数でヨグ=ソトースに対抗しているとされています。中でもティンダロスの王の中で最強の一体は、北欧神話のフェンリルの原型になったのだとか……此処で思わぬ形でワンワン物語成分回収です。犬魔人先生に「フェンリルとティンダロスの猟犬はさして関係ないですけど折角なので宣伝していいですか!」と許可取りに行ったのにこのざまだよ! ごめんなさい!

 ちなみに、残念ながら「Gateway to forever」は邦訳されていないみたいです。訳するとすればさしずめ永劫への戸口といったところでしょうか。英語で探して読んでみるか悩ましい……。


 こういった同族の他にもティンダロスの猟犬には心強い味方がいます。なんと彼らは時折こちらの世界の神話生物と協力して、人間に襲いかかるのです。

 中でも有名なのはドールと呼ばれるワーム型の神話生物です。彼らは地震を起こすことで建物を破壊し、ティンダロスの猟犬から逃げ回る人間をあぶり出す仕事をしてくれています。そんなドールはシュブ=ニグラスの従者であるとも言われています。ドリームランドにいることが多いのですが、わざわざティンダロスの猟犬のお手伝いに来るみたいですね。

 他にもサテュロスと呼ばれるギリシャ神話の精霊と同じ名前の存在もティンダロスの猟犬に手を貸すとされています。クトゥルフ神話においては、なんとこちらもシュブ=ニグラスの従者、あるいは化身であるとされています。


 妙だなと思ったかもしれません。

 何故シュブ=ニグラスの従者がティンダロスの猟犬と協力しているのか。何故わざわざ地震を起こしに来るのか。何故湾曲した時間の中の存在と協力しているのか。

 その答えはただ一つ! シュブ=ニグラス……奴が、ティンダロスの猟犬と血縁関係にあるからだ! ざっくり説明するとティンダロスの猟犬の原種にあたる神話生物を、シュブ=ニグラスがニャルの従妹であるマイノグーラを妊娠させて産ませたという設定があるんですよね。シュブ=ニグラスって女神じゃないのと思う方も居るかもしれませんが、シュブ様は受けようが攻めようが自由自在。どっちもやれちゃいます。さすが豊穣神。ナイスソドミー。いや、ちゃんと子供が生まれているからソドミーじゃないですねこれ。ノーマルな行為です。

 ともかく、シュブ=ニグラスを通じた縁でこうした協力関係に有ると考えられます。


【考察~失楽園の蛇~】


 ティンダロスの猟犬は「木と蛇と林檎」を以て象徴され、クトゥルフ世界においてアダムとイブの失楽園は彼らと人類の間で起きた何かしらの出来事をモチーフにした話だとされています。

 何が有ったのでしょうか?

 ティンダロスの猟犬はありとあらゆる不浄を背負う不死の存在で、人間とは異なる時間の中で生きています。そしてアダムとイブは楽園から追い出されたことで死ぬようになり、子供を作ることになります。

 永遠の中に居た人間をティンダロスの猟犬が時間の存在する世界へと連れ出し、その咎によって神が彼らを角ばった時間の中に押し込めたことで、彼らは人を恨むようになった。そのまま解釈をするとこうなります。

 でも変じゃないですか?

 人間はクトゥルフ神話世界では卑小な筈の存在であり、とてもティンダロスの猟犬に釣り合うようなものではないはずなので、なんだか少し奇妙ですね。これは最初にティンダロスの猟犬を書いたF.B.ロングの意図が気になります。

 

 これはあくまで私の推測ですが、アダムとイブが人間じゃないのでしょう。アダムとイブに限らず、この時間軸に満ちる全ての命の源となった存在が、このティンダロスの猟犬に不浄を押し付けて繁栄しているのだとすれば、その末裔である人間にも憎悪を向けているというのも納得できるのではないかと思います。体内に酵素を持たず、通常の代謝活動とは無縁であるティンダロスの猟犬が、尋常な生命ではないことは明らかです。シュブ=ニグラスの夫とされ、時間と空間を支配するヨグ=ソトースと対立していることも含めて考えると、時間に関わる罪を犯して今の宇宙における多様な生命を発生させ、その罪で我々の知る時空間から追い出されたというのがありそうなラインだと思われます。

 この推測が正しければ、ティンダロスの猟犬たちは非常に古い存在であり、外なる神に連なる血筋を思えば、複数のティンダロスの王が居ればヨグ=ソトースに対抗できるという話も、頷けるというものです。


【最後に】


 今回触手の話をしたのでついでにお話したいことが有ります。クトゥルフ神話だからって安直に触手って言ったり出したりするのどうかと思うんですよね! クトゥルフ知らない人からするとなんかこう触りにくくなっちゃうじゃないですか! 良くないよ! 折角そういう要素無しで楽しめるのに!

 でもラヴクラフト御大の作品にも触手はちょいちょい出るし、僕自身も触手が出ると「おっ、来た来た!」って思っちゃうのは確かなので、僕はこれからも触手を使います。自分の中のクトゥルフ要素の一つになっていますからね。

 だけど忘れないで欲しい。

 御大の書いたクトゥルフ神話の中でも有数の名作(だと僕が勝手に思っている)「神殿」には触手は出てこないんです。海底を漂う潜水艦で人間がもがき苦しむ話の中で宇宙に潜む計り知れない存在や人類の卑小さを描いているんです。

 俺が思うに、触手は生命を感じさせてしまうのが弱点だと思うんですよね。触手が出てくると、生死を超えた領域にある峻厳な神の在り様を、人間には決して届かないモンスター程度にしてしまうようなところがあり、ちょっと違うものになってしまうというか。でもそういった展開は正直書いてても読んでても楽しいので、結局やってしまうジレンマに悩んでいます。


 まあそれはさておき、ティンダロスの猟犬は非常に良い神話生物で、創作にゲームに大活躍させられるポテンシャルがございます。

 今度書く予定の「クトゥルフ神話 探索者たち ~鈴森くんの場合~」と邪神任侠のコラボ回でも、こいつを登場させようかなと考えております。

 サラッと発表しましたが、コラボです。

 邪神任侠 2nd seasonが終わったら! コラボやります!

 「クトゥルフ神話 探索者たち ~鈴森くんの場合~」以外にも、もう一つコラボストーリーがあるので! 楽しみにしていてね! こちらもホラージャンルだよ!


 そういう訳で邪神任侠書籍版と鈴森君書籍版を両方買ってコラボに備えておいて下さい。余ったらお友達に配って下さい。


 さて、今日は此処まで。次回までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬように。

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