第13回 ハスターってなぁに? 改

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 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。

 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


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【初めに】

 海の底からこんにちわ。朝松健様、鋼屋ジン様、逢空万太様と同郷のsealです。自慢したかっただけです。北海道は神話的な存在と親和性の高い土地なのかもしれませんね。


 さて、ついにカクヨムエッセイコンテストのランキングが発表されました。こちらの「初めてでもよく分かるクトゥルフ講座」は何やら週間二十一位だそうです。これも皆様の応援のお陰でございます。今後共ご贔屓にしてくださいませ……と(当時は)書きましたが、現在(2016/07/09)でなんと15位まで上がってますね。最高順位だった時よりも少し下がったともいいますが、まあそれはそれ。最後まで頑張っていく所存です。


 という訳で挨拶はここまで。今回の紹介にいきましょう。ハスターです。あの「邪神様とご飯!」ではメインを張っていたりしますし、「這いよれ! ニャル子さん」では釘宮声のナイスショタとして降臨していますね。釘宮声のショタって卑劣だと思いません? ただでさえ可愛い少年が、釘ボイスでドーン。ぬるめの温泉に肩まで浸かった時のように、全身がとろけていくってもんですよ。


 そして何よりカクヨムホラー部門の、そしてカクヨムクトゥルフ作品群の雄である「仮面の夜鷹の邪神事件簿」では、主人公がハスターの信者として各地に迫る神話生物の魔の手を打ち破っています。


 スタイリッシュなアクション、匂いまで伝わってくるような濃密な描写、そして輪郭まで浮き上がってくるキャラクター達。いずれも圧倒的ハイクオリティで展開されるストーリーを貴方も一度読んでみてください。この作品無しでカクヨムのクトゥルフは語れません。


 拙作ケイオスハウル、そして何よりこのエッセイそのものがこの作品に大きな影響を受けています。一人でも多くの人にクトゥルフを楽しんでもらおうと思ったのはこの仮面の夜鷹が切っ掛けで、一人でも多くの人にクトゥルフを楽しんでもらう為にこのエッセイを書いている訳ですから。


 さて、それでは今日も講座を始めましょう。


【概要~どんな神様?~】


 風を司る旧支配者で、おうし座のアルデバランの近くに有るとされる暗い恒星、その星にある暗きハリ湖に封じられています。クトゥルフと言い、こいつと言い、邪神を封じたかったら水責めにしろと言わんばかりですね。


 クトゥルフを中心にルルイエが広がっていたように、ハスターの眠るハリ湖の岸辺にはカルコサという都市が存在します。二つの月と黒い建築物群が特徴的で、此処で初めてハスターを称える戯曲「黄衣の王」が上演されたそうです。


 外見は様々なパターンが挙げられておりますが、触手に包まれた巨大なトカゲや黄衣の王として知られる黄色いマントのような衣を纏う男といった姿が有名です。


 人を狂気に導き、圧倒的な力を以て破壊を齎す風神。そして穏やかなる羊飼いの神。大図書館を支配し、古代エジプトのセトとも結び付けられる知恵の神。釘宮声のショタ。釘宮声のショタ。非常に多様な側面を持っており一言には表現できないところがまた魅力だと言えるでしょう。


 アルデバランは古代ペルシアにおいて幸運の星として知られており、同じく幸運の星としてはフォーマルハウトが有名です。どちらも王家の星とされています。


 フォーマルハウト。ここまで受講した皆さんならば既に予習しているかもしれません。あのクトゥグアが領地としている星なのです。


【概要~他の神様との関係は?~】


 こういったフォーマルハウトとアルデバランの関係から取ったのかもしれませんが、フォーマルハウトを領有するクトゥグアとは同盟関係に有るとされています。


 だからといってクトゥグアの仇敵であるニャルラトホテプと対立している訳でも有りません。どちらかと言えば同類のような雰囲気です。


 ハスターをメインにした短編集として「黄衣の王」と呼ばれる作品が有ります。ここで描かれる黄衣の王という存在は、詩的な言い回しや人間の破滅を導いているのです。この回りくどいやり方は多くの人が知るハスターのイメージからは乖離しているのではないでしょうか? しかもニャルラトホテプの化身の中には黄色い衣を纏った司祭の姿も有ることから、事態は非常に厄介となっております。


