第十回 ルリム・シャイコースってなぁに?

【宣伝】


 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。

 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


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【初めに】


 はい、以上が最初の宣伝タイムです。という訳で今回も初めて行きたいと思います。クトゥルフ講座の時間です。

 今回皆様に紹介するのはルリム・シャイコース。

 白くてぷにぷにした可愛い奴です。

 ユリイカを読んでやる気に満ち溢れたこともあり、今回はできるだけ英語の原典にもあたってみました。

 お金も時間も無い理系学生なので、むしろ無償公開されている英語版じゃないとしんどいんですよ。世知辛い。予算が無いと研究も勉強もできないのは何処の業界でも変わりません。

 そういう訳で印税が深刻に欲しいので、邪神任侠予約しておいてくださいね。それでは始まり始まりです。


【概要~白蛆の襲来~】


 さてこちらのルリム・シャイコースについて簡単に特徴を説明していきましょう。

 日本ですと白蛆と呼ばれるルリム・シャイコースですが、当然ながら蛆虫ほど可愛らしいサイズではありません。海外のクトゥルフ神話wikiのイラストでも、カブトムシの幼虫のような姿になっています。かの存在が登場する中で最も有名な作品である「白蛆の襲来」では、ゾウアザラシよりも遥かに巨大であるとされるので、少なくとも全長6mは超えている筈です。

 しかも魔術師を取り込む度に巨大に成長していくものですから、それはもう恐ろしいサイズになっていたことでしょう。

 また、先程から蛆虫だの幼虫だのと言っておりますが、それは全体的な見た目の話で、顔立ちに限ればそのどれにも似ておりません。それどころか地球上の獣にも、海に潜む怪物にも、同じような姿のものは居ないと表現されています。歯の無い口元を僅かに歪め、瞳無き眼窩に血色の小球が浮かんでは消えます。この小球が弾ける度に、血色の物質が流れ落ちてルリム・シャイコースの足元で凍りつき、まるで石筍のようになるそうです。

 

【概要~海に聳える氷山の城~】


 こんな恐ろしげなルリム・シャイコースですが、恐ろしいのはルリム・シャイコース自身が住まう城の方です。本体はアンブッシュで意外と死にます。その名も氷山要塞イイーキルス。周囲を凍てつかせ突き進む超質量兵器です。英国の氷山空母ハボクックはこれをモチーフにしたのではないかと言われています。嘘です。

 イイーキルスはルリム・シャイコースを乗せて、繁栄を極める古代魔術国家ハイパーボリアを凍てつかせました。ハイパーボリア・ゼロドライブもびっくりの凍結範囲です。

 この要塞がシャレにならない。当時多数の優秀な魔術師を抱えていたハイパーボリアが為す術もなく陥落しました。この要塞の力を背景に、優秀な魔術師に対してお前だけは助けると言って氷の要塞の中に案内して、最終的に取り込むことで更なる力を得る狡猾さもあったので非常に厄介でした。最終的には招いた魔術師の反撃で簡単に倒れるんですけどね。

 ともかく、ルリム・シャイコース本体は巨大と言ってもたかが知れていますが、奴が篭もるこの氷の要塞だけは本当にシャレにならないので、COCよりはメタリックガーディアンとかカオスフレアとかに出したほうが良いタイプの邪神かもしれませんね。本体だけ出すと何かこう勿体無いですから。


【概要~神なの?~】


 こいつに関して一番話したいことはこれなんですよ。こいつ、神なのかどうか正直怪しい。元になった小説を読んでみたんですけど、ルリム・シャイコース自身が、自らを神のように言う台詞は有るのですが、特に地の文で神であるとは言われていないんです。やけに尊大かつ若干小物っぽくて、しかも相手が優れた魔術師とは言え不意打ちでさくっと倒されている。要塞の力は凄い癖にこいつ自身はちょっと微妙なんです。

