第一回 チャールズ・ウォードの奇怪な事件&神殿について

【宣伝】


 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。

 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


 アマゾンの購入ページはこちらです!

 http://amzn.asia/bzDadtK


【初めに】


 ヤクザ&クトゥルフ&北海道! 試される大地を舞台に、ヤクザが神を討ち果たす!

 クトゥルフ神話TRPG風味小説「邪神任侠~仁義なき探索者~」!

 現在カクヨムで公開、ノベルゼロコンテストに参加中!

 硬派な本格クトゥルフ神話となっております。

 大人向けにセルフ表現規制解除済みだから気をつけてね!

 リンクはこちらとなります!

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054883167536


 さて、宣伝が終わったところで今回の内容について軽く触れておきましょう。

 今回取り上げるのはラブクラフト御大が書いた二つの物語です。

 一つは「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」、もう一つは「神殿」です。

 「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」は、精神病院に収容された患者の失踪とその患者を幼い頃から見ていた医師の物語であり、ラブクラフト初期から描かれる混血への恐怖や己に秘められた狂気の血統などを描いております。また、小道具として後のクトゥルフ神話作品に出てくるネクロノミコンやTRPGでも有名な極悪攻撃呪文【萎縮】などもチラッと出ています。

 対する「神殿」は潜水艦乗りのナチス将校を主人公とした短編で、ある出来事を切っ掛けにして浮上不可能となった潜水艦で深海漂流続ける物語です。明確な固有名詞が出る分けでも無いし、神話生物や魔術師が出る訳でもないのですが、はこれこそラブクラフトの書いたクトゥルフ神話作品の中で至上のものだと思っています。


 まあ自分にとって最高ってだけなんで他にいくらでも面白い物があると思います。貴方の面白いを探して作者にこっそり教えてくれると今後の創作の為に助かります。


 当然ですがネタバレ有り有りなので注意してくださいね。

 

【概要~チャールズ・ウォードの奇怪な事件~】

 

 あらすじはこうです。

 アメリカの片田舎プロヴィデンスにある精神病院から一人の患者が失踪した。

 患者の名はチャールズ・ウォード。

 彼は博学才穎はくがくさいえいの若き考古学研究者にして、神秘学にも踏み出した未来有る青年。

 しかし主治医のウィレット医師は、チャールズ青年の様子がとある旅行の前後を境に豹変したことを奇異に思い、追跡を開始します。

 その結果、チャールズ青年の祖先に魔術師と呼ばれ忌み嫌われた男が居る事がわかり、どうやらチャールズ青年が祖先の研究に興味を持ってしまったらしいことがわかります。

 続いてウィレット医師がその研究の内容について調査を開始し、チャールズ青年の祖先が行った死者を蘇らせ隷属させる研究の冒涜的な内容について解き明かしていきます。

 最後には、チャールズ青年に成り代わる形でこの世界に蘇った祖先を、ヨグ=ソトースと思しき存在に助力され、ウィレット医師が【萎縮】の呪文に類似した魔術で討伐します。

 

 この間、三人称で祖先の悪行やそれを追いかける過去の人間の物語が挟まれるのですが、

 繰り返します。

 同じものをwebで読んだら即ブラバしかねない。

 ラブクラフトの作品の中でも執筆から発表まで特に時間がかかったとされるのも、無理は無い話です。なんと執筆から十四年後、死後に発表されています。

 本筋だけ抜き出すと面白いし、描写も見事の一語に尽きるのですが、もう嫌になるくらい長い話なので心が欠けそうになります。

 それに登場人物の感性も、現代の人間とはかけ離れたものとなっているので、現代の我々が読むと今一「解せぬ……」という気分に陥ること間違い無しです。

 皆のアイドルことショゴスたんが出てくる「恐怖の山脈」と同等の長さです。とにかく長い。死ぬ。


 でも無駄に長い訳じゃないんですよ。

 と、言いたかったのですがごめんなさい長すぎます。

 錬金術や占星術、悪魔学などの様々な蔵書、それに並ぶネクロノミコン。そして大量の冒涜的な実験生物の並ぶ地下のラボ。そしておぞましき魔術師ジョセフ・カーウィンの所業とその最期。いずれの描写も魅力的なんですが、とにかく長い。

 状況説明のような文章が延々と続き、集中力を失ったところに唐突に叩きつけられる精緻で悍ましいラブクラフト節。ええ、気合を入れて読まなければ消化不良不可避ですとも。


 ところがこの物語、クトゥルフ神話やそのパターンについて先に学んでおけば、一気に豪華な邪神満漢全席になるんですよ。

 冒涜的な神話生物、姿をちらつかせる神の名、随所に散りばめられた小道具、そしてTRPGでも見覚えのある魔術、何よりも本筋は実にワクワクする探索者の物語!

 なにせ主人公は作家と並んで探索者の花形職業である医師ですよ! 高いINTで余計な事に気づいて酷い目に遭い、それでも固い信念で冒涜的存在の喉元へと喰らいつく! 世間に賞賛されることなく正義を為し、人の世を守る探索者の理想の姿がそこにあります!

 なので長すぎる文章を正面から受け止めることができる上級者向けの作品と言っても良いのではないでしょうか。

 これを読むことができれば貴方も立派な狂信者です! 


