第三回 深きものどもってなぁに?

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 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。

 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


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【初めに】


 皆さんお久しぶりです。sealです。

 ニチアサの時間帯が少しずれるのでゆっくり見ることができるようになると聞いてホッとしている今日このごろです。

 なんかカクヨムメルマガの女性からの人気ランキングで三位に入っていたみたいですね。びっくりしました。ですが、クトゥルフ界隈も今や女性の方が多いらしいので、そう考えると成る程順当といえば順当なのかもしれません。

 だというのに、わりとろくでもない話ばかりしてしまっている当作品ですが、今後も生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。


 さて今回のテーマは近況ノートで頂いたリクエストから「深きものどもディープワンズ」です。私が初めて彼等に出会ったのはデジモンアドベンチャー02の13話「ダゴモンの呼び声」でした。クトゥルフの呼び声とか、クトゥルフ神話とか、まったく分からないなりに、普段と違う性的エロティックな雰囲気、そして理解不能の不気味さを感じさせる異様な回だったことを覚えています。


 今回の記事を書くにあたって見返しましたが、やっぱやばいですねこれ。出鼻からクトゥルフ降臨するわ、デジモン文字が「ルルイエの館で死せるクトゥルフ、夢見るままに待ちいたり」だわ、隠す気も無いクトゥルフぶりです。

 そのデジモンからはイービルスパイラル(敵のボスが使うデジモン用の洗脳器具)外すな!!!!

 と叫びながら視聴してしまいました。


 これはデジモンカイザーが、本物の神話的存在をデジモンのデータ世界に押し込め、神々に連なるものとしての本質を剥ぎ取り、デジモンという存在に歪曲した上で、イービルスパイラルというくびきを嵌めることで本当に危険なものを制御しようとしていたのかもしれません。


 最初にヒカリちゃんがハンギョモンに「デジモン?」って聞いた時に「分からない。神に仕えてきたのに……」とか「ある日突然イービルスパイラルを嵌められた」とか言っているんですよね。完全にアウトですよ。


 途中で襲い掛かってくるエアドラモンだってあれ「駆り立てる恐怖」とかの類ですよきっと。デジモン世界の皮を被せられているからああなっているだけで。本当はもっと冒涜的に違いありません。そもそもエアドラモンだって「新たなる神の遣い」とか言ってますけど、デジモンカイザーが遣わしたものと確定した訳じゃありませんし。実に怖い。


 ざっくり結論を話すとデジモンアドベンチャー02の13話は「デジモンカイザーがせっかく封印していた旧支配者の封印を、選ばれし子供達が解放してしまった」という可能性が有るお話でした。すごいよね。


 ティガも見てたし、この頃の子供達は自分も含めて相当な英才教育ミーム汚染受けてますね。今日の動画配信サイトを通じた若年層のクトゥルフブームは案外この辺りに端を発しているのかもしれません。となると次はしまじろうかトミカハイパーレスキューあたりでこっそりクトゥルフネタをやるしかありませんね。「しまじろうのいあ!」とか「トミカハイパーボリアゼロドライブ」とかどうでしょう。どの業界でも若手の育成は重要です。


 さて、のっけからデジモンの話で突っ走ってしまいましたが、今回のテーマはあくまで「深きものどもディープワンズ」。

 クトゥルフ神話には欠かせない愉快なキャラクターです。

 ただ、非常によく出るキャラであるがゆえに、こいつの解説のリクエストは、いきなり「チャーハンを頼むよ」と言われた料理漫画の主人公並に緊張してしまいます。


 とはいえ基本的な事項だけ抑えておけば、大分神話世界に馴染みやすくなるのも間違いない所なので、ぜひともざっくりとご覧くださいませ。


【概要~深きものどもってどんなやつ?~】


 深きものどもというのは、クトゥルフ神話の顔である旧支配者クトゥルフを信奉する魚人の一族です。

 だいたい魚のような顔と、たるんだ首の皮に良く似たエラ、鱗で覆われた皮膚などが特徴です。魚人と一口に言っても、その異形の度合は様々で、地上での行動にさして問題無いものも居れば、歩行がひょこひょことした不自然な歩き方になったり、発声が不自由になることもあります。

 あからさまに異形であるほど、祖たる神に祝福されているとして、深きものどものコミュニティでは歓迎される傾向にあります。ゲーム的には身体能力が上がる分、知的能力に問題が起きるような傾向がありますね。


【概要~深きものどものコミュニティって何?~】


 今、コミュニティという言葉が出てきましたね。魚というだけあって、見た目のみならず社会的な能力まで人間と同様に(下手したらそれ以上に)持っている深きものどもは世界各地で彼等のコミュニティを作っています。