 クトゥルフ神話TRPGではこの黄衣の王こそがハスターの化身であるとされていますが、その証拠は確認されていません。ラブクラフトはハスターという言葉そのものに意味を与えておらず、彼の熱烈なファンであるダーレスが設定の再整理によってハスター及び黄衣の王を旧支配者として定義しなおしたにすぎないのですから。


 異母兄弟であるクトゥルフとは不倶戴天の仇敵です。もしもクトゥルフを信奉する魚臭い連中に追いかけられたら、思い切って助けを呼んでみましょう。すると奉仕種族のビヤーキー君を送り込んでくれるかもしれません。クトゥルフの拠点に爆弾を仕掛けてビヤーキーで逃げるのがデキる探索者スタイルです。


 このビヤーキーはフーン機関で光速を超える移動を行い、人間の言葉も理解して共に旅ができるお利口さんです。見た目は恐竜の頭と蜂の胴体と蝙蝠の翼を混ぜたような奇っ怪な有様ですが、機会が有れば頑張って仲良くなってみましょう。ただし、乗る前には“黄金の蜂蜜酒”を飲まなければ生身で宇宙空間に放り出されるので注意してください。


 TRPGや小説でハスターを扱う際には是非一緒にこのビヤーキーも出してあげてください。クトゥルフに関連する存在をボスにしているシナリオで、少しプレイヤーや登場人物を追い詰めすぎた時はこの翼ある貴婦人ビヤーキーが実に良い脱出装置になるんですよ。


 逆にハスターがボスになっているとこのビヤーキーが恐ろしい敵になるので、これまた面白い。


 二つの勢力の微妙なせめぎ合いに右往左往するシナリオも良いかもしれませんね。


 ハスターとクトゥルフの対立の話は、sealが発表したのイカモノ魔法少女ノベル「A Big C」でもやっています。


 作家志望の高校生が二柱の神の対立及び友情と愛情の間で揺れる青春エンタメ異能バトルなのですが、主人公の親友はハスターの信奉者の一族で、ヒロインはクトゥルーの娘です。友情・愛情・どっちが上々? って感じで進む甘酸っぱい話なので☆とかレビューとかいっぱいくださいお願いします。


【概要~歴史~】


 このクトゥルフ神話はハスター神話になっていたかもしれない。そう言われるほどに、ハスターはラブクラフト御大とダーレス様の心を捉えた神です。


 クトゥルフ神話の神格としては最も早い時期に名前が明かされています。本来はラブクラフト御大が作った神ではなく、かの有名な悪魔の辞典(アンサイクロペディアの祖先みたいなもの)の著者であるアンブローズ・ビアスが書いた「羊飼いのハイータ」に名前が出た存在なのです。


 そりゃ人様の作ったキャラを看板にするのはアウトですよね。それに「クトゥルフの呼び声」こそがラブクラフト御大の神話世界が明らかにされた最初の作品なので、一連の神話の題名とするにはちょうど良いという事情も有ったりしたのです。


 さて、アンブローズ・ビアスがハスターを描写した後、ロバート=W=チェンバースが「黄衣の王」においてハスターという固有名詞を使用します。穏やかな神という今までのハスター像に、人々を破滅に追いやる邪神としての要素も加えられました。


 ですがここで一つ注意です。この時点ではまだハスターはクトゥルフ神話群に加わっていた訳ではないのです。


 そして1931年。闇に囁く者というラブクラフト御大の作品によってハスターとクトゥルフ神話の繋がりが示唆されます。此処で初めてハスターがクトゥルフ神話の一員として合流する訳です。


 この後は多くの作者がハスターを好き勝手使っては設定を盛り続けます。設定を盛られ続け、時には他の邪神と混ぜられたハスターはどんどん訳の分からないものになっていき、現在の両義的な性格を持った存在になった訳です。


 ハスターはクトゥルフ神話の「参加者が面白おかしく設定を盛っていける」という性質が強く反映された神となっているのです。


【最後に】


 ハスターについての説明はいかがでしたか?


 ニャルラトホテプに負けず劣らず変幻自在といいますか、最初から変幻自在な存在として設定されているニャルと違って、釘……黄衣の王としての鮮烈なイメージが有っただけにびっくりです。ちなみに日本では風魔忍者の皆様に信仰されていたとかいないとか。


 さて、これで旧支配者の中でも代表的な四柱について、説明していないのはクトゥグアだけになりました。


 このクトゥグアに関しては案外語ることが少ないので、どうしたものかと悩んでいるのですが、それでも最低限説明はしたいと思っているのでどうかお待ち下さい。


 それでは皆様、次に会う日までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬよう。

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