 ちなみにこの作品、何故SANチェックが起きるのかについての解説もついています! ただ気持ち悪いものを見ただけであそこまでおかしくなるなんてラブクラフト御大だって思っていませんよ! これは必見です!

 簡単にまとめるとですね。神話生物が持つその姿にはある種の暗示的な作用が有り、一部の鋭い感性の持ち主は、その中からこの宇宙の真実を直観してしまうのです! この宇宙の真実、神々の脅威に無意識レベルで触れてしまうことで、SANチェックは発生するんです! このあたりの描写はクトゥルフ神話を楽しむ上で学ぶべき箇所なので、一度は目を通してほしいです!


 先にラブクラフト作品を読んで、クトゥルフ神話の魅力に気づいてからでなければとてもじゃないが最後まで読めぬ上級者向けの究極の一本。

 それがこの作品です。

 その積み重ねを裏切らぬ情報量を確約します。


【概要~神殿~】


 はい、打って変わって比較的読みやすい短編です。

 ですがそれでも読みにくい場合がございますので、その場合は田辺剛先生のお描きになった漫画「魔犬 ラブクラフト傑作集」(ビームコミックス)をお買い上げ下さい。

 大導師・田辺剛先生がクトゥルフ神話の新参入者ニオファイトの為に描き上げた美しき神話世界が其処には有ります。

 硬質なタッチと細やかな書き込みが、冷たく無機質な海中や潜水艦の中の風景にマッチして、恐怖を誘います。

 いや、それを言ったら「異次元の色彩(宇宙からの色)」が最高なんですが! でもね! 個人的にね! 好みというものが有ってね!

 ああそうそう「異次元の色彩」といえば、雪車町地蔵先生の作品「血眸」がめっちゃ面白いの読んで下さい! カクヨムで大人気公開中! エロス&グロテスクなホラー作品です!


 あらすじはこうです。

 第一次世界大戦中のある日、主人公の指揮するUボートが英国の貨物船を撃沈する。貨物船の乗組員の亡骸がUボートに打ち上げられ、兵士がその亡骸から象牙細工を奪い取って亡骸を海に捨ててから、Uボートでは奇妙な出来事や悪夢にうなされる者が現れる。

 そんな時、折悪しくUボートの機関が謎の爆発を起こし、主人公達は海中での漂流を余儀なくされる。

 追い詰められた環境下、主人公は暴動を起こす兵士や発狂した兵士を艦長として次々始末していくが、最後には部下のクレンツェ大尉という男と二人きりになってしまう。そのクレンツェもついには「俺は呼ばれている」と言って海の中に自ら魚雷管で射出される。

 最後に一人残った主人公は、潜水艦と共に海底の古代都市へとたどり着き、一連の事件についてまとめた手記を瓶に詰めて海中に投棄すると、自身は潜水服で海底の古代都市を調査するべく潜水艦の外へと向かったのである。


 驚くべきことにこの物語の中で、主人公は一切発狂らしい発狂をしません。INTが低すぎるのか、アイデアロールに失敗し続けます。ガリゴリSAN値は削れていくので、幻聴に悩まされるようにはなるのですが、自前の鈍感力を発揮して、最後まで冷静に状況を記憶し、手記にまとめ上げ、それを残すという偉業を達成してくれます。うーん、高難易度シナリオに一人は欲しい逸材ですね。

 ちょっとコミカルな表現をしてしまいましたが、何もない海中で追い詰められていく人間の描写、広大な海の中で鋭敏になっていく神経、当たり前に見えていた景色の中に垣間見える異常。人間の感じる恐怖をこれでもかと掻き立てる描写はラブクラフト作品の中でも随一の出来栄えと言って過言は無いでしょう。

 分かりやすい怪物や神々を書くのではなく、読んでいる人間の脳裏に想像せしむるホラー技巧の極致です。

 私もこういったものを書きたいと思いますね。

 狂っていない真っ当な人間が、しっかりと見据えた世界の中に、静かに浮かび上がり垣間見える狂気と恐怖、そして神話世界の影。それこそが本当に恐ろしいものであり、読者を狂わせる存在なのではないかと思います。


 後この作品、読むにあたって予備知識が要らないんですよね。

 そういう意味で初心者向けの作品になっておりますので、ラブクラフト御大は天才だぜぇ……って気分を味わいたい方は是非読んでみて下さい。


【最後に】


 という訳でいかがでしたか?

 今回はラブクラフト御大の名作を二本紹介させていただくだけの講義でしたが、楽しんで頂けたでしょうか。

 私は好きな作品を二つも語ることが出来たので滅茶苦茶楽しかったです。

 今度は私の大好きなタイタス・クロウシリーズについて語りたいなあとか思ってます。神話生物と殴り合いだ! ダイナミックなクトゥルフバトルだ! トンチキとか言われても気にしない! 神の与えし機械の体、唸れ必殺マーシャルキック!

 まあそれはさておき、ノベルゼロコンテストに現在私がお出ししている「邪神任侠」なんかも是非読んで下さい。

 シュブ=ニグラスとヤクザが血を血で洗う抗争を繰り広げる物語となっております。エロス&バイオレンス&グロテスクで、クトゥルフの一般的な悍ましいイメージに硝煙の香りをスパイスとして加えた大人のクトゥルフ神話となっておりますので。


 それでは皆さん今日はここまでです。

 くれぐれも次回まで闇からの囁きに耳を傾けないように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る