 有名なのは皆さんご存知アメリカのインスマスですが、それ以外にも日本の夜刀浦市、東シナ海周辺の海運、ニューオーリンズのクトゥルフ教団に秘奥を伝えた老僧が潜む中国奥地、太平洋に点在する島々。はっきりした名前が出ることは少ないですが、海辺であればほぼ何処にでも現れると仮定して良いでしょう。少々の陸地ならば当たり前のように踏破されますし、何より彼等は現生人類が発生するよりはるか前から大いなるクトゥルフに仕えてきたのですから。


 基本的にこういったコミュニティは、深きものどもが豊漁や財宝を引き換えに人間に対して生殖行為を迫った結果、発生したものです。有名な例として今挙げたインスマスのダゴン秘密教団が有ります。

 クトゥルフのコーナーでも説明しましたが、この教団には以下の掟が有ります。

 一つ、教団に危害を加えぬこと。

 一つ、教団の計画に対して金銭や労働力の提供を行うこと。

 一つ、深きものの連れ合いを作り子供をもうけること。

 前のクトゥルフのコーナーでも言いましたが、美少女深きものどもが来てくれるなら僕は大歓迎ですね。人口減少中、労働力減少中、税収減少中の日本を救う救世主になってくれるかもしれません。若干魚臭い程度なら港町の生まれなので慣れてます。大丈夫。でも魚フェイスだけは勘弁な!

 この記事を読んでいる旧支配者の中でお心当たりの方は夢の中までご連絡下さい。即応いたします。

 

【概要~深きものどもってどこから来たの?~】


 さて、現生人類が発生するより遙か前って何時頃からなんでしょうね?

 現在メジャーな説は地球に固有な生物がクトゥルフの影響で進化したという説です。

 私も、人間やイルカと交配できるという深きものどもの特異な性質から地球由来であると考えるほうが自然に思えます。わざわざ地球外生命体が人間やイルカと交配するのって相当手間だと思うんですよね。高度な科学・魔術文明を誇った筈のクトゥルフの眷属にしては合理的ではないといいますか。


 深きものどもはルルイエの保守点検業務を行っている以上、数百万年前にクトゥルフが眠りに就いた時には既に居たことになります。

 しかし封印される直前の時期にわざわざ眷属を生み出す余裕があるとも思えません。先程お話した現地の生物を改造した説に則れば、そこからクトゥルフが地球に来てすぐに、地球の生物種を改造して生み出したと考えるべきでしょう。そうなるとクトゥルフが恐竜を主な乗騎に使っていたという記述が有ったことから、数千万年前から深きものどもはこの地球上に居たことになります。

 人間やイルカと交配できるという深きものどもの特異な性質から考えるに、ベースは哺乳類だったりするのでしょうか? 人間とイルカの共通点なんてそれくらいしか思いつきません。それでは次にこの点について考えてみましょう。


【概要~遺伝子工学の終着点~】


 深きものどもは異種同士で子供を作ることができます。現在、イルカと人間相手に交配を行っていることが確認されています。

 これが実は非常に困ったところでしてね。

 サーバルちゃんとイエネコのように近縁種の動物は子供を作れることが知られていますから、深きものどもだって近縁種となら子供が作れてもおかしくはない。

 ですが、人間とイルカは互いに近縁なのでしょうか?

 イルカ側の遺伝子をある程度組み替えることによって、人間にイルカの子供を受胎させ、人間がイルカを出産させることは可能であると調べた方が居ます。(気になる方は《I Wanna Deliver a Dolphin…》で調べてみて下さい)

 しかしながら、決して近縁という訳ではありません。イルカは哺乳綱鯨偶蹄目クジラ類ハクジラ亜目。人間は哺乳網サル目直鼻猿亜目。哺乳網以外、特に接点はありません。

 故に原理上できると言っても、わざわざ自らの遺伝子や人間の遺伝子を組み換えてまでこんなことをするかと言われると疑問が残ります。

 仮にこういったことを深きものどもができるとしても、それなら完全に試験管ベイビー作っちゃったほうが早い気がします。わざわざ性行為をする理由が見当たりません。となれば、行為そのものが魔術的な儀式なのでしょうか? そう、それが一番スマートな考え方だと私は思います。

 免疫機構や生殖システムの関係で本来受精できないものを、性行為を伴う魔術的なプロセスで無理矢理突破していると考えるのが一番辻褄が合います。交配した相手が持つ魔術への耐性によって、同じ混血児でも個体差が激しくなっていると考えると、インスマス面の人々の魚面度合いが異なるのも無理からぬ話なのではないでしょうか。


 ここでちょっと補足。クトゥルフ神話TRPGには別の生き物の肉や内蔵を自分に移植する魔術が有りますので、免疫機構の突破くらいならクトゥルフ神話の魔術を使えば可能であると私は考えています。