 ルリム・シャイコースが創作された当時は旧支配者とか外なる神とかそういう概念がまだハッキリとしていない比較的ふわっとした時代だったので明確にしづらいんですよね。とにかく星の彼方から来た強大な存在であることは分かるのですが、本当に神として扱われるかは疑問です。


 そこで「白蛆襲来」を書いたC.A.スミスの初期の草稿を利用してリン・カーターが書き上げた「極地からの光」を見てみると面白い記述が見つかりました。

 この中ではルリム・シャイコースがアフーム=ザーというクトゥグアに仕える神を崇める集団のリーダーであるとされていたのです。クトゥルフに対するダゴンのようなものだろうかとか考えてしまいますね。ただクトゥルフに対するダゴンの位置はアフーム=ザーが占めている訳で、なんか微妙な立ち位置ですよね。旧支配者なのですが、比較的下級ということになるのでしょうか。

 アフーム=ザー自体がリン・カーターの創作なので、上手いこと自分の作品のために利用した形になりますが、恐らくリン・カーターも「もしかしてこいつ自身は神ってほどのものではないのでは?」と思ってこういう設定ねじ込んだんじゃなかろうかと考えさせられてしまいますね。


 あと個人的に気になったのが僕の大好きなCOCサプリ「比叡山炎上」で、ボスの魔術師が巨大な白い蛆のようになってPCを追いかける描写有るんですよね。この魔術師は「妖蛆の秘密」から学び、ルリム・シャイコースの力を得て変身しているということです。魔術で変身できるのならば、もしや元々のルリム・シャイコース自身も、アフーム=ザーへの信仰を高める中で魔術を磨き、その結果として変身した魔術師だったりするかもしれないと思ったんですよ。

 そういう設定を作ると今回のエッセイで名前を出した作品達の描写が全部噛み合いますし、もしかして……と考えてしまいますね。

 魔術師を積極的に取り込んでいた設定も、ルリム・シャイコースが自らの力を高めようとしていた元魔術師だと考えればマッチするのではないでしょうか。


【最後に】


 はい、此処まで好き勝手考察しましたが、正直な所C.A.スミスはそんなこと全く考えてなかったと思います。

 ただ、自分の作った神々がそんな設定を加えられて色々な人に使われるとか憧れますよね。俺の肩の上に後進が立ってる! みたいな驚きと喜びにあこがれてしまいます。憧れません? 僕は憧れます。自分が創作した神が当たり前のように皆に使われている光景とか超見たいです。

 C.A.スミスはこの点において天才的な手腕がありまして、以前DEN助様が美少女化して挿絵を書いてくださったツァトゥグアもC.A.スミスの創作なんです。かの御仁が作り上げる神はキャラが立っていて、造形の描写も興味深く、作品の題材にしたくなる要素がたっぷり盛り込まれているんですよ。なのでDEN助様にお勧めしたという背景が有ったりします。

 さあ! 皆さんも自分だけの邪神を作って作品を作ってみよう! そして僕にそれを使わせて下さい! ということで今回の講座を終わりにさせてもらえればと思います。

 

 最後にもう一度宣伝です。

 僕の書いた「邪神任侠」の書籍版が、アマゾンで予約注文できるようになったみたいです。

 ヤクザで薬剤師のお兄さんが、旧支配者に取り憑かれた少女を守る為に、命と正気度を捧げながら、過去の因縁に対峙する作品となっております。クトゥルフ神話を知らない人でも楽しめるように工夫してあるので、まだクトゥルフ神話そんなに知らないよ!という人こそ逆に読んでみて欲しいと思っています。

 大人の読むエンタメ小説としてノベルゼロ様に拾っていただいたので、若干大人向けになっている部分もありますが、試しに手を取ってみてくだされば幸いです。このクトゥルフ講座が潤うので……本当に……。


 それでは宣伝も以上となります。

 本日もお付き合いありがとうございました。

 くれぐれも次回まで闇からの囁きに耳を傾けぬよう……。

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