 さて、そう考えると、魔術で突破するにしても障害は少ない方が良いので、案外深きものどもも元は哺乳類だったのかもしれません。骨格的にも人間や類人猿の類に近いことですしね。

 魔術によって糖鎖の問題や免疫機構をくぐり抜け、染色体同士をつなぎ合わせてDNAにして、DNAからRNAを生み出し、RNAを元にタンパク質の合成を行い細胞分裂をしてもらって……大変ですね。もとより不可能には違いありませんが、少なくとも魚類を由来にするよりは余程マシだといえます。

 深きものども同士での交配においては、肉体的接触が好まれないという話があります。彼等にとっての性行為は、異種との交配の時のみ必要になる魔術的儀式なのかもしれません。

 いやはや面倒な話ですね。


 ところで、クトゥルフ2010ではこのあたりの深きものどもの血を色濃く継いだインスマス面の人々が、いかにして変異するのかについてのちょっとした読み物がついています。

 一定の年齢を迎えた場合に初めて働く遺伝子、細胞質中を漂っている状態から配列の中に入り込んでくる遺伝子、みたいな話だったような記憶が有るのですが、詳しいことは忘れてしまったのでこちらも読んでみてください。

 こういった挙動を制御する時に魔法と我々の理解する遺伝子工学が組み合わせてあるとしたら素敵だと思うんですよね。

 

【概要~生殖行為の意義~】


 で、此処まで来ると更にもう一つ疑問が湧いてきます。

 深きものどもがわざわざ面倒な手順を踏んでまで、人間やイルカと交配する理由ってなんでしょうか?

 何を言っているんだと思われたかと思います。

 でも実は深きものどもって人間より余程優れた種なんですよね。

 まず寿命では死にません。

 飢餓状態になると小型化して、活動が停滞するようなことはあるそうですが、物理的に殺されない限り生き続けて成長することになっています。

 そして彼等はその長い寿命に相応しい知的な存在です。科学や魔術に優れた適性を発揮しています。中にはテレパシーでショゴスを自在に操るものもいるのです。知性に欠ける深きものどもというのは、むしろ人間と深きものどもの混血が進んだコミュニティーで数多く描写されています。


 此処まで聞くとわざわざ人間と交配して子供を作る必要が有ったのか疑問に思えてきませんか?


 実はこの疑問の答えが、実は先ほど紹介したデジモンアドベンチャー02の中で示唆されています。

 この作品でハンギョモン達は「新しい神に対抗するために子孫を増やす必要がある」という言葉と「神が復活する時を待つ」という言葉を残し、消えていきました。

 デジモンでキーワードとなっているこの「進化」という言葉ですが、そもそも進化とは生物が世代を重ねることで発生するもの。これが深きものどもにとっては非常に重要なものだと考えられます。ほぼ無限の寿命を持つ深きものどもは、世代交代が起こりにくいと予測されます。故に、環境の激変が起きた場合に進化を用いた適応を行うのが非常に難しい。そこで異種交配を利用して、進化の可能性を探求しているのでしょう。環境変化への適合は魔術では補いきれない部分が有ると考えたのか、それとも神が復活する時まで一族の血統を確実に残したいと考えたのか、その両方か。

 いずれにしても、異種交配はこの地球上で彼等が生き残るために選んだ合理的な生存戦略だったのです。


【最後に】


 デジモンに始まりデジモンに終わる。

 そんな講義となりました。

 世代が世代なので仕方ないですね。心のふるさとですからね。

 ティガも大好きです。その関係でエヴァが見れませんでした。エヴァも好きなんだけどリアルキッズが見るならティガだよね!

 一番好きなエピソードは第二十七話の「オビコを見た!」ですね。


 さて講義も終わったし恒例の宣伝タイムだ!


 クトゥルフ神話×ヤクザ!

 ヤクザ薬剤師と神話生物幼女が北海道を舞台に探索活動を開始する!

 ヒグマvs深きものども、羊ケ丘で謡う黒き羊、ある冒涜的な魔導書を生み出した老魔術師への訪問薬剤管理指導、美唄における神との邂逅、すすきのに潜む邪教との対決、支笏湖に浮かぶダゴン秘密教団の影、函館上空に顕現せしシュブ=ニグラス

 全ての結末は此処にある!

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883167536


 という訳で人外幼女からバブミを感じておぎゃりつつ、トラウマ持ちの愛が重い系お兄さんを愛でつつ、本格的クトゥルフパニックサスペンスを追いかけることができる贅沢な話なので、ぜひとも読んでおいて下さい。


 それでは皆さん今日はここまでです。

 くれぐれも次回まで闇からの囁きに耳を傾けないように。

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